第4話 旧世界の幽霊 ⑧
「安全装置……、いや、確かに壊したけどさ。そういう問題か?」
『あれで一度だけ最大出力を出せるようにしたのよ。本来は刀身の保護や切れ味の向上などに使用するエネルギーを、刀身崩壊の制限を無視して使用できるようにね。そこまでしないと、人を装備や壁ごと切断するような真似は流石に無理よ』
アルファは当たり前のことのように答えている。それが余りに普通なのでアキラも納得しかけたが、やはり完全に納得は出来ず、微妙な表情を浮かべていた。
「……いや、それでも結構危険じゃないか?」
『正しい方法で使用する限りは安全な道具を、意図的に危険な方法で使用したのだから、当然凄く危険よ。でもそれは普通のことでしょう?』
「……まあ、確かに、そうか」
無理に否定することでもない上に、アルファに言われたことでもあって、アキラも一応は納得した。だが危険なものという認識は消えず、そのような物が普通に出回っているという旧世界に対する偏見を深めた。
アルファが少し得意げに悪戯っぽく笑う。
『さて、私のサポートには満足してもらえたかしら。遺物を一つ駄目にしたとはいえ、アキラがあんなに無理だと言っていたハンター二人を倒したのだから、たっぷり感謝してくれてもいいのよ?』
軽い冗談のような態度を取っていたアルファに対して、アキラが真面目な顔で頭を下げる。
「ああ。おかげで死なずに済んだ。ありがとう。俺は多分、さっきまでアルファのことを信じ切れていない部分があったと思う。ごめん」
アルファも態度を改めて優しく微笑む。
『気にしないで。これで信じてもらえたのなら嬉しいわ。それで、これからどうする? 当初の予定通り遺跡探索に戻る? それとも今日は帰る? アキラも疲れたでしょう。疲労を押して続けても非効率だからね。無理をする必要は無いわ』
アキラが難しい顔で悩む。
「……本音を言えば、疲れたから帰りたい。でもまだ何も収穫が無いんだよな。買取所で前回の分の金を払ってもらう為にも、何か持って帰らないと……」
『それならここの探索だけでもしましょうか。私も一緒に探せば、普通のハンターなら見落とす遺物も見付けやすくなるわ』
アキラはアルファの提案通り、このビルの探索だけして帰ることにした。探索の収穫はハンカチが数枚。酷く汚れており、普通のハンターなら見向きもしない物だ。アキラもアルファから旧世界製の品だと教えてもらえなければ無視していた。
それでも一応は収穫としてビル内の探索を打ち切ると、後はカヒモ達の所持品を可能な限り手に入れてから都市へ戻っていった。
ビルにはカヒモ達の死体だけが残された。ハンターが他のハンターを襲い、返り討ちに遭った者が未帰還となる。それは東部で幾度となく繰り返されてきた光景だった。



