第9話 上流階級の女性は凄い ①

「おはようございます、リョウジさん」

「おはよう、リョウジ君」

「おはようございます、りょう様」

「おはよう……えっ? 様?」

「これは私の癖なので、りょう様はお気になさらずに」

「そう……なんだ……」



 週に一度、学校に通うことになってしまった。

 なんでも、特別クラスの新しいルールだそうだ。

 出席しないと進学できないそうで、いわ理事長とレベル32アサシンなかも余計なことを……。

 教室に入ると、トップ3の美少女三人に挨拶された。

 たけしはいない。

 週に一度の出席のため、教室内で顔を合わせる可能性が低いからだ。

 実際に、教室には十名ほどしかクラスメイトたちが来ておらず、残りの人たちはダンジョンに潜っているはず。


「三人は、ダンジョンに潜らなくていいの?」

「今日は登校日ですから」


 俺の問いに、イザベラさんが代表して答えた。

 本物の貴族様なんて、向こうの世界で見たきりだな。


「現在私たちは、三人でパーティを組んでいますから、登校日が同じになるのです」

「ちなみに、四人目のメンバーも募集中だよ」


 と、さり気なく俺を勧誘してくるホンファさん。

 美少女に誘われるとつい……。

 召喚前ならすぐに誘いに乗ったかもしれないけど、今の俺にはなんのメリットもないので軽くスルーした。


「特別クラストップ3の三人が、特別クラスで下から数えた方が早い俺を誘うと、色々とあつれきがあるんじゃないかな?」

「私は、空気を読む日本人ではありませんから」

「ボクも!」

「別に空気を読むということに対して、民族は関係ないと思いますが……。単純に戦力的な問題なのだと思います」


 俺は、特別クラスの席次はビリに近い。

 このクラスにいる人たちは筆記試験も、実技試験もほぼ満点だ。

 となるとあとは、ダンジョンでの成果ということになる。

 その成果も買取所での売却履歴が元になるため、獲得した成果の大部分をアイテムボックスで秘匿している俺は、とても成績が低かったのだ。

 クラスメイトたちの成績を見て適時成果を売却し、わざとその成績にしているのだけど。

 Aクラスには落ちないけど、特別クラスではビリに近い成績にしているわけだ。


「四席のけんさんを、殺気だけで気絶させるりょう様の本当の実力が、この程度だとは到底思えませんが」

「俺はレベル1でノージョブだからさ」

「下のクラスの人たちなら素直に表示どおりだと思うのでしょうけど、特別クラスに所属している人たちは、あきらかにおかしいと思っていますよ」

「そう思うのは個人の自由だけどね。そもそも今のこの世界において、すべてをさらけ出すことが本当にいいことなのかな?」


 向こうの異世界は絶対王政だったので、王様が権力と富を誇示する必要があった。

 そうしなければ、逆らって無用な騒動を起こすやからが出現してしまうからだ。

 俺は勇者として強大な力を得たが、その力はあくまでも王様ので振るわれるからこそ、魔王が倒れたあと俺は粛清されなかったのだ。

 もっとも魔王退治の間、俺の足を引っ張る人間が数えきれないほど出現したけど。

 魔王という人類の脅威が出現したので、人間は全員が一致団結して対応しました、なんてことは絶対にない。

 魔王と組んで王様を暗殺し、自分が新しい王になろうとしていた貴族までいた。

 それも一人ではなく、複数だ。

 そんなことをすれば人間の力が弱まってしまい、せっかく新しい王になっても魔王に滅ぼされてしまう。

 と大半の人たちが思っても、その貴族には通用しない。

 多分そう言って、彼を説得した人が周囲にいたと思うけど、残念ながら彼の考えをくつがえせなかったはず。

 ましてやこの世界は、もっと政治状況が複雑だ。

 俺がバカ正直にその力を世間に公にすれば、確実におかしなやからが現れる。

 すでに、親族、Eクラスの連中のバカぶりを見てきたので、田舎に籠もって自給自足の清貧生活は嫌だが、情報ろうえいに気を使うのは当然だ。

 いわ理事長は……俺と同類なので隠すのは難しいけど、俺の敵になるというのであれば抹殺することも躊躇ためらわない。


「だから、正体を隠してダンジョン探索情報チャンネルを運営していらっしゃるのですか?」


 あやさん……さすがは貴族ということか?


「あのチャンネルの配信者は判明していないんじゃないのかな?」

「私の実家には、ツテがありますから」


 さんぜんいん家。

 有名な旧華族の名家だけど、まだあなどれない情報収集力を有しているんだな。

 公官庁とつながりが?

 いや、まだふる企画は一年目の決算にも到達していない。

 税務署から漏れるということはないはず。

 となると、税理士経由で漏れたか?


「税理士さんからではありませんよ。その税理士さんはとてもいい方なので、そのままお仕事を頼まれるとよろしいかと。法人は、銀行に口座を作らなければいけませんから……」

ひどい話だな」

「日本の銀行に口座を作るというのは、つまりそういうことですから……。ご本人たちは機密保持に絶対の自信があるようなのですが、顧客であるはずの私たちがその穴を指摘すると、逆に怒ってしまうのです。私の実家であるさんぜんいん分家は、世界中で投資事業を展開しておりますが、その辺には気をつけております」


 そのうち、海外の銀行にも口座を作ろうかな。

 実は、俺の資産の大部分はアイテムボックスの中にあるので、どちらでも構わないのだけど。


「このクラスの真の主席はリョウジさんであることを、少なくとも私たち三人は気がついております。私が当主を務めるクリニッジ伯爵家も、世間で言われているとおりのイギリス貴族でございますから」

「うちも、十九世紀から海外で活動してきたきょうだからね。情報収集能力はそれなりにある。リョウジ君の存在に気がつかないわけがないさ」


 そうだろうな。

 俺もそこは諦めている。

 ようは俺が、どうでもいい面倒ごとに巻き込まれなければいいのだから。


「私たちは知っているから、知られたくなかったら融通しろってことかい? で、同じパーティで活動しろと?」

「まさか。私たちはそこまでバカではありませんわ」

「ボクたちなんてあしまといじゃないか。名ばかりベビードラゴンで、あんなに巨大な竜を瞬殺してしまうようなリョウジ君と、三人で死を覚悟していただけのボクたち。パーティを組んでも釣り合いが取れるわけがない」

「冷静に実力差を測れるみたいだね」


 三人は、さすがは特別クラスの三傑というわけか。

 この三人を甘く見たかな?


「ボクは武闘家の上級職だから、ランダムシャッフルタイム時の白銀の勇者の動きがかろうじてわかったって感じだね」

「ですから、無理にりょう様をパーティに誘うようなはしません。現時点では」


 もし三人の実力がもっと上がれば、そうなる可能性も否定しないわけか。

 将来になにが起こるのかなんて俺にもわからないから、別に構わないけど。


「それにもしかしたら、りょう様が年相応の高校生男子の本能として、私たちに手取り足取り指導したくなり、そのあと手を出したくなったとしても、私たちはそれを否定するほど野暮ではありませんよ。命をかけてモンスターを狩っているので、性欲が増すのも仕方がありませんし、その解消のために協力するのが、仲間というものではありませんか」

「……」


 実は、大和やまとなでしに近い見た目のあやさんが一番ヤバイ人かも。

 上流階級のお嬢様なのに、実はそういう方面の経験が豊富だとか……。


「誤解なきように言っておきますが、私たちは家を保ち繁栄させるという古臭い価値観で生きておりますので、無用な殿方との接触は極力避けております」

刊行シリーズ

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