十五話
うーん……俺がさせてるみたいで嫌だなぁ。
「あのさ、リン。その人達は、なんで土下座してるの?」
「私はしない方が良いと伝えたのですが……どうしてもと言うので」
「そっか……うん、とりあえず立とうか。それで、君達のことを教えてくれるかな?」
俺がそう言うと、三人が一斉に立ち上がる。
全身が薄汚れていて少し臭いけど、彼らだって好きでそうしてるわけじゃない。
そうだった……お風呂問題もあったね。
「じゃあ、君から行こうか」
「は、はいっ! 僕は犬族の獣人です! 貴方様のおかげで、少しだけ元気になりました! ありがとうございます!」
元気よく挨拶してくれたのは、セミロングの白髪で、僕っ子口調の犬耳の少女だった。
可愛らしく人懐っこい顔をして、尻尾を振っている……可愛い。
多分、年齢は俺より少し下かな? 身長は百五十センチ前後ってところか。
うん、素直そうな子だ。
「あれ? 名前は?」
「な、ないです……ごめんなさい」
「マルス様、奴隷には名前がありませんから」
「あっ、なるほど。まだ、誰も買い取ってないってことか」
「あ、あのぅ……」
「ああ、ごめんね。リン、確認するけど……この三人は君が見込んだんだよね?」
「ええ、私自身の目で見て、使えると判断しました」
「なら、問題ないね……ひとまず、君達は俺が買い取るから」
「ふえっ?」
「お、俺を……?」
「ほ、ほんと……?」
「うん、とりあえずね。じゃあ、犬耳の君は──シロだ」
尻尾と髪が白いし、犬と言ったらこれかな……流石にポチとかじゃ可哀想だし。
「シロ……僕の名前……うぅ……嬉しいよぉ」
「ええ、その気持ちはよくわかります。では、
「は、はいっ! よろしくお願いします!」
ふむ……どうやら、自分の後継者に選んだのかな?
見た目は細っこいし弱そうだけど、そういやリンも最初はそうだったっけ。
「えっと、次は……背の高い君だね」
「オレは
二メートル近い身長に、瘦せてはいるが引き締まった身体。
金髪は量が多くボサボサで、まるでたてがみのような感じに見える。
顔は
「そっか、少しでも元気になって良かったね。じゃあ、君の名前はレオだね」
ライオンといったらこれしかないよね!
「あ、ありがとうございます! オォォォ──!」
「うわっ!?」
「貴方──静かに」
「す、すみません……」
「いえ、嬉しいのはわかりますから。貴方にはマルス様を守る護衛として期待してます」
「へ、へい!」
すごい
俺がくる前に何かあったのかな?
「じゃあ、最後は君だね」
「ひゃ、ひゃい! イタッ!?」
……今、舌を
「はい、落ち着いて。君は?」
「え、えっと……
……リンを疑うわけじゃないが、この子で平気か?
気弱そうだし、目を合わせないし……いや、リンを信じよう。
「いえいえ。じゃあ、君はラビだね」
「ラビ……わたしの名前……うわーん!」
「良かったですね。貴女には期待してるから」
「が、頑張りましゅ!」
長さのある青い髪の女の子で、長いうさ耳が特徴的だ。
身長も小さいし、十歳くらいだろうね。
将来は美人さんになりそうな顔立ちだ。
……嚙んだことはスルーしておこうね。
「なるほど、この三人は読み書きはできる?」
「はい、問題ありません。最低限のことは可能かと」
この世界の識字教育は、それなりに浸透している。
獣人でも、計算はともかく、読み書きくらいはできるみたいだ。
「それも含めて──この三人が私が選んだ者です」
……その瞬間、俺の頭の中でファンファーレが鳴る。
「仲間ができました! テレレレッテッテレー!」
「はい?」
「ごめん、リン。どうしても言いたかったんだ」
「そ、そうですか」
「あっ──しまったぁぁぁ! これはレベルアップの方だった〜!」
「はい? ……まあ、いつも通りですかね」
「それはそれでひどくない?」
視線を感じたので見ると……。
「変な人……」
「変わったお方のようだ……」
「びっ、びっくりしたぁ……」
仕方ないじゃないか! こちとらドンピシャ世代だったんだから!
「コホン! では、このメンバーで出発しようか」
「貴方達、説明はしたから平気ですね?」
「ぼ、僕は匂いを感じたり、食材を集めます!」
「オレは後ろにいて、いざという時はマルス様を身を
「わ、わたしは、音を聞きましゅ! あと、気配を察します!」
なるほど、役割分担って感じかな。
ゲームでも、バランスが大事だし。
その後、軽く食事を取り……森の中へと入っていく。
「こ、怖いよぉ〜」
「大丈夫ですよ、私が付いてます」
「この感じ……久々だせ」
「うぅー……何も出ないといいなぁ……」
「いや、出ないと困っちゃうからね?」
シロとリンを先頭に、俺とラビ、後ろにレオが一列に並ぶ。
「リン、いざという時はどうするの?」
「私がマルス様を担いで走ります。レオは二人を抱いて走ります。この人数なら、いざという時逃げるのも楽ですから」
なるほど、それもあってこの編成なのか。
その後、進んでいくと……。
「あっ、これ食べられますよ?」
「なるほど、では持っていきましょう」
「俺には、
どう見ても、その辺に生えてる雑草みたいだ。
「この子の鼻は、おそらく私より利きます。大丈夫ですよ」
「ま、間違ってたらごめんなさい」
「ううん、俺の方こそごめんね」
「あっ──言ってた通りだぁ」
「うん?」
「や、優しい方だって……奴隷にも、ふつうに接するって」
「リン?」
「私は人柄をお伝えしただけです」
何を言ったか知らないけど……むず
その後も、その子は色々な物を見て……食べられると言って、採取していく。
「なるほど……」
犬族は嗅覚が優れているから、食べられるモノが感覚的に判別できてるのかも。
「あっ! き、来ちゃいますよ!」
ラビがそう言った後、すぐにガサガサという音がする。
「各自! 戦闘態勢へ!」
そして、ゴブリンとオークが現れるが……。
「シッ!」
「オラァ!」
「ウインドカッター」
次の瞬間には、敵は全滅していた。
リンが斬り込み、レオがブン殴り、その隙に俺が魔法で仕留めていく。
理由は簡単で、事前に戦闘準備をすることができたからだ。
「はっきり言って、俺に不足しているのは戦闘経験だよね」
魔物や魔獣が出ればびびって、手元が狂いそうになるし。
でも、先にわかっていれば、少しはマシになる。
さらには、レオが隣にいることで安心感がある。
なるほどねぇ……リンの狙いがわかってきたかも。



