第9話 上流階級の女性は凄い ②
「ボクたちにすり寄ってくる男性って、見た目と表面上のスペックだけ立派な、ヒモ目当てのどうしようもない人たちが大半だよ。それすらない、家柄しか取り柄がないとんでもない
「それに比べて
「……」
三人の目は、絶対に俺を手に入れようという、肉食獣のそれであった。
正直なところ、ちょっと引くわ。
そういうところは上流階級なんだよなぁ。
「もしお時間がございましたら、一日だけでもご指導いただけたらと思います。当然相応の謝礼はお支払いいたしますわ」
「当然だね。リョウジ君の貴重な時間を潰してしまうんだから」
無理にパーティに入らなくてもいいけど、時間があったら一日指導してほしい。
さすがは大金持ち。
こうやって、徐々に接近してくるのか。
「それで、もしお引き受けいただく場合、いかほどお支払いすれば?」
「そうだなぁ……」
丸一日。
モンスター狩りと、動画撮影がストップしてしまうからなぁ。
ダンジョン攻略に関しては、すでに国内にあるダンジョンすべてをクリアーしていたから、今のうちなら依頼を引き受けても問題はない。
国内のダンジョンコアはすべて手に入れたので、自由に好きな階層に移動できるようになった。
ダンジョンコアは最下層のボスを倒せば必ず手に入るので、みんなも頑張ってダンジョンをクリアーしてほしい。
逆に言えば、誰かがそのダンジョンをクリアーしたからといって、その瞬間から冒険者全員が自由に好きな階層に行けるって話でもない。
ダンジョンコアを持つ冒険者のパーティなら話は別だけど、一つのダンジョンコアで、所有者も合わせて六名までしかダンジョン内を自由に移動できないから、頑張って最下層のボスを倒してダンジョンコアを手に入れる必要があった。
「冬休みになったら別の仕事があるから、それまでなら」
冬休みから二年生になるまで仕事の予定で埋まっているのだ。
アメリカ、イギリス、フランス、中国、ロシア、インド、ブラジル等々。
各国内のダンジョンの攻略と、動画撮影をする仕事を引き受けていた。
すでに向こうの世界でクリアーしたダンジョンばかりだし、今も鍛錬を続けていて強くなっているから問題なく攻略できると思うけど、数が多いので時間がかかる。
動画の撮影をプロト1やドローンに手伝ってもらっているとはいえ丹念に丁寧にやらなければいけないので、これも時間がかかるからな。
高額の報酬を
「報酬は一日十億円ってところかな」
丸一日で十億円。
実はこれでもかなり安いんだけど、いくら冒険者が稼ぐとはいっても、そう簡単に支払える金額ではないはず。
向こうが断ることを想定して提示した値段なのだ。
「(俺に一日指導を受けたところで劇的に強くなるとは思わないから、絶対に断るだろうな。金持ちって案外ケチだって聞いたから)どうかな?」
十億円なら、断っても仕方がない。
俺はある種の逃げ道を提示してあげたのだ。
感謝してほしい。
「まあ、たった十億円だなんてお安いですわ。本当にそんなにお安い金額で大丈夫なのでしょうか?」
「えっ?」
「確かに十億円は高いけど、日本のダンジョンをすべてクリアーして、その様子を順次動画で更新していきますと宣言したリョウジ君の指導なら、十億円出す人は沢山いると思うよ」
「百億円だと困って……それでもお願いしましたが、予想よりもかなりお安くて助かりました」
「……」
元々一般庶民だったためか、俺は上流階級の
だが一度口に出してしまった以上、それを撤回するのはプライドが許さなかったので、一人十億円で三人の指導をすることになったのであった。
「リョウジ君、ここは?」
「
「攻撃してこないのですか? リョウジさん」
「してこないけど、イザベラさん、これで攻撃してみて」
「これ……ミスリルソードでは? 確か、全世界でまだ三本しかドロップしていないはず……」
「どうせ折れても素材として再利用できるから、気にしないで斬りかかってみて『ダークボール』に」
「あのボウリングの球のようなものにですか? あれがモンスター?」
「あれがモンスターなんだなぁ」
ダークボールは、ただ五百階層に点在しているだけで攻撃してこない。
だからといって、『運がいいな』なんて思いながら一体も倒さないで下の階層に降りると、それが地獄への一里塚かもしれないのだ。
「鋼の剣で鉄球を斬れる私ならば、このミスリルソードを使えば……」
「だといいね」
「やあ! えっ?」
イザベラさんがミスリルソードでダークボールを斬った瞬間、『カキン!』という音と共にミスリルソードが真っ二つに折れてしまった。
「私! 大変なことを!」
「別にいいよ。沢山持ってるから」
ミスリルソードなんて、向こうの世界で手に入れたものと合わせて何本持っているのか面倒くさくて数えていないくらいだし、折れたら直すか、ミスリル素材にしてしまえば問題ないのだから。
「力任せに斬ったわけではないのに……」
ぱっと見た感じ、イザベラさんは剣の達人である。
ミスリルソードの性能に頼りきっていたわけではない。
それでも、ダークボールに傷一つ付けられなかったということは……。
「完全なるレベル不足だね。このダークボールを倒せない冒険者が、五百一階層に降りたらほぼ死ぬ」
「五百一階層のモンスターたちが硬いからでしょうか?」
「硬いのは当然として、四百九十九階層までのモンスターたちとは、まるで強さの質が違う。攻撃が通らないのさ」
強くなければ、瞬殺されてしまうのだ。
「それでも、イザベラさんたちはレベル表示が出るだけマシだよ。俺はレベル表示がバグっているから」
「五百一階層以下のモンスターを倒せるかどうか、全部手探りだったんだね」
「そういうことだよ、ホンファさん」
「ダンジョンとは、想像以上に厳しいものなのですね。それを私たちに教えるために……」
「
俺が向こうの世界でダークボールを倒した時、レベル表示なんか出ないので、体が軽くなった感覚を数えて自分の強さを計算していたのだ。
ダークボールは、レベルアップに有用なモンスターであった。
「ですが、私たちではダークボールに傷一つ付けられません」
「そこは十億円を
「これは? 見たことがない素材の剣ですね」
「オリハルコン製だからね」
「「「ええっ! オリハルコン製!」」」
「そんなに驚くことかな?」
「ダンジョンなので手に入るという予想はされていましたが、まだ誰も見つけたことがない未知の金属ですから」
この
鉱石も合わせて。
「まずはイザベラさん。その剣を使って、次に……」
イザベラさん対して、補助魔法『パワーアップ』の重ねがけをした。
補助魔法の重ねがけもレベルと才能がないとできないのだけど、俺なら余裕で十回以上重ねがけできる。
まずは十回で様子を見よう。
「補助魔法の効果は一時間なので、剣の性能に頼らず、これまでに習得した技でダークボールを斬ってみてくれ」
「わかりました! えいっ! ……駄目です……」



