第9話 上流階級の女性は凄い ④

「体を慣らしながらゆっくり攻略するのは自分たちだけでできますが、このダークボールを使ったレベルアップの方法は、りょう様がいないとできませんから」

「ではそういうことで」


 その後も三回同じことを繰り返し、昼食とオヤツの時間を挟んで、夜までひたすらダークボールを倒し続ける。

 レベルアップの影響で次第に重ねがけする『パワーアップ』の回数が減っていき、最後には二~三回だけ『パワーアップ』をかければダークボールを倒せるようになった。


「私は、レベル427になりましたわ」

「ボクは、レベル432だね」

「レベル425です」

「こんなものかな」


 一日でレベルが十倍近くになったので、三人は優秀な生徒だったということだ。

 ジョブが上級なので、基礎ステータスも高いからであろう。


「慌てずに、適切なペースで四百階層を突破できれば、その頃には『パワーアップ』ナシでもダークボールも倒せるようになっているはずだ」

「リョウジさん、ありがとうございました」

「でも、ボクたちこれだけ強くなっても、リョウジ君の足元にも及ばないんだろうね」

「もっと強くなって、りょう様とパーティを組めるように頑張ります」


 無事に三人の指導が終わってよかった。


「預かっておいたダークボールの魔石と素材は、四人で均等に分けるよ。ただ、しばらくは買取所に持って行かないでほしいかな」


 イザベラさんたちが、突然とてつもなく低階層に生息していると思われる未知のモンスターの魔石、鉱石、素材を大量に持ち込んだら、俺の正体がバレる心配があったからだ。


「ダークボールというのは、どのようなものが得られるのですか?」

「中心部のコアが鉱石で、これは様々なレアアースとレアメタルが混じったものになる」


 それぞれ、どのレアアースとレアメタルが入っていて、何種類が混じり合っているかなど個体差があるが、高純度なので採算は取れるはずだ。

 魔石はとてつもなく頑丈なモンスターなので、品質はかなり高い。

 ダークボールの魔石一個で、スライム千匹分以上に相当するはずだ。


「ダークボールの素材は、いつか自分たちだけで手に入れますから、すべてリョウジさんにお譲りしますわ」

「そうだね。やっぱり十億円じゃ安いから」

「報酬の代わりにお受け取り下さい」

「いいの?」


 今日一日中、三人が倒しまくったので、多分売却するととんでもない金額になるはずだ。

 平等に分けないと悪いような気がしてしまう。


「それに、私たちのアイテムボックスでは、あんなに大量のダークボールは入りませんから」

「そうだよね。あれだけの量を全部入れて、まだ余裕そうなリョウジ君がすごいと思うよ」

「驚異的ですね」


 この三人、アイテムボックスも持っていたのか。

 持っている人が少なく、さらに容量もまちまちなので、冒険者たちはアイテムボックス持ちを仲間にしようと必死だというのに。


「私たち三人のアイテムボックスも相当な収納量だと思っていたのですが、上には上がいるものです」

「レベルアップで容量が増えたと思うんだけど、リョウジ君には勝てないかな」

「私が、三人の中で一番アイテムボックスの容量が大きいのですが、これだけレベルアップしても、りょう様には勝てる気がしません」

「レベル1000を超えたら勝てるかも」

「最低でもそのぐらいのレベルがないと、このうえこうえんダンジョンは攻略できないということですね?」

「あくまでも、最低でもだね。しくじれば死だし、最下層付近で苦戦してしまうかもしれないし。レベル1500あれば確実に大丈夫だと思う。あくまでも俺の予想だけど」


 レベルは表示されないけど、モンスターを倒した直後に体が軽くなった回数を数えていたから、それがレベルアップだという想定での答えだ。

 魔王を倒した時には、1400回を超えたくらいだった。

 今は一度クリアーしたRPGのように効率よくレベルアップを繰り返していたから、10000回を超えているけど。


「リョウジ君の予想なら、ほぼそれで当たりなんだろうね。頑張ろうっと!」

「そうですね」

「本日はありがとうございました」

「魔石と素材を全部もらうのはやっぱり悪いから、貸したオリハルコンの装備あげるよ」

「よろしいのですか?」

「九百八十階層から九百九十九階層付近でモンスター狩りをしていると、三日に一度ぐらいは手に入るから」

「驚きばかりで声も出ません、ありがたく頂戴します」

「ありがとう、リョウジ君。大切にするよ」

「オリハルコンって神級装備の最下層だから、そんなにはありがたがらなくても大丈夫だよ」


 子供の頃に遊んだRPGだと、オリハルコン製の装備ってほぼ最強の武具の材料だったけど、向こうの世界だとそれよりも優れた素材がいくつも存在した。

 それにこのうえこうえんダンジョンは、元は最下層部に魔王が逃げ込んだ最強のダンジョンだ。

 モンスターを大量に狩っていると、オリハルコンならレアアイテム扱いで手に入るんだよね。

 強くなると運の数値も上がるから、さらに手に入りやすくなる。


「この世界で、りょう様以外持っていない貴重な装備を申し訳ありません」

「俺は仕事をしただけだから。あやさんのつえは、魔法触媒として使えばかなりの強化が入るから、打撃武器としてだけでなく普段の戦い方でも使えると思うよ」


 魔力を攻撃力に転換するつえだが、武器としては使い勝手が悪いけど、魔法を使う際に持っていると、魔法の威力がかなり強化されるから、ただ持っているだけの方が便利という。


「それでは本日の講習は終了です。また学校で!」


 三人をダンジョンコアを用いて地上まで送り届け、俺は一人帰宅の途につく。


「三人の顔が映るから動画撮影はできなかったけど、三十億円とダークボールの素材、得しちゃったな」


 その日もスーパーの半額弁当を食べてから就寝し、翌日からいつもの生活パターンに戻った。



 そして週に一度の登校日。


ふる君! レアメタルとレアアースってあったら売ってちょうだい!」

「あれ? いわ理事長が経営している会社って、レアアース屋だったんですか?」

「実はそれもやっているんだよ。今、地球上で採算が取れるレアアース、レアメタル鉱床が消滅しちゃって。日本はある程度備蓄があるんだけど、備蓄にも限度があるから……現在の相場の代金出すからお願い!」

「わかりましたよ……」


 別にボッタくろうという気もないし、ちょうどダークボールの素材が沢山あったので、これをいわ理事長の会社に売ってあげた。


「こんなモンスター見たことないけど、これどこの階層の?」

「五百階層のです」

「……ふる君は、相変わらず規格外れだね。そういえばダンジョン内で撮影できるビデオカメラ。もうすぐ私の会社で生産が始まるから。その材料に大量のレアアースとレアメタルが必要だったんだよ」

「やべえ、ライバルが増える!」


 そのビデオカメラを手に入れた冒険者たちが動画の撮影を始め、それを動画投稿サイトに配信を始めたら……。


「俺の動画の視聴回数が落ちる!」

「落ちないんじゃないの? 一人で深い階層のモンスターを、撮影アングルまで気にして、解説まで加えながら倒し、ビデオカメラを持った無防備なドローン型ゴーレムたちまで守るなんて、今のところ君くらいしかできないから」

「それもそうですね」

「そもそも、作るのにものすごい手間がかかるし、原価がとんでもないから、販売価格も冒険者でも簡単に手を出せないレベルになるんだよ。最初はテレビ局ぐらいしか買わないんじゃないかな? 内々で営業したら、世界中のテレビ局が欲しいって。一般の人が買えるぐらいの値段になるには、相当時間がかかると思うよ。それに、ダンジョンの外で撮影するのなら、電力で動くビデオカメラで十分だからね」


 俺は電力で動く既存品を改造したけど、手間と素材と時間がかかったので、もし売ってくれと言われても売りたくなかった。

 泣く泣く売るにしても、絶対に億単位の値段にすると思う。

 たとえ元が、フリマアプリで十万円くらいで購入したデジタルビデオカメラだとしてもだ。

刊行シリーズ

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