05 木曜日 ②

「なんだ、つまらんのう。家に呼ぶようなことがあったら、我にも紹介するのだぞ? しなかった場合は……」

「させていただきます」


 まあ、あれだけ引っ込み思案なミオンがうちに来るなんてあり得ないと思うけど。


「ところでお前、DMってサエズッターの?」

「そうだぞ。兄上はやらんと聞いていたが、心変わりしたのか?」

「ネタバレ嫌だからやんねーって。それに真白姉にアカウントがバレようもんなら『あんぱん買ってこい』とか言われるに決まってる」


 触らぬ神にたたりなし。やっぱSNSには近寄らないのが一番ってことで……


◇◇◇


 飯食って洗い物して宿題やって八時過ぎ。そろそろ始めるか。

 ベッドに寝転び、VRHMDを被ってリアルビューに。フレンドリストを見るとミオンはもうオンラインでバーチャル部室にいるっぽい。

 ベル部長はIROでライブ配信中かな? 今週は木曜にやるって話だったし。


「ばわっす」

『ショウ君』


 嬉しそうに手を振って迎えてくれるミオン。次にアップする動画を編集してたっぽい? それをそばに避けて手を振ってくれる。


「それは次の?」

『はい。この間のゴブリンを追いかけたあたりまでかなって』

「いいね。でもなあ、あいつらどうやって倒そう……」


 現状の初心者装備でってのはちょっと無理そうだし、もちろん店はない。

 そうなると武器防具を自分で作らないとなんだけど、スキルは取得できたとしても、元になる素材はどこに……


『あんまり無理しないでくださいね?』

「あ、うん。ま、のんびりやりますか。じゃ、今日は西側をぶらっとしてくるよ」

『はい。いってらっしゃい』


 なんかこう……、ちょっといいかも……


◇◇◇



「よしよし、今日もちゃんとテントの中だ」


 表に出て、今日は西側……の前にミオン限定配信をオンっと。


【ミオンが視聴を開始しました】



『ショウ君、こんにちは』

「ようこそ、ミオン」


 カメラのある方に手を振ってご挨拶。


『今日はどういう感じですか?』

「今日は無人島の西側を探索してみようかなって」

『気をつけてくださいね』


 んー、久々にまともにIROプレイしてる気がする。装備を確認して、インベントリ確認して……大したものないな。


 早速、西側の方へとてくてく歩いていくと、少し草原というか草むらが続いた後、東側とはまた違う感じの森が見えてきた。杉とか松っぽい?


「東側は南国風だったのに、こっちは北欧風かよ」

『面白いですね。ゲームならではでしょうか』

「かな。でも、これでログハウス作るための木材の目処めどはついたかも?」

『ログハウスですか?』

「まあ、どうやって木を切るかって問題があるけど」


 伐採スキルを取っても斧がないんだよな。どっかに斧落ちてないかな。

 でも、斧を手に入れて伐採できるようになったら、次は大工スキルにのこぎりとかかなづちとかくぎとか……


「ん?」


 気配感知に弱々しい何かが引っかかる。


『どうしました?』


 答えると気づかれるかもなんで、手を軽く上げて答えになるかな? まあいいや。

 気配遮断のスキルを発動して、そろそろと何かに近づいていくと……


「クゥン……」


 は? いぬ? ああ、そうだ、鑑定を使えばいいんだ。


おおかみ?:軽傷】


 え? 狼? ってか『?』ってついてるのは鑑定のレベル不足か?


『その子、してませんか?』

「っぽい。えっと……」


 スキル一覧を出して検索。軽傷ってことは怪我だから、怪我を治すスキルを探す。

 一番良さそうなのは【神聖魔法】なんだけど、何か取得に制限があるのか取得不可の状態。


「うーん、神聖魔法取れないな。元素魔法は条件なかったのに……」

『じゃ、応急手当とか調薬とか?』

「それだ!」


 どっちのスキルも自分が怪我や病気の時に有効っぽいし取っておきたい。

 えーっと【応急手当】【調薬】を取得。あと【採集】も取得して、薬草を効率的に採れるように。残りSP28だし、まだまだ大丈夫。

 で、ろうに応急手当を……




【道具が不足しています】


「うへ、道具って包帯とかだよな。ここでどうやって調達するんだ?」


 というか、そもそもこれクエストっぽいし、周りにある何かで代用できてしかるべきだよな。

 ぐるっと周りを見回して……


せんにんざさ


「これ使えるか?」


 ぶちぶちっとむしってからの応急手当……


【応急手当に大成功しました】


「よっし!」

『すごいです!』


 こういう時は落ち着いてもう一回鑑定。


【狼?:軽傷(完治まで約12時間)】


 なるほど、こういうふうに出るんだ。うーん、ここに半日放置しておくのは、さすがにまずいよな……


「いったん、この子連れて戻るよ」

『はい!』


 インベに兎肉はあったはずだし、水は魔法で出せる。まずは治すために、しっかり食べさせないとだな。



「クゥ〜ン……」


 拾った? 助けた? 狼らしき動物は多分まだ子供。体のわりに足が大きいし。

 テントまで連れてきたはいいけど、地べたにってのもなあ。とりあえず流木を集めて、簡易の寝床でも作るか。


「っと、その前に水飲めるかな?」


 自分用に作った雑な木のコップに、元素魔法の浄水で水を注いで目の前に持っていくと……てちてちと飲み始めてホッとする。


『ちゃんと飲んでくれて良かったです!』

「IROすごいね。本物の仔犬拾ったみたいで、めっちゃ焦った」

『ホントですね。見てる方もハラハラしました』


 さて、お次は飯だが……インベントリから兎肉を取り出して、仔犬……仔狼の前に。スンスンと匂いを嗅いだ後、端っこにちょこっとだけかじりつく。


『肉が大きすぎるんじゃないでしょうか』

「ああ、そっか。さんきゅ」

『いえいえ』


 えーっと、どっかで切りたいけどまな板もない!


「ちょっと待ってろよ」


 ダッシュして東側の海岸沿いを漁り、そこそこに大きい平べったい石をゲット。小脇に抱えてダッシュで戻る。


「お待たせ。まな板がわりってことで……」


 一応、浄水の魔法で水洗いしてから、兎肉を載せる。細かく……もうひき肉とかにした方がいいのか?

 どうせいつかはと思ってたし【料理】を取得! これで兎肉をひき肉にするぐらいは失敗しないでくれよ……

 初心者のダガーでトントンとぶつ切りにしていって……こんなもんかな?


「食べられるか?」


 木皿に盛って鼻先に持っていくと、ゆっくりだけど美味しそうに食べ始めてくれた。


『可愛いです〜』

「小さい時は特に可愛いよね」


 うちは真白姉が犬にも猫にも恐れられるせいでペット飼えないし、IROでこの子飼えたりしないかね? テイム? 調教?


「ワフ」

「お、元気出てきたか?」


 もう一つ兎肉を取り出してひき肉に。雑なあらきって感じだが、パックで売ってるような綺麗なひき肉にしなくても大丈夫だろう。


『ショウ君ってすごく面倒見良いですよね。妹さんに夕飯作ったりとか』

「え? そう?」


 面倒見が良いっていうよりは、面倒を見させられ続けて、それがもう普通になってるっていうか……なんか悲しくなってきた。


『ショウ君?』

「あ、なんでもないよ。さて、西側の探索の続きに行ってくるかな」

『はい』


 ついでにこいつの分の兎肉、補充してこないとだな。


 仔狼? がいたあたりをうろうろしてみたものの、特にあの子を怪我させたようなモンスターは出ず。

 包帯として使えるっぽい仙人笹をたくさん採集。ついでに東側にも足を運んでバイコビットを二匹ゲット。

 テントに戻ってくると、仔狼は安心したのかすやすやと寝ていた。

 どうやらこのまま安静にしてれば良さそうでホッとする。


「今日はここまでにしとくよ」

『はい。ショウ君、お疲れ様でした』

「また明日かな?」

『はい、駅で待ってますね』


 あ、うん……

 ゲームの方のつもりで言ったんだけど、まあいいか。


◇◇◇


 ログアウトしてリアルビューに戻ってきたところで、


「兄上!」

「ああ、ちょっと待て」

刊行シリーズ

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