07 土曜日 ①
土曜日ってことでゆっくりと寝坊してから起床。
んー、一〇時前か。ちょっと寝すぎたかな……
「おは……」
「兄上、おはようには遅いと思うのだが?」
「お前、朝飯は?」
その問いに首を振る美姫。
ご飯は予約してあって炊けてるんだし、なんか適当に作れよと思うものの、今さらなんだよな。
「ちょっと待ってろ」
卵焼き、味噌汁、お漬物という和風な朝食を用意して食べる。
「で、お前は今日何か用事あんの?」
「いや、特にはないのう。だが、昼も夜も食材がない。買い物に行かねばならんと思うが?」
「連れてけってか。まあいいけど」
ずずずっと味噌汁を
この洗い物して、洗濯機回してからかな。掃除は戻ってきてからでいいか。
「なんか欲しいもんでもあんの?」
「いや? 兄上とお出かけしたいだけだぞ」
そう言ってにっこり笑う。
「……まあいいけど」
どっちにしてもIROは昼過ぎ。午後一時からって話をミオンとしてあるので、昼までに帰って来られれば大丈夫かな。
◇◇◇
「ちわー」
『ショウ君』
昼飯も終わって、まずはバーチャル部室の方へ顔を出す。手を振ってくれてるミオンだけでなく、ベル部長もいて何かを必死に見ているっぽい?
「二人は何を?」
『昨日の動画とお知らせについたコメントをチェックしてもらってます』
俺が席に着くと、ベル部長がそれを終えたようで動画を閉じる。
再生数が急に伸びた動画には、変な宣伝や怪しげなフィッシングサイトへの誘導とかが貼られるらしい。
俺とミオンとでやる予定なんだけど、今は量も多いしってことで手伝ってもらってると。
「再生数とかどれくらいになってるんです?」
「最初の動画が二〇万再生を超えてるし、昨日の動画も五万再生を超えてるわ。チャンネル登録者数は四〇〇〇人に届いてるし、収益化の条件はあっという間にクリアね」
「は?」
ベル部長の話だと、直近半年の総再生時間四〇〇〇時間以上、チャンネル登録者数が一〇〇〇人以上が条件らしい。
八分の動画が二〇万再生ってだけで総再生時間の方は楽々クリア、チャンネル登録者数ももちろんクリア。
「えーっと、もう収益化の手続きとか始めるんです?」
「もう少し先でいいんじゃないかしら。まあ、学校へは報告した方がいいでしょうね」
部活だけどバイトでもあるっていう関係で、ちゃんと学校の承認が必要。
去年、ベル部長の時にいろいろ
そりゃ、あんだけ寄付されりゃなあ……
「当面は普通に動画を投稿していけばいい感じですか?」
「そうね。週に二度ぐらいかしら。特にネタがなくてものんびりとした内容の動画をコンスタントにあげていくといいと思うわ」
まあ、実際、ミオンが可愛く喋ってるだけで満足するような気がするもんな。
『それなんですが、またショウ君が……。これはまだ編集途中なんですが、見てもらえますか?』
ミオンがそう言って動画を共有する。
またって何かあったっけ? って流し見してると……ルピか!
「……こんな狼は見たことないのだけど? この『?』がついた表示というのも初めてだし、種族の鑑定に失敗してるのかしら?」
動画は助けた日の話なので、そのまま応急手当をするわけで。
「待って待って。情報量が多すぎるわ……」
「応急手当って便利そうですけど、あんまり使われてないんですか?」
「ええ、神聖魔法を取得できるせいで、応急手当ははずれスキル扱いよ。でも、MPがなくても使える点や、この代用した『仙人笹』で大成功してるのも不思議ね」
ベル部長は
で、さらにミオンがもう一つの動画、こっちは未編集っぽいが、それを見せる。
「……」
あー、フリーズしちゃったか。
「調教スキル取ったプレイヤーとかっていないんですか?」
「クローズドベータでは未実装なんじゃないかって言われてたスキルよ?」
『オープンしてから試した人はいなかったんでしょうか?』
「これを見る感じだと、かなり友好的になった対象がいないと、そもそも取れない条件だったみたいね。
しかも必要SPが9のレアスキル。初期プレイヤーがいきなり取るにはハードルが高すぎるわ」
初期SP10のうち9使う勇気は俺にもないな……
「えーっと……どうしましょう?」
「どうしましょうも何も、これは公開した方がいいわ。
いわゆるテイマーを目指しているプレイヤーがいるのだけど、情報がなさすぎて様子見という状態らしいのよね。彼らがこれを知れば、具体的なアプローチも取りやすくなるでしょ?」
なるほど……
俺の時もまず取れるっていう状態になったのが驚きだったもんなあ。で、そこでさらにSP9って言われて引いた。
まあ、あそこで取らない選択肢はなかったけど。
「この子、随分あっさりとバイコビットを倒してるわね。これから成長すると考えると、調教はかなり強いスキルね……」
なんかルピも調教スキルも評価が高いのはいいけど、これでテイマーだらけになったら、それはそれでどうなんだろ。
いや、別に俺自身には関係ないからいいのか。島に苦情を言いには来られないし。
『ショウ君の行動自体はそんなに特別な気がしないんですが、他のプレイヤーさんたちは似たような状況になったりしなかったんでしょうか?』
「それはなんとも言えないわね。怪我してる動物を助けるなんてシチュエーションに、私はあったことないもの」
とベル部長。
「そういうクエストはないんです? 俺のこれってクエストかなって思ってるんですけど」
「ああ、なるほど。ギルドで受けるようなものではなく、何かしらのトリガーで始まるクエストってことかしらね……」
ふむふむと一人納得というか、考察の世界へと行ってしまうベル部長。
俺としては「無人島作ってモンスター適当に放り込んどいたから好きに遊んで」ってぐらいの作りだと思ってたんだけどなあ。それで十分だし。
『ショウ君、熊のことも話しておかないと』
「あ、そうだった。えっと、昨日、その奥を探索してたらですね……」
また驚かれるだろうなと思ったら、あのアーマーベアとかいう熊はそんなに珍しい相手でもないとのこと。ベル部長は既に倒したことがあるらしい。
「戦闘メインじゃないレベル3のキャラ、しかもソロじゃ、どうやっても勝てないわね。私とまわりのキャラレベが7で、五人がかりだもの」
って言われました……
◇◇◇
「さて、配信開始っと」
アーマーベアには無謀な戦いを仕掛けないようにと念を押された後、IROにログイン。いつものようにミオン限定にして配信開始。
ルピは起き上がった俺のあぐらの中におすわりして嬉しそうだ。
『ショウ君、ルピちゃん、こんにちは』
「ようこそ、ミオン」
「ワフン!」
ルピの挨拶が加わってなかなかいい感じ。ルピが賢いっていうアピールにもなるし。
『今日は何を?』
「今日は地味な作業になるかも? まずはスキル取らないとかな」
そう答えつつ、スキル一覧を開く。
探すのは美姫から授かった策に必要なスキル。失敗しても無駄にならないスキルだったので、試してみようという気になった。
「あった。【
『罠ですか?』
「うん。俺のレベルが上がっても、囲まれるとやばいのは間違いないだろうし、そうならないように下準備しようかなって」
美姫が提案してくれた作戦は、ゴブリンの集落から少し離れた場所に罠地帯を設け、そこに誘い込んでって感じ。
でまあ、罠関連のスキルはこの先のことも考えると無駄にはならないだろう。問題はどれくらいの罠が作れるのか不明な点だけど……
「罠作成と罠設置・解除がSP4、罠発見がSP1、合計でSP9。罠発見はいらない気もするけど、設置して忘れそうだもんな、俺……」
覚悟を決めてポチッと取得。これで残りSP19か。まだ全然大丈夫。この間の先駆者って特殊褒賞がでかい。
「さて、兎狩りしつつ罠スキルの使い勝手を調べてみるよ」
『ショウ君、その前にルピちゃんにご飯あげてください』
「ワフッ!」
はい……



