第7話 レベルドレイン ①

「すげえ! こんなに大きなドラゴンを一撃で倒したぜ」

「でも、このドラゴンは『ベビードラゴン』なんだろう? 軽く全高十メートル以上はあると思うんだが……」

「つまりこいつがベビーに見えるぐらい、さらに巨大なドラゴンが存在するわけだ」

「ダンジョンって怖いな」

「でも、ダンジョン探索情報チャンネルの配信者はそういうドラゴンが出るダンジョンをいくつもクリアーしているんだろう? 編集された動画は定期更新されているし、うそはついてないと思うんだ」

「だろうな。それにしても、勇者が日本人って本当なのかな?」

「らしいぞ。動画投稿サイトの運営会社は、報酬を日本に振り込んでるってうわさだからな」


***


 ダンジョン探索情報チャンネルの配信者は日本人という情報が漏れた……とは思わない。

 動画投稿サイトの運営会社の情報管理は完璧だからだ。

 日本語で配信しつつ、世界各国の言語の字幕を入れているのだから、配信者が日本人なのは最初からわかっていたことであった。

 コメント欄に書き込んだ人は、軽くうそをついているのだろう。


うえこうえんダンジョンの四十六階層に出現するポイズンボアのお肉は非常に美味ですが、毒がある部分があるので、これを確実に除去しなければいけません。内臓も食べられるところと食べられないところがあるので、決して間違えないように。フグなんて目じゃないほどの猛毒です。一口でも食べると死にます。ですが、そのお肉はジューシーでとても美味おいしい。今日は、生姜しょうがき、トンカツ、角煮を作ろうと思います。次回更新の後半では、ベーコンとハムを作る様子と試食の様子も公開しますよ」



 やはり、ポイズンボアのお肉は美味おいしいな。

 日本のブランド豚のお肉よりもはるかに美味おいしい。

 俺は簡単に狩れるけど、先日日本のトップランカーである留学生たちがようやく三十七階層にたどり着いたところなので、自由にポイズンボアの肉を食べられるのは俺ぐらいであろう。


「トンカツ、いいよねぇ」

「角煮はお酒にも合いそうです」

「職権乱用だなぁ」


 冒険者高校の理事長室において、いわ理事長と、レベル26アサシンなかは、俺からせしめたポイズンボア料理をたんのうしていた。

 俺を特別クラスに配属する件について呼び出されたはずなんだが、賄賂……と呼ぶにはセコイ要求をしてくるとは……。


「ポイズンボアのベーコン楽しみですね」

「アメリカにいた頃、ベーコンをフライパンでカリカリになるまで焼いたものが好きでした。楽しみにしています」


 レベル26アサシンなかは、色々と不祥事を起こした校長の後釜に座っていた。

 いわ理事長の腹心ぽいので、二度と先日のようなことがないように、手綱を引き締めるためであろう。

 なお、教頭も一緒にクビになっている。

 最初、彼らを校長と教頭として送り込んだ文部科学省が文句をつけてきたそうだが、証拠と共に彼らの悪行を突きつけたら、二人はすぐに切られてしまったそうだ。

 トカゲの尻尾とは哀れなものだ。

 文部科学省は、本来人事に介入できない私学ではあるが、きゅうきょ立ち上げられた冒険者高校がそう簡単に新しい校長を用意できないと踏み、自分たちに都合のいい後任を用意していたのだけど、すぐにアサシンなかを校長に任じ、泰然としているいわ理事長に屈するしかなかった。

 彼は教員免許を持っており、なんとアメリカの学校で教えた経験もあるのだという。

 というかいわ理事長、どこでレベル26アサシンなかを拾ったんだ?

 これぞそんたくの極みであろう。

 そして俺は、Eクラスから特別クラスに編入となった。




「そういうことで、俺はクラスが変わります。では」

「俺は……ふるはやるやつだと思っていたんだ。俺の心の友よ!」

「さすがだな!」

「私たち、友達よね?」

ふる君って、彼女いる?」


 理事長室を後にして、俺は特別クラスに向かおうとしたのだけど、ここでEクラスの担任であるとう先生が余計なことを言い出した。

 最後にみんなに挨拶をして行けと、半ば命令したのだ。そのせいで現在非常に面倒なことになっている。

 どうやら彼女に悪気はないようだが、今では俺はこの人がかなり嫌いになっている。

 前回会った時から一ヵ月もっていないのだが、ますますEクラスの駄目な生徒たちに寄り添うように……びるようになっていたのだ。

 いくら彼らが落ちこぼれでも、ダンジョンに潜ってレベルは上がっている。

 一方、教員としての仕事が忙しくてダンジョンに潜れないとう先生は弱いまま。

 彼女は、Eクラスの生徒たちが怖くて仕方がないのかもしれない。

 事情はわかるが、だからといって俺を巻き込んでいいという理由は存在しないんだけどなぁ……。


「(誰が友達だよ! 彼女? あり得んわ!)」


 俺はいまだに彼女というものはできたことがないが、少なくともEクラスの女子たちはゴメンだ。

 先日助けた特別クラスの三人に比べたら……その前に、今まで散々俺をバカにしていたくせに、よくそんな男とつき合いたいなんて平気で言えるよな。

 もしかして、のうが鳥なのか?

 それと、常に先頭に立って俺をバカにしていたヤンキー。

 なにをどうすると、俺と友達だなんて言えるんだ?

 漫画のようにそう都合よく、友情は芽生えないと思うぞ。


ふる君、たとえ特別クラスに移ったとしても、古い友達は大切にした方がいいわよ」

「いや、古くもないし、そもそも友達じゃないですから」


 どうせ最後だからと、適当にあいわらいで誤魔化そうとしたのだけど、頭にきてつい言い返してしまった。

 とう先生は、これまで俺が散々クラスメイトたちからバカにされているのを見てきたくせに、よくそんなことが言えるものだ。

 自己保身のためとはいえ……いや、結局自分が一番わいいからこそ、俺を犠牲にしようとしているわけで、彼女は善人でもなんでもないのか。


「あのね……若い頃には誰でも失敗があると思うの。ふる君は特別クラスに行けるほどの能力があるのだから、寛容な心で、みんなに手を差し伸べた方がいいと思うわ」

「……」

「そうだよ! 俺は反省しているから!」

「私たちは友達だよね?」

「私、以前からふる君って格好いいって思ってたの」


 せっかく冒険者高校に入ったのに冒険者としてまったく成長ができず、Eクラスでくすぶっているだけでなく、レベル1のノージョブであった俺を見下してストレスを発散していた。

 それが一転、俺が特別クラスに移るという話を聞いてきた途端、こびを売ってきた。

 貧すれば鈍するというか……彼らの目的はレベリング目的で俺に寄生することだろう。

 俺を格好いいなんて言っている女子は、まさしく寄生目的だと思う。


「(俺は心に決めている。恩には恩で、あだにはあだで。前の校長と教頭に優遇されて上のクラスにいた連中もいるな。こいつらが冒険者特性を持っているとろくなことにならない。『レベルドレイン』)」


 俺はこのままEクラスを去ろうと思ったのだが、彼らのような人たちが冒険者特性を持っていても世の中のためにならない。

 ならば、それを奪うのみだ。


「お話にならないな。二度と俺に関わるな」

「てめえ! 今の校長に気に入られているからっていい気になりやがって!」

「夜道は気をつけて歩けよ!」

「人権侵害とセクハラで訴えてやるわ!」

「私の彼氏、年少に入っていたんだけど。後悔しても遅いわよ」


 彼らに台詞ぜりふを吐いてから教室を出ると背中にありとあらゆる暴言をたたきつけられた。

 だが、俺の心には響かない。

 そして気がついていないのか?

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