二節 新魔王戦争

十二.不信 ②

「そうなるだろう。私は魔王自称者だ。こうは……王国は、魔王を名乗る者に容赦を与えたことはない。例外なく討伐の手が入る。そうなれば、私はこのリチアを守らなければならない」


 それも、民に用意する建前だ。タレンはこの戦いに大義を掲げるつもりはない。そうでなければ、強大なるこうに勝つことは不可能であろう。


こうは王国時代より続くじんぞく至上主義だ。リチアが彼らに下れば……」


 ──レグネジィの群れも生きていくことはできない。

 カーテとレグネジィは、タレンが最初に彼女らをいだしたその時からともにいた。カーテは、レグネジィが人々を救う天使なのだと信じたがっているのだろう。だからこそ、目の見えるタレンの口からレグネジィの正体を告げてはならない。

 ──彼が人に害なす、共生不可能の鳥竜ワイバーンであるということを。


「うん、大丈夫。ただの、子供のわがままだから……でも」


 カーテはスープに口をつけた。食が進んでいない。


「お母さんは本当に、戦いのためだけに私とレグネジィをかくまってくれているのか、知りたくて」

「何度も言った通りだ。お前達には重大な戦術的価値を置いているし、それ以上の理由は必要ではない。だからお前も、私を母と呼ぶべきではないのだ」


 言葉の通りだ。タレンは将として、カーテと、彼女に付き従う鳥竜ワイバーンの兵力を利用している。どれだけ親子のきずなを育もうとも、その前提がある限り彼女は決してカーテの母親にはなれない。


「……幸せに、なれるかな……」

「お前やレグネジィがか?」

「お母……タレンさまも。戦争に勝って、リチアが豊かに……安全になったなら、皆、幸せに暮らしていけるのかな……」

「案ずるな。私は無敗の将。いましめのタレンだ。こうとの小競り合い如き、すぐさま終わらせるとも」


 小さく溜息をついて、タレンは、カーテの体を優しく支えて立たせた。


「今日はもう眠るといい。お前は余計な心配を抱え込みすぎているようだ」

「ええ。……おやすみなさい。お母さん」

「また言ってしまっているぞ、カーテ」


 そうした言葉とともに浮かべる笑いがどれほど心細く、将に相応しくなかったとしても、盲目のカーテには、その顔を見られないままでいられる。それが救いだった。


「おやすみなさい。タレンさま」

「ああ。おやすみ」

刊行シリーズ

異修羅X 殉教徒孤行の書影
異修羅IX 凶夭増殖巣の書影
異修羅VIII 乱群外道剣の書影
異修羅VII 決凍終極点の書影
異修羅VI 栄光簒奪者の書影
異修羅V 潜在異形種の書影
異修羅IV 光陰英雄刑の書影
異修羅III 絶息無声禍の書影
異修羅II 殺界微塵嵐の書影
異修羅I 新魔王戦争の書影