01:恋知る人々

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 私は人の心が読めると、そう自惚うぬぼれた事はないだろうか。


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 よくある話だけど、私は人の心が読める。

 昔からだ。

 子供の時は何かイメージ? 色みたいなものが伝わってきていて、小学校に入ったあたりから文字になって、三年生くらいの時には完全に言葉だった。

 初めはそういうものかと思ってた。皆、口を閉じたり、背を向けていても言葉を外に放り出しているけど〝そういうもの〟なんだって。


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 違和感はあったんだ。

 だって私もいろいろと言葉を作ってるんだけど、


「アンタは無口な子だねえ」


 とか言われるのがしばしばあった。否、確かにあまりもの考えないでボーっとした時間多いし、しゃべる方もアレだけど、そういう言い方はちょっと無いんじゃないかな的な。

 でも子供心に、〝無口〟という評価でも、自分が他と違うのはうれしかったのだろう。

 私は無口になった。


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 確定したのは、中学二年のときだった。

 帰宅するため、教室を出て昇降口への階段を降りていたとき、後ろから男子の言葉が聞こえたのだ。


『うおっ、パンツ!』


 その階段は外からの光が入る窓を持っていたため、まあ簡単に言うと、階段が光を下から反射するとスカート透けるよね、と。一瞬、訳わからなかったけど、すぐに状況に気付いてスカート押さえて振り向いたら、他のクラスの男子が何事も無さそうに階段を降りていった。


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 私はにらんでいた、と思うけど、その子はこちらをちょっと気にしつつも降りていって、私は〝シラを切られた!〟と、そんな風に思ったのだ。

 だがそのとき、また言葉が聞こえた。


『おお、パンツ見えてる系女子……!』


 やはり階段の上からだった。

 流石さすがひどい。

 だけどパンツパンツ言ってる訳にもいかないから、私は言葉を作った。


『やめてよそういうの……!』


 だが彼らは、何事も無かったように通り過ぎ、降りていき、言葉をこう作ったのだ。


『やべえ、気付かれた?』


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 気付いているよ。決まってるじゃん。

 だけど彼らはこう言ったのだ。擦れ違いながら、


『まあ大丈夫。気付かれてない。スルー』


 いや気付いてるって。だけど、


『やっぱ見えるなあ、ここ。──がとう御座いました!!』


 どういたしまして、……とか言うかこの野郎。

 だけどちょっとオープン過ぎないか君。


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 おかしい、と思うよね。

 向こうの言葉は聞こえてくるけど、こっちのは届いてない。

 そのまま男子に突っかけても良かったけど、無口キャラだ。ついでに言うと、実はちょっとそれなりに評判い。だからキャラ作ってる訳じゃ無いけど、ここでけんみたいな……、というより、実はちょっとビビった。

 何か、訳が解らなかったのだ。

 それまで信じていたルールが、実はおかしいんじゃないか、と。


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 初め、自分だけが閉じてしまったのかと錯覚した。

 他の人の言葉はこちらに届き、皆もそれは同じだけど、自分だけ言葉を外に出せない。

 スマホのマイクが、私だけ壊れてしまった感覚。


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 そうなるとちょっと困った。

 これまで家族で食事をするときとか、何も言わなくてもテーブルに出てない調味料を寄越してくれたり、出てなかった箸を出してくれたりとか、そういうのがあったのだ。

 だけどその夜、夕食の時、私はこう言葉を作った。


『お水、もらえる?』


 意識して、何の素振りも見せなかった。いつもはどうだったろう。ちょっと食器棚の方とか見ただろうか。ただ、自分が発信できているかどうか調べたかったので、そうしてみた。


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 すると無視された。


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 何度思っても駄目だった。


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 だから私は、母の方を見た。すると母は、私が何も思ってなかったのに、


「あ、グラス出してなかったわね。御免なさい」


 と、グラスと水が出てきた。


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 そして私はグラスを受け取り、


『有り難う』


 と言葉を作るのをやめて、言ってみた。


「有り難う」


 すると母は明らかに驚いた顔をした、と思う。


『どうしたのいきなり。いつもそんなこと言わないのに』


 そう言葉を作って、こう言ったのだ。


「どういたしまして」

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