第9話 上流階級の女性は凄い ③

「少し傷ついたかな?」


 やはりレベルが低すぎるので、十回では駄目だったか……。

 ダークボールの方に『軟化』をかける方法は効率が悪いので、『パワーアップ』をもう五回重ねがけし、再びダークボールを斬らせてみた。


「ダークボールの急所は中心部にあるコアだけど、意外と大きいから多少中心部から外れても大丈夫」

「わかりました……斬れました! やりましたよ、リョウジさん」


 今度は無事、ダークボールを真っ二つにできた。

 イザベラさんが大喜びしているけど、今はそんなことをしている暇はない。


うれしいのはわかるけど、今は一体でも多くダークボールを斬ってくれないかな? 一体でも多く倒せば、それだけレベルも上がりやすいから」

「はいっ! 頑張ります!」


 イザベラさんは、次々とダークボールを斬り始めた。


「で、ホンファさんにはコレ」

「オリハルコン製のナックルかな?」

「そういうこと」

「ボクも早くダークボールを倒したい」

「どうぞ」

「もういいの? 補助魔法の重ねがけをこの一瞬で?」


 それは、強くなればなるほど魔法を素早く展開できるようになるからだ。

 当然効果の発動も早まるので、敵モンスターに対しスピードで先手を取れるようになる。

 先手を取れば、応戦準備を整える前のモンスターにダメージを与えやすくなり、それができないと、最下層のモンスターと戦えない。

 レベルを上げきればそこまでする必要はないけど、最初はそのくらいできないと、強いモンスターに瞬殺されてしまうのだ。

 さらに、魔法の才能がある一定の基準を超えると『無詠唱』が可能となり、ますます魔法を早く発動させられるようになる。

 今の俺がその状態であった。


「自信をなくします……」


 無詠唱が使えないあやさんが、目に見えて元気をなくしてしまった。


「賢者は魔法に特化した上級職のはずだから、そのうち覚えると思うよ。あやさんはこれ」


 残念ながら魔法を強化するというのは難しいので、俺はあるつえあやさんに渡し、『パワーアップ』を重ねがけした。


「このつえは……オリハルコン製ですけど、私は物理攻撃の方は……」

「このつえは、某RPGにも出てきた、魔力を物理的な攻撃力に変換できるつえだよ。ゲームだとあまり役に立たなかったけどね」


 実は向こうの世界でも、こんなものを使うぐらいなら、魔法を使った方が手っ取り早いと言われるような武器であった。

 ただ、魔法使いがダークボールを倒して経験値を稼ぐには、非常に便利な武器である。


「私の魔力量ですと、すぐに魔力がかつしてしまうような気がします」

「それは、俺が適時回復させていく。魔法使いは、一度に複数のモンスターを魔法ではらったり、そのモンスターが苦手な系統の魔法で一方的に攻撃できる。ただレベルが足りないと、ダンジョン下層のモンスターに魔法が効かず、瞬殺されてしまうのさ。すべてレベル不足が原因だから、とにかく一匹でも多くのモンスターを倒してレベルを上げるしかない。強ければ、効率よくモンスターを魔法ではらって稼げるようになるのだから」

「わかりました」

「中心部のコアを狙って、そこをつえの先端で突く! 魔力は可能な限り込めて!」

「はいっ!」


 あやさんの一撃でもダークボールが倒せることが確認できたので、彼女が三匹のダークボールを倒して魔力がほぼ尽きた直後、自作した『魔力ポーション改』をとうてきして魔力を回復させた。


「えっ? 魔力を回復させるポーション? しかも全快するなんて! 飲まないのに効果があるのもすごいです」


 通常のポーションはあちこちで見つかり始めていたが、魔力ポーションはまだ二~三個しか見つかっておらず、確か日本政府が買い上げて研究用に回しているはずだ。

 だからあやさんは驚いたのであろうが、俺は簡単に作れるからなぁ。

 材料も、ダンジョンで簡単に手に入れられる。

 なお、俺が自作した魔力ポーション改は、飲んでも体にかけても効果がある。


とうてき』と組み合わせると戦術の幅が広がるが、残念ながらドロップ品の通常の魔力ポーションは飲まないと効果がなかった。


「今は驚いている場合じゃないので、ダークボールを倒し続けてくれ。一時間したら、一旦十分休憩だ」

「わかりました」


 それから一時間。

 さすがは特別クラスのトップ3。

 効率よく、おびただしい数のダークボールを倒すことに成功した。


「邪魔だから、一旦ダークボールの死体は回収します。休憩です」


 俺は、自作したハーブティーを三人に振る舞った。

 十億円もらっているので、このくらいのサービスはするさ。


「初めて飲むハーブティーですけど、とてもよい香りで、体が落ち着きますね」

「疲労回復効果があるんだ。この一時間で大分レベルアップしたはずだから、いわゆるHP自体は減っていないけど、レベルアップして上昇した分が回復していないはず。それを回復させつつ、急激にレベルアップすると体へのダメージがどうしても出てしまう。それも回復させる効果があるんだよ」

「確かに、『ちょっと筋肉痛かな?』って思っていた痛みがなくなった」

「このハーブティー自体も美味おいしいですね。リョウジさんがおれになったのですか?」

「ちゃんとれないと、効果が落ちてしまうからね。覚えたんだ」

「後味もスッキリしていて、また飲みたくなります。今度機会がありましたら、このお礼にお茶をててさしあげますね」

「お茶会かぁ。戦国武将みたいだな。この休憩が終わったらまた一時間同じことをして、また休憩。午前八時から始めたから、お昼までに四回繰り返せるね。午後からどうするかは、要相談ってことかな」

「要相談とは?」

「午前中いっぱいダークボールを使ってレベルを上げ続ける。で、午後から体を慣らすためにこれまで潜った階層で実戦をするか。もしくは今日終わるまで、ずっとダークボールを倒し続けてレベルを上げ続け、体を慣らすのは自分たちでやるかだね」


 どちらを選ぶのか?

 俺の予想は外れてないと思うけど、それはあとのお楽しみで。

 今日の鍛錬を始める前、三人は日本と世界のトップランカーで、このうえこうえんダンジョンの四十二階層まで到達していてレベル45だった。

 俺はレベル表示が出ないからよくわからないけど、大体その階層の攻略推奨レベルは、階層の数と比例しているはずだ。


「三人とも、今のレベルは?」

「私は、レベル98ですわ」

「ボクは、レベル102」

「私は、レベル95なので一番低いですけど、たった一時間で……」

「それは元のレベルが低いのに、倒すととてつもない経験値が入るダークボールを沢山倒したからさ」


 俺も、向こうの世界では飽きるほどダークボールを倒したものだ。

 反撃してこないので、安全に強くなれるからな。


「レベルに差が出たのは、戦士、武闘家系はレベルが上がりやすくて、魔法使い系はレベルが上がりにくいからだと思う。でも、魔法使いが高レベルになったらモンスターをはらえるから、経験値も魔石や素材も稼ぎやすくなる。ただ……」


 あまりよく考えないでモンスターを魔法ではらうと、毛皮や角などのモンスターの素材は諦めなければならないケースが多いけど。

 弱いモンスターを魔法ではらって、魔石と鉱石のみを集めるのであれば、効率よく経験値と金稼ぎができるはずだ。


「今の三人だと、九十五階層までが比較的安全に攻略できるレベルかな。十分といえば十分だけど、指導できる日は今日しかないから、先にできる限りレベルを上げてしまうという手もある。その代わり、体慣らしの実践とダンジョンの攻略は後日自分たちだけでということになる。その辺は本編の動画を見てもらうとして、急にレベルアップすると気がはやって思わぬミスをすることが多い。俺と一緒にいる間はそれを止めることができる。さて、どっちを選ぶ?」

「それは断然レベルアップですわ」

「どちらを選択するのかなんて、悩むまでもないね」

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