三話

 城を出たら、まずは冒険者ギルドに向かう。

 理由は単純で、今の俺は文無しである。

 リンが調味料や少しの食材やお金を持っているとはいえ、それらは多くない。

 なので、行きの道中で魔物や魔獣を狩って、向こうでその素材を売るために登録する。


「ところで、護衛は良いんですか? 多分、国王陛下は用意してると思いますけど……」

「まあ、そうだろうね。ここからバーバラまでは、最低でも四日はかかるし」


 兄さん達は、兵士を用意して送っていくつもりだとは思う。

 でも、俺はそれがめんどくさい。

 どうせ、あーだこーだ言われるし。

 だから、黙って出ていっちゃおう。


「平気だよ。道中には大した魔物は出ないし」

「まあ、そうですけど……」

「何より、リンを嫌な目に遭わせたくないし」


 この世界の獣人の立場は厳しい。

 基本的に奴隷階級で、人族に使われることに慣れきっている。

 一部の人からは、人間になれなかった『なりそこない』とまで言われている。


「マルス様……ありがとうございます。では、私がお守りしますね。あれ? でも冒険者ギルドに行くんですよね? 登録するんですか? それとも、護衛の依頼ですか?」

「いや、護衛はいらないよ。一応、リンがいるしね」


 俺の身長は多分、百六十五センチくらいで……リンは俺よりもちょっと大きい。

 モデルさんみたいな体形で、この世界の女性としては高い部類だ。

 狐系の獣人で、頭には二つの耳と、後ろにはカールした尻尾がある。

 容姿はれいけいで、しい感じだ。


「まあ、私はD級ですしね」


 冒険者ランクは上からS、A、B、C、D、E、F、Gとある。

 依頼事にポイントがあり、それが一定数まると試験が受けられる仕組みだ。

 リンは中ほどということで、まあまあの実力者ということだ。

 まだ二十歳という若さなので、なかなかである。


「強くなったよね。初めはガリガリで弱かったのに……」

「貴方に助けていただきましたから。獣人である私を、貴方は救ってくれた。そのご恩をお返しするには、学のない私は強くなるしか方法はありませんでしたし」

「もう、気にしなくていいんだよ? 今までも世話になりっぱなしだし、これからは給料も払えないよ?」

「問題ありません。貴方がいる場所が、私のいる場所ですから」

「そっか……ありがとね、リン。これからもよろしく頼むよ」

「はい、お任せを。シルク様の代わりに目を光らせておきます」

「はい?」

「いえいえ……さあ、行きましょう。こっちです、ついてきてください」


 リンの後ろ姿を見ながら、ぼんやりと思い出す。


「リンは俺が小さい時に奴隷として売られていて……」


 俺が無理を言って買い取ったんだよね。

 生まれて初めて奴隷を見た時で、ものすごい嫌悪感を覚えたんだ。

 この世界では当たり前のことなのに……。

 でも、今ならわかる……俺の魂が拒絶反応を起こしていたのだろうと。

 ……社畜で奴隷のような日々を。

 その後、冒険者ギルドに到着する。

 冒険者は、どこの国にも属さない何でも屋さんだ。

 荷物を運んだり、護衛をしたり、魔物や魔獣を倒したり、仕事内容は多岐にわたる。

 国籍や身分を問わず誰でもなれるから、結構人気の職業でもある。

 あと、腕の良い者は貴族に取り立てられることもあるし。


「ふふふ、俺もいよいよ冒険者だね!」

「えっと……なんでテンション上がってるので?」

「男の子だからさ!」

「はぁ……変な人ですね。まあ、いつものことですが」

「ひどくない? 俺、一応主人ね?」

「では、主人らしくしてくださいね」

「はーい」


 そのままリンに案内されて、ささっと登録を済ませる。

 なんと! ほんの二、三分で終わってしまった!


「早っ!」

「そんなものですよ。いちいち時間かけてたら仕事になりませんし。わからないことやルールはガイドブックに載ってますし」

「まあ、そうなんだけど……」


 前世の記憶を思い出したからか、こういうイベントには憧れがある。

 新米冒険者に絡む奴とか、頼れる兄貴分とか、色気のあるお姉さんとか。


「さあ、出発しましょう」

「そうだね、早く行かないと強制的に連れていかれちゃうしね」

「あり得ますね、宰相辺りが」

「嫌われてるからなぁ……」


 まあ、無理もない。

 穀潰しが好かれるわけがないもん。

 宰相が悪いわけではなく、俺が悪いんだし。

 その後王都の出口にて馬を拝借して、辺境都市バーバラに向かうのだった。

 ちなみに文無しなので、リンが払ってくれましたとさ……少し持ってくれば良かった。

刊行シリーズ

国王である兄から辺境に追放されたけど平穏に暮らしたい(3) ~目指せスローライフ~の書影
国王である兄から辺境に追放されたけど平穏に暮らしたい(2) ~目指せスローライフ~の書影
国王である兄から辺境に追放されたけど平穏に暮らしたい ~目指せスローライフ~の書影