07 土曜日 ②
◇◇◇
島の南東、密林地帯の浅い場所をルピと散策している。
「ピスピスー!」
「ワフッ!」
ルピがバイコビットを楽々倒して、俺に「解体して」と差し出してくる。
「よーしよし」
しっかりと撫でて褒めてあげてから、サクッとバイコビットを解体。
【解体スキルのレベルが上がりました!】
「おっと、先に解体のレベル上がっちゃったか。って【バイコビットの皮】だって」
『いいですね。
「なるほど。罠とかいろいろと使い道ありそうだよな」
ん? 皮から革にしないとなんだよな? そういうスキルが必要なのか後で調べないとだよな。
「お、この
『罠にですか?』
「うん。スネアトラップっていうのが一番楽かなって」
映画とかでよくある足に輪っかが引っかかって
しっかりした蔓を確保し、ついでに硬そうな枝をいくつか確保。多分これで大丈夫? 罠設置を発動しながらあたりを見ると……
【罠設置可能です:スネアトラップ】
ちゃんとどういう罠を設置できるか教えてくれた。
「試しにこの木のところに設置してみるよ」
『はい!』
設置したい場所を意識すると、頭の中に手順が浮かんでくるので、その通りに手を動かして設置完了。
「ルピ。危ないからあの辺には近づくなよ?」
「ワフ」
わかってますって感じのドヤ顔。俺より賢いし大丈夫だよな。
その後も、数カ所に同様のスネアトラップを設置してからテントへと戻ってきた。
『あの場所だと、ウサギモンスターがかかったりする感じですか?』
「多分ね。それ以外にも何かいるかもだし、ちょっと期待してるかな。夜にログインしたら、確認に行こうと思ってる」
『楽しみです。それまでは何を?』
「うーん……、特に考えてなかったんだよなあ。流木削って食器でも……あ、先にルピ用のフライングディスク作ろう」
MMORPGなんだし、モンスター狩って、経験値とお金貯めて、キャラも装備も強くしてってのが普通なんだろうけども。
『ルピちゃん、良かったですね〜』
「ワフ〜」
なんかこう、ルピにミオンの声が届いてるっぽいんだよな。配信してるとルピにも聞こえてるとか?
ルピと海岸をぶらぶらと散歩しつつ、適当な流木を拾っていく。っていうか、
「ルピ! それっ!」
「ワフッ!」
なんとなく靴っぽい形の流木を投げると、それに向かって駆け出すルピ。うん、まあそうだよなって思ってたら……
【投擲スキルのレベルが上がりました!】
「えっ、こんなことで上がるんだ……」
『レベル5まではすぐ上がるらしいですよ』
「なるほど。まあ、最初の方はさくさくレベル上がる方が『やった!』って感じあるもんな」
レベル1から2になるのに一ヶ月もかかってたら、その間に辞めちゃうか。
『ショウ君、たくさんスキルあるから、どれも全部上げていかないとですね』
「まあ、ほどほどにかな。一人のんびりするために必要なスキルは、そのうち上がると思うし」
「ワフ」
あ、うん、もう一回ね。
なんだか投擲スキルばっかり上がりそうな気がしてきたな……
◇◇◇
【石工スキルのレベルが上がりました!】
そこからルピと遊びつつ、あっちこっちで鑑定、採集してスキルレベルを上げ、戻ってきてから木工、石工、料理もやってスキルレベルが2になった。
木工と料理はまだダガーを使ってできるけど、石工がちょっと大変だったかな。石同士を打ち合わせて硬いものを選別し、それを使ってかまどとまな板を新調したところ。
『お皿やコップが増えると家が欲しくなりますね』
「そうなんだよなー」
『前にログハウスって言ってましたけど、予定とかあるんですか?』
「一応はね。でも、まだ秘密」
今のところは、あのゴブリンたちを掃討してそこにって考えてる。
あいつらちょっと開けたところに生活してたし、いったんそこに拠点を移して、そのスペースに小屋でも建てたいところ。
「さて、そろそろ夕飯の支度があるから落ちるよ」
『はい。そういえば今日、駅前で買い物してましたよね? 隣にいたのは妹さんですか?』
「え、うん、そうだけど。見かけたなら声かけてくれればいいのに」
『私がリアルで声かけれるわけないじゃないですか』
あ、うん、そうでした……
「まあ、美姫も……あ、妹の名前ね。俺とミオンの動画見てるし、IROもやってるし、来年は美杜来るって言ってたし、電脳部にも入るだろうから、そのうち会えると思うよ」
『そ、そうなんですか。緊張します……』
「大丈夫だって。あいつ、頭いいけどお子様だし」
うん、これバレたらまたサーロインコースだな……
◇◇◇
夕飯を作って、食って、洗い物もして、宿題も終わらせたら八時半をまわってしまった。
慌ててVRHMDを被ると、ベル部長もミオンも先生も部室にいるっぽい。
「ばんわー」
『ショウ君』
「来ましたねー」
あれ? 待ってた感じっぽい?
今日はベル部長の配信もないと思うけど……
「すいません、何かありました?」
「気にしなくていいわよ。特に何かあったわけじゃなくて、ミオンさんのチャンネルを収益化できるよう進めるって話ね」
「一週間で条件を突破するとは思いませんでしたねー」
そう言いつつ、ヤタ先生が一枚の書類をミオンに渡す。
「学校へのバイト許可申請書ですか」
「はいー。早いうちに出しておいた方がいいかなと思いましてー。今ここで書く必要はありませんよー。ちゃんとご両親に説明してオッケーをもらってくださいねー」
ちゃんと申請書類とかあるんだ。いや、普通そうだよな。
『ショウ君』
「ん? どうしたの?」
『収益化した時のお金、どうしましょう?』
「どうって、ミオンのお金じゃないの?」
『ショウ君のゲームプレイを実況してるんですよ?』
「う、うーん……」
確かにそうなんだけど、編集は全部ミオンがやってるし、そもそもチャンネルがミオンのだしなあ。
「というか、ベル部長はどうしてるんです? やっぱり親御さんの口座に?」
「いえ、ちゃんと自分の口座を作ったわよ。そうしておかないと、親の副収入みたいな扱いに取られかねないもの」
「な、なるほど……」
チャンネルを収益化したら、当然、振込先口座が必要になるそうで、それはベル部長─香取鈴音─名義の口座にしてあるらしい。
で、そこから学校に寄付したり、必要なゲームソフトをガンガン買って、必要経費ってことにしてるんだとか。
「IROを始める前はいろんなゲームに手を出して、それを実況配信してたのよ。でも、ゲームなんて当たり外れはやってみないとわからないでしょ?」
「まあ、そっすね。前評判高かったのに、実際にプレイするとテンポが悪くてイラつくとかありますし」
「事前にある程度のリサーチはしていたけど、やっぱり自分でやって面白いゲームの方がライブの盛り上がりも違うものね」
さすがというかセルフプロデュース力が高すぎる……
「まー、実際に収益化するまではしばらくありますからー。その間にミオンさんとショウ君でしっかり話し合っておいてくださいー」
『はい』
「りょっす」
「あとー、次の動画の投稿はいつでしょー?」
昼に編集してたし、週明けには投稿できるんだろうと思うけど。
「火曜日の予定です」
「じゃー、月曜に見せてもらいますねー」
結構しっかりしてるよなあ、ヤタ先生。まあ、そうでないと姉貴の担任なんて務まらなかったよな。
「えっと、じゃ、IRO行っても?」
「どうぞー。あ、ライブの練習ということでー、私は一ユーザーとして見させてもらいますねー」
「わかりました」
ベル部長も見たそうな感じだったけど、今日はIRO内で懇意にしてるユーザーとの約束があるそうで。
MMORPGはゲーム内の人付き合いも重要だよな……俺はやらなくていいけど。
◇◇◇
「ワフッ!」
「っとと、ちょっと待ってくれ、ルピ。配信しなきゃな」
いつものようにミオン限定配信を開始。すぐに視聴者数が1になる。
『ショウ君、ルピちゃん、こんにちは』
「ようこそ、ミオン」
「ワフ」
さて、まずはルピにご飯かな。てか、テントの中が作った木皿やらコップやらでいっぱいだ。



