二話

 さて、これからどうしようかな?

 部屋に戻ってきて、とりあえず鏡を見て……俺は、改めて思った。


「うん、見慣れた顔だね。前世の俺からしても」


 長男のロイス兄さんは、金髪へきがんで細身のイケメン。

 次男のライル兄さんは、体格の良い金髪碧眼のワイルドタイプのイケメン。

 ライラ姉さんも金髪碧眼で、ナイスバディなモデル体形の美人さん。


「なのに俺、黒髪黒目だね。フツメンの日本人にしか見えないけど? 身長も平均的だし。たしかこの国は、前に世界を救った異世界から召喚された聖女と、現地の英雄が結婚してできた国だったよね」


 なんでも、その時の聖女は黒髪黒目だったらしい。

 なので、俺みたいなのは先祖返り、または神童などと呼ばれたりする。

 だからこれだけグータラしてても、今まで平気だったんだろうなぁ。


「まあ、正直言って……違和感がないから助かるけどね」


 辺境都市バーバラかぁ……たしか魔物が住む森があって、国を守るために、奴隷を使っているって話だったっけ。


「奴隷ね……社畜の記憶が蘇った今、他人ひとごととは思えないなぁ」


 記憶のすり合わせをしていると……足音が聞こえてくる。


「マルス様!」

「おや、シルク。どうしたんだい?」


 婚約者であるシルクが、慌てた様子で部屋に入ってきた。

 たしか四大侯爵家の一つである、セルリア侯爵家の一人娘だ。


「ど、どうしたじゃありませんわ!?」

「あっ、婚約破棄かな?」

「え? そ、そうですわ! お父様が……」


 まあ、無理もない。

 追放される俺の婚約者であるメリットがないもん。

 今までは、かろうじて残ってたけどね。


「シルクなら、もっと他に良い人がいるよ。わいいし、スタイルもいいし、優しいから」


 これは本当だ。

 銀色に輝く髪。

 透き通るような青い瞳。

 メリハリのある身体からだ

 見た目は可愛らしいのに、意外と気の強いところと意志の強い瞳が、俺は好きだったんだ。

 何より……俺みたいな人にも、根気よく付き合ってくれた。

 前世の記憶を思い出した今、こんな良い子を縛るわけにはいかない。


「な、なっ──!? そ、そんなこと、今まで一度だって……」

「ごめんね、照れくさくて……あと、君を縛りたくなかったから」

「マルス様……わ、私は……!」

「失礼します、マルス様。おや? シルク様?」

「やあ、リン」


 部屋の入り口に、燃えるような赤い髪をポニーテールにしている女性がいる。

 リンといい、俺の専属のメイドさんで護衛でもある。

 ちなみにえんぞくという種族の獣人で、人に近い容姿に尻尾と耳が生えている。

 そう! この世界には獣人さんがいるのだ! もふもふだよ!


「リ、リン……マ、マルス様! 待っててくださいませ!」


 そう言い残し、シルクは走り去ってしまった。


「はて? どういう意味だろ?」

「罪作りな方ですね。さて、追放されましたね?」

「そうだね、まあ妥当でしょ」

「私も、そう思います」

「相変わらず、はっきり言うね。あのさ……」

「私はついていきます、貴方に拾われた命ですから」

「そう……わかった。なら、出ていこうか」

「荷物は良いのですか?」

「まあ、いらないかな。これからは自分で稼ぐことにするよ」

「おや、頭でも打ちましたか?」

「ある意味、近いかもね」


 記憶を取り戻す前の俺は鍛錬などしたことがなかった。

 故に、自分が魔法チートを持っていることなども知らなかった。

 でも、天使の言うことがたしかなら戦えるはず。

 なら、魔法で稼げるようにすれば良いよね。

 結局、俺は何も持たずに城を出ていくのだった。

刊行シリーズ

国王である兄から辺境に追放されたけど平穏に暮らしたい(3) ~目指せスローライフ~の書影
国王である兄から辺境に追放されたけど平穏に暮らしたい(2) ~目指せスローライフ~の書影
国王である兄から辺境に追放されたけど平穏に暮らしたい ~目指せスローライフ~の書影