プロローグ
……あれ? ここは?
気がつくと、俺は真っ白な空間にいた。
まるで某マンガの、精神と時のアレみたいな……。
「なんだ、ここは?」
落ち着け……まずは、自分のことだ。
「俺の名前は、
次は、どうしてこんなところにいる?
さっきまで、何をしていた?
「えっと、たしか……そうだ」
会社の帰り道に、階段から落ちてくる女の子を助けたんだ。
そして、それ以降の意識がないってことは……まさか。
「俺って──死んだのか?」
「ええ、そうですよ」
振り向くと、白い羽を広げた美女がいた。
「天使ってことは……天国に行けるのか? ほっ、良かった」
ロクでもない人生だったが、天国に行けるなら悪くはない。
「ず、随分と落ち着いてますね?」
「最初は驚きましたけど……まあ、切り替えは早い方なので」
じゃないと、やっていけないような人生だったし。
孤児スタートで、不正受給をしてた施設で、虐待を受けて。
高校も行けずに、中卒で働いて。
いちいち気にしてたら、生きていけなかった。
本当に……死ななかった自分を褒めてやりたいくらいだ。
「そ、そうですか。そういうレベルじゃないような……」
「それで、俺はどうすれば
「えっと……まずは、
「地獄か天国かってことですか?」
「違いますよ! コホン……貴方は、一人の少女を助けましたね?」
「ええ、まあ……」
「彼女は、いずれ世界を救う女の子なのです」
「はい?」
「貴方のいた世界とは違う世界があります。名前は、ユグドラシル。彼女はいずれユグドラシルを救うために、貴方のいた世界から召喚されるはずだったのです」
よく見る異世界ファンタジーみたいなことか?
「はぁ……それがどうしたのですか?」
「ど、動じませんね……ですが、そうはさせまいとユグドラシルに封印されている邪神が動きました……まあ、詳しい説明は貴方には必要ないですね。とりあえず、その邪神が私の隙をついて、彼女を殺そうとしたのです」
「へえー」
そんな小説みたいなことってあるんだな。
まあ、俺には関係ないけど。
「軽い! 世界の命運がかかってるのに!」
「そんなこと言われても……もう若くないですし」
「もういいです! そ、それで、貴方にはお礼として、異世界転生の選択権を差し上げます」
「……はい?」
「ユグドラシルに転生できるってことです」
「じゃあ、それで」
「うんうん、わかりますよ、いきなり言われ……え?」
「転生でお願いします」
「え!? もっとこう……異世界転生!? ヒャッハー! とか! キタァァ──!! とかないんですか!?」
「自分、おっさんなんで」
とりあえず、平和に暮らせたら良い。
次こそは、静かにのんびりと生きたい。
「今までとは違いますね……」
「他にもいたんですか?」
「ええ、貴方のような方が。その人達は知識チートや俺つえー、ハーレムやざまぁなど……好き勝手にやってましたね。まあ、それだけなら別に良いんですけど……」
最近の
「まあ、気持ちはわかりますよ」
俺も会社の上司や、俺を捨てた親にざまぁしたいし。
「そうですよね! ただ、ひどい方だとやたらめったらに大量虐殺をしたり……それは
「ふんふん、なるほど。好き勝手にも限度があると」
「ええ、その通りです。ちなみに魔物は邪神の手先なので、殺しても構いません。というわけで、貴方にもチートを授けます」
「それはどんなものですか?」
「いわゆる魔法チートというものですね。人より魔力が高く、属性も火水風土の四属性全てを扱うことが可能です。その気になれば、国一つくらいは簡単に滅ぼせるでしょう」
「へぇ、それはすごいですね」
「ただし! 人をむやみに殺した場合、チートが剝奪されます」
「なるほど……その基準はなんですか? 例えば、正当防衛とか」
「良い質問ですねっ! それならば不問とします。あとは、あちらの世界で犯罪者と呼ばれている人達も許可します。もちろん、
「なるほど。つまりは、むやみやたらに殺すなってことですね」
「ええ、全員私の世界の住人ですからね。先ほど言ったように、過去にそういった方々がいたので……正当防衛は仕方ないですし、むやみに殺したりしなければ良いです」
「わかりました、それで良いですよ。別に人殺しになりたいわけでも、英雄になりたいわけでもないですから」
「ほっ……良かったです。他に何か質問はありますか?」
「向こうはどんな世界ですか?」
「そうですね……
「……おそらく?」
「えっと、その……私も下界をいつでも見られるわけではないので……」
「神様の制限……ルールみたいなことですかね?」
「そ、そうです!」
よくわからないが、これ以上突っ込まない方が良さそうだ。
「それじゃあ、そろそろ行きます」
「ほっ……では、転生の門をくぐってください」
すると、目の前に門が現れる。
「えっと……」
「まだ、何か質問ですか?」
「赤ん坊からですかね?」
さすがにいい年したおっさんで、赤ん坊からはきつい。
というか、少年時代すらきつい。
「そうですよね……何歳くらいが良いですか?」
「選べるんですか?」
「ええ、一応。貴方の魂の記憶が
「なるほど。俺自身の魂で生まれて、
「良いですが、記憶が突然上乗せされるので、少し戸惑うかもしれませんよ?」
「まあ、それで良いです。それくらいの歳なら、ギリギリ大人に近いですし、自由に動けますし」
「わかりました。一応、それなりに良いところに転生させますからね。では、いってらっしゃい──良き異世界転生を」
「ええ、いってきます。ありがとうございました。次こそは、平穏無事な生活を送りたいと思います」
俺が門をくぐると、光の奔流に包まれる……。
ああ……次こそは……きちんと寝られて、ゆっくりと飯が食える人生を……そう、スローライフを送りたい。
そう願ったところで、俺の意識は消え去った……。



