第7話 レベルドレイン ③

 驚いた職員たちに事情聴取されたのだが、占い師のばあさんのことを話すわけにいかない。

 それを話した結果、せっかく得た冒険者特性を失ってしまう可能性もあったからだ。


「明日からの希望が見えたな」

「スライムをいっぱい倒してレベルを上げれば、二階層のゴブリンもいけるはずだ」

「ゴブリンは、魔石と鉱石の質がいいらしいからな」

「しかしながら、調子に乗って無謀な行動をするのは危険だろう」

「それはあれだろ。自動車の運転免許を取って、運転に慣れてきた頃が一番事故に遭いやすいという」

「注意してやっていくしかないな」


 その後も俺たちは、五人でパーティを組み続けた。

 結局、ダンジョン探索情報チャンネルの配信者や日本や世界のトップランカーたちには及ばなかったが、それでも冒険者としてはかなりの成功を収めることができたので、あの占い師のばあさんには感謝の言葉しかない。

 その後、俺たちと同じように冒険者特性をもらった人たちが占い師のばあさんの情報を暴露していったが、特にペナルティーはなかったようだ。

 ただ、せっかく冒険者特性をもらったのに、素行が悪かったり、ダンジョンに潜らなくなった者たちから冒険者特性が消え、占い師のばあさんを経由して他の人間に冒険者特性が移っていく事例が多発するようになった。

 わずか数年で、冒険者特性を得ていたがダンジョンに潜らない、主に年寄りたちから冒険者特性が消えてしまったらしい。

 この現象はたまに海外でも見かけられるようになったが、圧倒的に日本での事例が多かった。

 冒険者特性を十万円で譲渡してくれる占い師のばあさんの正体を探る動きがいくつも起こったが、結局その正体は判明しなかったようだ。

 あの老婆は、本当に神のお遣いだったのかもしれない。


***



「へえ……、Eクラスのほぼ全員が、他校に編入ですか……」

「この学校の入学条件である、冒険者特性を失ってしまったからね。かといって彼らは努力家でもないし、人間性も決していいとは言えない。それよりも、冒険者特性を持っていたにもかかわらず普通の高校に通わざるを得なかった生徒たちを編入した方がいいからね。独自にダンジョンに潜っていて成績優秀者が多かったから、かえってよかったんじゃないかな」

「それはよかったですね」

「ところでふる君。なにかやった?」

いわ理事長じゃないんですか? 俺にそんな能力はありませんよ」

「……まあそういうことにしておこうかな。世間では、ダンジョンに潜らない冒険者特性をもつ人たちが、それを失ってしまう事例が多発しているね。その代わりかどうか知らないけど、冒険者特性がないのに真面目にダンジョンでスライム狩りをしている冒険者たちが突如それを獲得してしまう事例もあるとか。不思議な話だね」

「正しい努力をしている人には、なんらかのごほうがあるんだと思いますよ」

「なるほど。とにかく生徒たちの入れ替えは終わったから、ふる君は今日から特別クラスの教室に行ってね」

「どうせほとんど出席しませんけど、初日くらいはちゃんと顔を出さないと駄目ですからね」

「君はブレないなぁ」



 冒険者高校に在籍はしているが、ほとんど行かないのが俺のスタイルだ。

 だって必要ないから。

 冒険者高校は定期試験もリモートでできるし、別に俺だって暇なわけではない。

 特にこの一週間ほどは、『レベルドレイン』でEクラスのクズ共から取り上げた冒険者特性を、真面目にダンジョンの一階層でスライム狩りをしている人たちに十万円で売るお仕事で忙しかったのだから。

 その時ちょっと占い師の老婆に変装していたのは、俺が恥ずかしがり屋さんだからだ。

 冒険者特性を持っていないけど頑張っている冒険者たちに、俺が冒険者特性を売る。

 ちゃんと対価をもらっているのに、彼らに過剰に感謝されると恥ずかしいから、正体は明かさないに限るな。

 せっかく冒険者特性を持っているのにまったくダンジョンに潜らない、主に老人たちには無用の長物なので、これも『レベルドレイン』で奪って、冒険者特性はないけど真面目にスライム狩りをしている人たちに十万円で分けておいた。

 これで、ダンジョン探索のスピードも大幅に上がるはずだ。


「(この活動は、今後も続けていくとして……)特別クラスに顔を出してきます」

「それがいいよ」


 理事長室を出た俺は、特別クラスがある教室へと歩いて行った。

 冒険者高校における特別クラスとは、校内の成績優秀者たちを集めたものである。

 他のクラスとは違って特別クラスはどの学年でも所属できるが、一度特別クラスになっても、実力不足で下のクラスに落とされてしまうケースもあった。

 留学生たちが大幅に増えた影響もあり、特別クラスは前校長と教頭の解任後に大幅に入れ替わっている。

 クビになった校長と教頭は、特別クラスの生徒を選ぶ権限があることをいいことに、実力は低いが家柄がいい、自分に賄賂を渡した生徒などを特別クラスに編入してしまったからだ。

 奇妙な平等主義を発揮して定員まで設けてしまい、これもいわ理事長のげきりんに触れたのであろう。

 いつの間にかレべル30アサシン(レベルアップした)になっていたなか新校長は、各クラスの選抜基準を公表し、どのクラスに何人でも所属できるようにした。

 相対評価から絶対評価にして、校内の全員が実力者なら、全員特別クラスに所属できるわけだ。

 当然そんなはずはないので、新しい特別クラスは以前よりも人数が減っている。

 それだけ、以前は実力が伴わないのに特別クラスに配属された生徒が多かったのであろう。

 特に、前校長と教頭がえこひいしていた生徒たち全員が、B~Eクラスに落ちてしまった。

 冒険者としての実力がないのだから仕方がない。

 そんなわけで、人員が様変わりした特別クラスに俺も所属することになった。


「なるほど。カードがないと教室の中に入れないのか」


 特別クラスは特別なので、学校から支給されるIDカードがないと教室に入れない。

 いわ理事長からもらっていたので、入り口のドアに通して教室の中に入った……が……。


「(あのさぁ……漫画やアニメじゃないんだから……)」


 教室に入った瞬間。

 クラスメイトたちの殺気が籠もった視線が、俺に向かって飛んできた。

 特別クラスは、冒険者特性を持つ中でも一握りのトップエリートたちしか所属できない。

 レベルアップの影響で人間離れした能力を持ち、彼らが放つ殺気の籠もった視線は、一般人なら気絶してしまうほどのものだ。

 それほどレベルが高くない担任が入って来るかもしれないのに……。

 大体、新しいクラスメイトに殺気を向けるってどうなんだろう?

 それで実力を探って、『彼はかなりやるな』みたいなことを話し合うのであろうか?


「嫌だねぇ。チンピラじゃあるまいし。そもそも冒険者って、モンスターに殺気を向けるのが仕事だろうに。クラスメイトの値踏みなんてして、なにを考えているのやら……」

「てめえのことは知ってるぞ! 元Eクラスでレベル1のノージョブのくせに、新しい校長が特別クラスに編入したってな。露骨なそんたくだな」


 俺に殺気を込めた視線を送り続けることをやめない生徒は、角刈り、筋肉で覆われた巨体を持つ、いかにも体育会系な日本人だった。

 以前から特別クラスに所属していたようで、今回のクラス替えでそのままということは、特別クラスに相応ふさわしい実力者なのであろう。

 彼は、前校長のそんたくで特別クラスに在籍していた、実力のない連中にへきえきしていたのかもしれない。

 そんな彼が、突然Eクラスから特別クラスに上がった俺に、文句を言いたい気持ちはよくわかるのだ。


「新しい校長になったから、もうそんたくは許されない。俺はちゃんと特別クラスの在籍基準を満たしているから移ってきたんだ。くだらないうそを垂れ流すのはやめてもらおうか。デカブツ」

けんたけしさん。いきなりそのような物言いは失礼だと思いますが」

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