05 木曜日 ①
翌日の授業もつつがなく終了。あとは部活でIROかな。昨日はミオンの初回動画チェック&リテイクでIROできてないし。
「……」
「ん、行こっか」
クラスの女子からの視線が生暖かい。そして男子からは痛い……
「?」
「いや、なんでもないよ。昨日アップした動画が気になってるだけ」
誤魔化しつつも、本当に気になってる。
さすがにアップしたのが午後一一時前だったし、そこから今の放課後の時間までだから、二桁ぐらい、できれば三桁ぐらい再生されてると嬉しいんだけど。
「ああ! やっと来たわね!」
「ベ……香取部長、早いっすね」
「ちょっとすごいことになってるの! 詳しい話は中でしたいから、早く開けてちょうだい」
なんだろ? ともかく部室の扉の鍵を開けて中に入る。やることは決まってるっていうか、VRHMDを装着して起動。リアルビューのままでおけ?
「これを見て」
「これって昨日アップした動画ですよね……は!?」
再生回数がすでに一万を超えてて、チャンネル登録者数も三桁後半。四桁になるのも時間の問題だよな。ってか、
「午前中はそうでもなかったんだけど、昼を過ぎたあたりから一気に増え始めたの。これから明日にかけて、もっとすごいペースで増えるでしょうね」
マジか……ネタが強烈すぎた?
ミオンも驚いてるのか目をパチクリさせてるんだけど……
「大丈夫?」
『は、はい、大丈夫です。えっと、別にやめろって言われてるわけじゃないんですよね?』
「ええ、ほとんど全てが好意的よ。ショウ君のプレイの続きを期待している人と、ミオンさんのファンになった人、その両方って感じね」
「良かった……」
それを聞いてホッとする。まあ、特殊褒賞SPかなりもらったとはいえ、プレイ自体がすげえ厳しいし、誰かに助けてもらうことも、友達とも遊べない特殊プレイだし。
「サエズッターでも『無人島スタート』がトレンドに上がってきてるわ」
「うわぁ……」
SNS最大手のサエズッターでトレンドってマジか。
『ショウ君、サエズッターのアカウント教えてください』
「あ、俺やってないよ」
「あら、今時珍しいわね」
「ゲームのネタバレ見るの嫌なんすよ。ああいうのって悪気がなくても流れてきちゃうから、ゲームにマジになってる時はネット見ないようにしてます」
さすがに一周クリアした後とか、どうしても詰んだ時は調べるけど……
『むぅ……』
あとそんなさえずることないんだよな。今日の晩ご飯は何作ったぐらいしかないし。
そういや美姫はアカウント持ってたっけ? 帰ったら普段何をさえずってるのか聞いてみるか。
「ってか、俺がサエズッターのアカウント持ってたとしても、動画の内容話したりするのNGですよね?」
「当然よ」
俺だってわざわざそこでIROの無人島スタートのネタバラシをするつもりもない。そんなことしたら、絶対にめんどくさいことになるし。
「俺はなしでいいとして……」
『私のアカウントは鍵してあります』
「やるとしても別にアカウントを作った方がいいわね」
そりゃそうだよな。仕事とプライベートは分けて当然か。仕事ってか部活だけど。
そんな話をしていると、部室の扉が開いて現れたのはヤタ先生。走ってきた感じなのは、やっぱりミオンの初回動画が跳ねてることを気にして?
「先生、ちょうどいいところに」
「急ぎましたよー。まだ何もアクションは起こしてませんよねー?」
「はい。初回動画がこれだけ跳ねるとなると、次の一手はかなり慎重にならざるを得ないかと」
さすが魔女ベル。一年弱でバーチャルアイドルの上位勢に登りつめただけあって、いろいろと考えてくれてる感じ。
「それでー、今はなんの話をしてたんですかー?」
「SNS関連です。サエズッターでも『無人島スタート』がトレンドに上がってきているので、アカウントを作る方がいいのかという話を」
俺がSNSやってない話とか、ミオンは鍵アカなのでそれを宣伝に使うつもりはないこととかを説明するベル部長。
「そうですねー。当面はSNSとかはやらなくていいんじゃないかとー」
「今一気に知名度を上げるべきではないと?」
「はいー。動画の方向性がスローライフですしー、がっつかない方がゆるいファンを摑むにはいいかとー」
ヤタ先生のイメージでは、週に二度ほどの動画投稿。お知らせ含め、情報はチャンネルのみだけにして、スローペースでまったり層狙いということに。
「それにしても、このペースで行けばすぐに収益化できそうね」
「急に収益化できてー、ベルちゃんとミオンちゃん二人同時にスターになっちゃうとー、学校から変に目をつけられちゃいますよー? まあ、美杜は私学ですしー、あまりうるさいことは言ってこないとは思いますがー」
「去年は学校への寄付が五〇〇万でしたね。まあ、そのお金でこの機材を整えてもらったので文句はありませんが」
五〇〇万円!? ってか寄付で五〇〇万円ってことは、ベル部長はもっと儲けてるってことだよな?
そんな顔をしてるのがバレたのかベル部長が反論してくる。
「部員の皆には『魔女ベル』でどれくらいの収入があるかはちゃんと説明するわ。月末にでもね。あと美杜はバイトOKだからなんの問題もないのよ?」
「なるほど……」
ベル部長、収入は、ほぼほぼ貯金してるらしい。というか、ヤタ先生曰く、税金とかがめちゃくちゃ大変だそうで。
理事長から税理士を紹介してもらったりとかもしたので、今後も学校と仲良くやっていくために寄付金は必須っぽい。
「ほどほどにですよー。二年生は修学旅行なんかもありますしー、学業や学校行事も大事ですからねー」
「学校行事なんかよりもIROのライブ配信してたいんですけど……」
そうぼそっと呟いたベル部長をヤタ先生が睨む。怖い。
さすがに修学旅行をさぼってゲームは俺もないなとは思うけど。
〈ショウ君。今日はIROやりますよね?〉
!?
〈う、うん、やるよ〉
急にウィスパーされるとビクってなる。
妹の美姫や真白姉にだってそんなことされたことないし……
〈何時ぐらいになりそうです?〉
〈八時半ぐらいからかな〉
〈わかりました。その前に部室で待ってますね〉
普段の出雲さんと今のミオンとどっちが本物なのかわからなくなってくる。女子怖い……
◇◇◇
「ただまー」
「兄上おかえり! お風呂にするか? ご飯にするか? それとも……」
「飯で」
ありきたりなお約束はノーサンキュー。
結局あの後、動画についたコメントをチェックしたりでIROできなかったし、はよ飯食ってゲームしたい。
「連れない兄上よのう。中華丼を作っておいたので夕飯にしようぞ」
「おう、サンキュ」
作っておいたってのも、レトルトだよな。美姫に一から中華丼を作らせたら、台所が爆発する可能性がある。
「
健康のために副菜をサクッと作って添える。好き嫌いがわりとあっても残さない分、美姫はまだ扱いやすい。これが姉貴ならさらに
「いただきます」
「いただきます!」
ガツガツと美味そうに食っていた美姫がふと顔を上げて俺を見る。
「どした? 茶か?」
「いや、兄上は最近、乳くさいのだが女でもできたのか?」
「ぐふっ!」
危ねえ、中華丼吹き出すところだった……
「なんだお前、その『乳くさい』ってのは」
「制服に母上でも姉上でもない匂いがのう」
マジか。可能性があるとしたら、絶対に出雲さん、ミオンなんだが……
腕を組むとか、羨まけしからんことはしてないはずだけど。ブレザーの裾を摑んでたりすることがたまに……
箸をいったん置いて、掛けてあるブレザーの裾を嗅いでみる……わからん!
「ほう、身に覚えがあるようだのう?」
「げぇっ、お前まさか!」
「ふっふっふ、姉上から『翔太が部活の女の子と仲がいいらしいので、イチャコラしてたら処せ』と
マジかよ……ってか熊野先生から漏れてんじゃん! 個人情報保護法!
「まあ、兄上に彼女ができるなら、めでたいことだ。我から姉上にチクったりなどせぬ」
「おお! って彼女じゃねーよ! 同じクラスで部活も一緒なだけだって」



