プロローグ はじまりは婚約破棄から ③
「まったく……新学期早々に王宮主催のパーティーを中止にした挙げ句、
「今度から気をつけまーす」
「雲よりも軽いな、お前の言葉は」
「仕方ないだろ? あの場をメチャクチャにしとかないと、それこそシャルロットの身に何が起きてたか分かったもんじゃない。何より、暴れた方が『シャルロット様は極悪非道の第三王子に陥れられたのだー』って感じの演出にもなるし」
「シャルロットを救った点に関しては褒めてやろう」
静かなる賞賛。しかし鳩の眼光は鋭い。使い魔のくせして
「……が、お前のとった手段が気にくわん」
「どこが」
「なァにが『極悪非道の第三王子』だ。なぜお前は毎度のことのように自分を粗末にする?」
「俺はどうせ『忌み子』だし、それ抜きにしたって周りの評判なんざ地の底。悪評の一つや二つ増えたところで今更だ。むしろ自分の悪評を利用した素晴らしい逆転策だと褒めてほしいぐらいだぜ」
「だからお前のそういうところを直せと……」
親父がまた何か言いかけたようだが、ここでいつまでも言い争っている場合ではない。それも分かっているのか、ふう、とため息をついた。鳩がため息つくとかシュールだなオイ。
「……いや。今回の一件で、よく分かった。お前には首輪が必要だとな」
「
「それは出来ん。既に決まったことだ」
……なんか、嫌な予感がするぞ。既に決まったこと? どうりで俺の呼び出しに数日もかかったはずだ。親父め、その間に何かしらの準備をしてたってことか。
「喜べ。我が息子、アルフレッドよ。お前に婚約者が出来たぞ」
「────は?」
本来、王族として生まれたからには結婚は避けては通れぬ道だ。
しかし、これまで俺に婚約者というものはなかった。それもそうだ。王族としては呪われた子である
何しろ現・レイユエール王家には王族の血を継ぐ子らが俺も含めて五人もいる。
ましてや俺は第三王子。無理に婚約者をあてがう必要性は薄い。何より『忌み子』が歓迎されるはずもなく────ということだったんだけど。
「もしかして
「たわけが。本気に決まっているだろう」
「……
「人聞きの悪いことを言うな。先方に打診し、了承を
「誰だよ。そんなもの好きは」
「陛下。アルフレッド様の婚約者をお連れしました」
俺の言葉に応えるかのよう現れたのはマキナだ。……あの野郎。親父の
「うむ。入りなさい」
「……失礼します」
聞き覚えのある声。聞き慣れた声。入室してきたのは、長い金色の髪をなびかせた少女。
「────シャルロット……!?」
入ってきたのは紛れもない。シャルロット・メルセンヌその人だ。
いや、そうだ。そうだけどそうじゃない。しまった。
「ほう? 気に入ってくれたようだな」
俺が動揺したのを見て鳩の表情は変わってはいないが、声だけで分かる。この使い魔の向こう側にいる親父は狙い通りとばかりに笑っていることだろう。
「……クソ親父。どういうつもりだ」
「お前の立ち回りで『シャルロットはルシルという女子生徒を裏で迫害していた加害者』という
親父の指摘は俺も気にしていたことではある。俺が打開策を編み出す前に先を越されたか。
「シャルロットの扱いは今後難しくなる。とはいえ、是非とも王家に迎え入れたい人材であることに揺るぎはない上に、元はこちらの不始末だ。王家で責任をとるというのが筋というものだろう」
「それがなんで俺の婚約者なんだよ。とうとう
「理由は四つ。一つ、枠が開いているのがお前ぐらいしかいない。二つ、シャルロットの希望を
首輪? どういう意味だ。ますます分からん。……が、ここは先に、
「四つめは」
「四つ……これは、まあ……噂だな」
「噂?」
親父の言葉を継いで、今度はマキナが口を挟む。
「ぶっちゃけて言うとですね、アル様。今、学園では『アル様が愛するシャルロット様を、第一王子から奪い取るために策を弄した』って噂が流れてるんですよ」
「…………は?」
「つまりあれです。略奪愛っちゃってます」



