一話

 うーん、やっぱりこうなっちゃったかぁ。

 前世の記憶を取り戻した俺は、玉座の間にて確認をする。


「さて、少し振り返ってみようかな」


 天使の計らいにより、ユグドラシルという世界に転生した俺。

 とりあえず十五歳になり、今さっき前世の記憶を取り戻したというわけだ。

 ユグドラシル大陸の中央に位置する、フリージア王国に生まれ、その国の第三王子として転生したようだ。


「ふんふん、言う通りいい生まれってことだね」


 とりあえず、両親は俺が幼い頃に事故で亡くなっていること。

 兄が二人と、姉が一人いること。

 歳が十二歳違う、長男であるロイス兄さんが国王の跡を継いでいる。

 歳が四つ違う、次男であるライル兄さんは騎士団の一員として働いている。

 八歳上の姉であるライラ姉さんは、宮廷魔道士として働いている。


「うんうん、みんな働き者だね」


 しかし、俺だけは何もしていない。

 朝から晩までグータラ生活を送っていたようだ。

 魂は俺なので、もしかしたら社畜だった反動なのかもしれないけど……ただし、国民の税金を使っていた。

 まあ当然──こうなるよね。


「マルス! お前を追放する!」

「はい、いいですよー」

「わかる! お前の気持ちは! だが、俺とて好きで……なに?」

「いいですよー、追放で」

「い、いいのか!? もう、ここでは暮らせないぞ? 朝から晩までグータラできないぞ?」

「はい、今までご迷惑をおかけしました」

「いや、お前が心を入れ替えるなら……」

「なりませぬぞ、国王陛下。そういう手口に決まっております」

「宰相……う、うむ、それもそうだな。お前を辺境都市であるバーバラに送る! そこで厳しい生活をして、根性をたたなおすといい!」

かしこまりました。それでは、失礼しますね」


 俺は一礼をして、その場から立ち去る。

 自分の部屋に帰ってきた俺は、ひとまず整理する。


「マルスという人間に、単純に前世の俺が上乗せされた感じかな?」


 ここまでの思い出がありつつも、前世での思い出も思い出せる。

 基本的にはマルスであることに間違いはないね。

 ひょうや乗っ取りではないってことだ。


「あくまでも、前世の記憶が蘇っただけって感じかなぁ」


 まあ、両方とも俺だし……そのうち慣れるよね。


「しかし……グータラしすぎたな、我ながら」


 剣の稽古や魔法の稽古もしない。

 魔物退治や、戦争にも出ない。

 勉強もしないし、舞踏会にも出ない。

 ずっと、王都の中でグータラ生活を送っていたようだ。


「多分、転生する時のおもいが強すぎたんだろうなぁ」


 今度こそは、ゆっくり寝て過ごしたい。

 飯食ってダラダラしたいと。

 ただ。少々やりすぎたっぽい。


「そりゃー追放はされるし、こう呼ばれるのも無理はないよね」


 そう、俺は皆からこう呼ばれている。

 穀潰しの末っ子マルスと……。

刊行シリーズ

国王である兄から辺境に追放されたけど平穏に暮らしたい(3) ~目指せスローライフ~の書影
国王である兄から辺境に追放されたけど平穏に暮らしたい(2) ~目指せスローライフ~の書影
国王である兄から辺境に追放されたけど平穏に暮らしたい ~目指せスローライフ~の書影