第7話 レベルドレイン ②

 俺がうえこうえんダンジョンの最下層部で鍛錬した結果、本来モンスターのレベルを下げるスキル『レベルドレイン』が進化し、とう先生と元クラスメイトたちの冒険者特性を取り上げることに成功していることに。

 まあ、どうせ早く気がつこうが遅く気がつこうが、どうせお前らの実力では奪われた冒険者特性を取り戻すこともできまい。

 そもそも、強力なモンスターや実力のある冒険者に『レベルドレイン』は通用しない。

 そんなに使い勝手のいいスキルではないのだ。

 なのに、一人も俺の『レベルドレイン』に抵抗できなかったということは……Eクラスの連中は、かえって冒険者特性なんてない方が幸せかもしれないな。

 同じく冒険者特性がなくなったとう先生も、この学校の教師をクビになるな。

 あとで、存分に絶望に浸ればいいさ。

 そして、一日も早く第二の人生を見つけることだ。


***



「今日はいつもよりも調子がよかったな」

「ああ、スライムの効率のいい倒し方を習得しつつある」

「とはいえ油断はできない。一瞬の判断ミスで押し潰されてしまうから」

「そうだな。あの巨体に押し掛かられたら、冒険者特性がない俺たちなんてよくておお、下手をすれば死んでしまうからな」

「ああ、冒険者特性があればなぁ……」

「ないものねだりをしても仕方がないさ。そんなものがなくても、なるべく優れた装備をそろえ、スライムの動き方を研究し、五人で連携して討伐すれば下手なサラリーマンよりも稼げるんだ。冒険者特性がない俺たちは、ダンジョンに潜れる期間が短いかもしれない。ちゃんとお金をめて、第二の人生に備えようぜ」



 世界中にダンジョンが出現したことで発生した大不況により、俺たち五人は勤めていた会社からリストラされてしまった。

 転職しようにも新しい求人はなかなかなくて、俺たちはこれまでの貯金や退職金をはたいて装備を購入し、ダンジョンに潜ってスライムを狩り始めた。

 俺たちに冒険者特性はないけれど、しっかりと準備をして工夫をすれば、かなりの数のスライムを倒せる。

 報酬を五人で分けても、前職よりも圧倒的に稼げていた。

 ただ、冒険者特性がある人たちとは違って、レベルアップの時に発生する能力のアップや、加齢の停止、若返りなどは期待できない。

 二日間ダンジョンに潜って、一日を完全休養日にしているけど、いつまでもできる仕事ではない。

 今のうちにお金をめて、次の人生に備える。

 俺たち五人の考えは一致していた。

 俺も子供が生まれたばかりなので無茶できないが、俺たちのように冒険者特性がないのに、頑張ってスライムを狩っている人たちは多いのだから。


「たった三日間とはいえ、ランダムシャッフルタイムのせいでダンジョンに入れなかったのはつらかったな」


 内一日は最初から休日の予定だったので実質二日間分だが、二日分の実入りがなくなると、最底辺のスライム狩りにはつらいものがある。

 俺たちはサラリーマンじゃないから、成果がなければ収入にならないのだから。


「しかし、命あっての物種だ」

「そうだぞ。ダンジョン探索情報チャンネルの忠告を無視して死んだ冒険者は結構いるらしいじゃないか」

「三日間は家族サービスができたし、気分を切り替えていけば」

「それもそうか」

「それにしても、ダンジョン探索情報チャンネル様々だな」


 それは言える。

 ダンジョン探索情報チャンネルがなければ、冒険者特性がない一般人が比較的安全にスライムを狩れるようになるまで、長い時間と多くの犠牲者を出していたはずなのだから。


「ダンジョンに潜る者なら、全員がダンジョン探索情報チャンネルを見ているはずだけど、忠告を聞かないやつってのはいるんだな」

「自分に過剰な自信を持つ者は多いし、冒険者ってのは、ようは個人事業主だろう? ランダムシャッフルタイムは、出現した強いモンスターから絶対にレアアイテムをゲットできる。チャンスと見る人の行動を、他人が止めることは難しいんじゃないかな?」

「強くなれれば、いつか挑戦してみたいけどな」

「難しいだろうがな」


 俺たちには冒険者特性がない。

 今から過酷なトレーニングを積んだとて、劇的に強くなるわけではないのだから。

 やはりレベルアップできないとな。


「冒険者特性を持った年寄りとか、まずダンジョンに潜らなそうな人たちがもったいないって思ってしまうよな」


 冒険者特性の出現に、性別、年代による差はないようだ。

 日本人は冒険者特性の出現率が世界で一番らしいが、とにかく老人が多いので、他国に比べて冒険者の数が多いということもなかった。

 日本はダンジョンの数も多く、平均階層が深い。

 そのため、優れた成果を獲得できるところが多いと、ダンジョン探索情報チャンネルでも言っていた。

 だから、海外から多くの冒険者特性を持つ人たちが日本に集まりつつあるのだ。


「どうせダンジョンに潜らないんなら、そいつらの冒険者特性を分けてくれないかな?」

「そんなムシのいい話あるものか」

「あるかもしれませんねぇ」

「「「「「えっ?」」」」」


 うえこうえんダンジョンを出てうえ駅まで歩いていたら、道端で占いをしている老婆に声をかけられた。

 無視してもよかったが、俺たちはなぜかその老婆の声に引き寄せられてしまったのだ。


「冒険者特性、欲しいかい?」

「あればレベルアップするから、スライム以外のモンスターも倒せるようになる。欲しくないわけがない」

「十万円はお持ちかな?」

ばあさん、あんた……」

「信じるも信じないも自由だよ。それに、今は五人で仲良くやっているあなたたちだが、冒険者特性を得たばかりに、仲間割れをしてかえって不幸な結末を迎えることもある。どちらを取るのもあなたたち次第ってやつさ」


 なんとも占い師らしい言い方だが、気になって仕方がない。

 十万円支払って冒険者特性を得られるのなら、世界中から多くの人たちがこのばあさんの元に押し寄せるはずだ。

 絶対に詐欺のはずなんだが……。


「十万円ならある。本当に冒険者特性が手に入るのか?」

「本当は無料であげてもいいんだけど、私はその人の覚悟を知りたいのでね。とはいえ、あまりに高額にしてしまうと、これはこれで、やる気もない金持ちやその一族たちに独占されてしまう。それともう一つ約束がある」

「約束?」

「実は私は神の遣いでね。冒険者特性とは、ダンジョンに潜るために神が与えた才能。それを腐らせ、さらに悪徳の多い人間は……まあそういうこともあるってことさね。神様も忙しいから、絶対とは言えないけどね。今回の件はできる限り内緒にしてほしい」

「十万円だな」


 十万円という金額がある意味嫌らしかった。

 ものすごく大金というわけではないが、はしたがねでもない。

 もしかすると……とかすかに思わせる金額なのだ。


「五人で五十万円、確かに受け取ったよ。手の平を見てみなさい」

「手の平? あっ! レベル1戦士って表示されている!」


 本当に、冒険者特性が……。

 いつの間にか、この老女が手の平に油性ペンで書いた……なんてことはあり得ないし、何度こすっても落ちないから本物だろう。


「俺は、レベル1武闘家だ」

「私は、レベル1魔法使いだな」

「俺は、レベル1僧侶」

「僕は、レベル1盗賊だよ」


 五人とも、一斉に手の平に表示が出た。

 これでますます、このばあさんがこっそりと手の平に油性ペンで……なんてことはあり得なくなってしまった。


「随分とバランスがいいねぇ。毎度あり。老婆心からの忠告としては、力を手に入れたことに浮かれ、無茶をして死ぬというパターンがとても多い。今人気のダンジョン探索情報チャンネルでも何回か忠告しているからねぇ。ではこれで」

「えっ?」

「消えた?」


 俺たちに冒険者特性をくれた占い師のばあさんは、こつぜんと姿を消してしまった。

 その後、買取所の隣にある冒険者センターで確認をしてもらったところ、俺たちは本当に冒険者特性を得ていた。

刊行シリーズ

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