第6話 信じる ⑤
だがアキラはその後も標的をしっかり直視した。恐怖を嚙み殺して銃の構えを維持し、凶悪な顔に照準を合わせて、再度引き金を引く。再び外れる。腕の震えに加えて、標的が移動目標に変わったことで狙撃の難度は跳ね上がっている。そう簡単には当たらない。
それでもアキラはしっかりと標的を見続けた。最後まで真面に命中せず、結局は襲われてしまい、映像の生首が一つ増えてしまったが、最後の最後まで、しっかりと敵の姿を直視していた。
「次だ!」
同じことが繰り返される。地面に転がる生首が増えていく。それでも続けていく。
「次だ!」
そして何度目かの後、息を整え、集中し、恐怖を覚悟で握り潰した一発が、目標の頭部に命中した。完全な弱点ではなかったが、それでも敵の動きを鈍らせる一撃だった。
駆け寄ってくるウェポンドッグの速度が落ちている。アキラはその頭部を狙い続ける。そして遂に、頭部に無数の銃弾を食らったウェポンドッグは、アキラを殺す前に、その手前で息絶えた。
アルファが笑ってアキラを称える。
『やったわね。これでようやく……』
「次!」
アキラは真剣な表情を崩さずに次を催促した。アルファが少し意外な顔を浮かべた後に、不敵に楽しげに笑う。
『良いわ。どんどんいきましょう』
再び映像のウェポンドッグが表れる。その日、アキラはずっとその訓練を続けていた。
◆
その日の夜、アキラは夢を見た。夢の中でアキラは以前と同じようにウェポンドッグに追われていた。
タイミングを合わせて振り返って銃撃しろ。誰かにそう言われた気がするが、それが誰かは分からない。そしてその合図も一向に来ない。アキラは必死に逃げ続けていた。
だが急に何かに気付いたような顔を浮かべると、真面目な表情で振り返り、ウェポンドッグに銃口を向けた。銃はAAH突撃銃に変わっていた。
訓練の時と同じように、相手の姿をしっかりと見ながら、銃の照準を冷静に頭部に合わせる。そして強固な意志を乗せて引き金を引く。対モンスター用の銃であるAAH突撃銃から、銃弾が勢い良く撃ち出された。
頭部に無数の銃弾を浴びたウェポンドッグは、元々歪な頭部を更に歪に変形させて、アキラの手前で息絶えた。
そこで目が覚める。場所は宿のベッドの中で、まだ夜だ。
「……ふん」
アキラは軽く笑って目を閉じた。そしてそのまますぐに眠りに就いた。
また同じ夢を見ても、もう悪夢にはならない。



