十六話

 その後も、進んでいくけど……。


「クンクン……これも食べられそうです」

「じゃあ、カゴに入れましょう。レオ、お願いします」

「へいっ! ねえさん!」


 レオが背負っているカゴに、果物らしき物や草を入れていく。


「……姐さん?」

「ええ、オレにとって姐さんですぜ。弱っているとはいえ、まさか力負けするなんて……」

「リン、何をしたの?」

「いえ、ちょっと教育をしただけです。元々、反抗的な奴隷で有名だったらしく……ひどい仕打ちを受けて……それでも、きょうじんな肉体と精神で耐えていたそうです」

「オレは、自分より弱い奴に従うのが嫌だっただけです」

「なるほど、それで?」

「姐さんに、主人に会わせたいからついてきてと言われまして……生意気にも逆らいまして──しこたま殴られました」

「へっ?」

「ワンパンってやつですね」

「そ、それは……アリなの?」

「ええ、獅子族の特徴は、自分より強い者に従うことですので」

「へぇ〜なるほどね」


 ヤンキーが、もっとすごいヤンキーにれるみたいな感じかな?


「最初はマルス様のこともアレでしたが……あの魔法を食らえば、オレもタダじゃ済まないっす」

「言ったでしょう? 我が主人は、強くて優しい方だと」

「はは……リン、あんまり持ち上げないでね?」

「ふふ、そうですね」


 すると……。


「あ、あのぅ……」

「うん? ラビ、どうしたの?」


 耳をピクピクさせながら、俺に近づいてくる。


「何か、動いている音が……ゆっくりな感じで」

「リン?」

「ゆっくりですか……魔物は見境なく襲ってくるはず。ならば、魔獣の可能性が高いですね」

「ま、間違ってたらごめんなしゃい……」

「別に怒らないから安心して。方向はわかるかな?」

「えっと……あっちの方から聞こえます」

「では、シロ」

「は、はい?」

「血の匂いなどはしますか?」

「クンクン……多分、しないです」

「ありがとうございます。では、移動を開始しましょう」


 リンの掛け声により、再び一列に並んで動き出す。

 できるだけ、静かに歩き続け……。


「みなさん、止まってください……ラビ、お手柄です」


 リンが指差す方を見ると、十数頭のオルクスの群れがいた。

 真っ黒の身体で牛に近い姿だが、その大きさは二メートルを超えている。

 槍のようなツノも二本あり、貫かれたら……死を免れないだろう。


「ほっ、良かったぁ……でも、いっぱいいるよぉ」

「わぁ……たくさん草を食べてますよ」

「チッ、奴等は強いぜ。姐さん、どうするんで?」

「全員でかかってきたら対処できませんね……二頭は欲しいところですが……マルス様、お願いできますか?」

「どうしたらいいかな?」

「マルス様の魔法でせんめつは可能ですが、その場合は……」

「うん、綺麗にはいかないね。細切れか、ミンチになっちゃうね」


 威力のある風魔法では、ズタズタになっちゃうし……。

 土魔法でも、ぶっ潰してしまうなぁ……。

 火属性は森を燃やしちゃうし、水魔法は攻撃に向かないし……。

 うむ、チートも考えものだね。


「では、分断はできますか?」

「分断……なるほど、それならできるかも」


 俺は草むらの陰から、様子をうかがう。

 できれば、オスとメスが良いよね。

 メスは少し赤みがかった黒だから……よし、あそこが良いね。

 二頭のオルクスが、群れから少しだけ左に離れるのを待ち……。


「アースウォール」


 俺を起点として、ぐに土の壁が出現する。


「ブルルッ!?」

「ブル!?」


 今ので、二頭と他の群れの間に壁ができた。


「続けて──アースウォール」


 今度は、右方向に土の壁を出現させる。

 これで『L字型』になり、群れの奴等は、すぐには助けに来れない。


「す、すげぇ……!」

「わぁ……!」

「はわわっ……!」

「お見事です! 何をほうけているんですか! レオ! 貴方の出番ですよっ!」

「へ、へいっ!」


 レオとリンが、それぞれオルクスに襲いかかる!

 俺はというと……シロとラビに挟まれつつ。


「させないよ」


 魔力を送り続け、壁を壊そうとしているオルクスを阻止する。

 殺すことは簡単だけど、数を減らしちゃいけない。

 ゆえに、なるべく残りは無傷でいてもらわないと。

 そして、五分ほど待っていると……。


「マルス様、遅くなってすみません」

「ううん、まだまだ余裕があるから平気だよー」


 さっきから、ズガンズガンと音がするけど……。

 ずっと、頭突きをしているのだろうね。

 少し可哀想だけど……これも、俺達が生きるためだ。


「平気だとは思ってましたが……恐ろしい魔力量ですね」

「まあ、今のところ限界はわからないけど……あれ? レオは?」

「オレならここにいます」

「うおっ!? す、すごいね……」


 まるで米俵を担ぐように、オルクス二頭を担いでいる。

 なるほど……レオの役割にはこれもあるのか。


「何を言うのですか。マルス様の魔法に比べれば、大したことじゃないですぜ」

「そんなことないよ。俺には、そんなことできないもん。適材適所ってやつだね」

「えっと……?」

「まあまあ、ひとまず帰りましょう」

「うん、そうだね。じゃあ、レオは二人を連れて先に行って」

「わかりやした」


 二人を逃がす時間を稼いだら……。


「リン、準備はいい?」

「いつでも」

「じゃあ、やめるよー」


 魔力を送らなくなった瞬間……ズガガガガという音がする。


「バルルルッ!!」

「フシュルルル!」


 そして……怒り狂った彼等が、目の前にいます。


「そりゃー、そうだよね」

「いきます!」

「ひゃぁ!?」


 む、胸が当たってるよ!? というか、女子みたいな声出たよっ!

 リンに抱きかかえられ、俺達はオルクスの群れから逃げ……。

 どうにか、振り切ることに成功する。


「ここまで来れば平気ですね。彼等も人里には近寄らないですから」

「ふぅ……怖かったぁ〜」

「ふふ、なかなかスリルがありましたね」


 そして、皆と合流して森の外へと出る。


「マルス様、さっきの話ですが……」

「うん? ああ、適材適所ってやつね。いや、リンがこのメンを選んだ理由がわかったからさ。シロは匂いに敏感で食材とかを集めるのに適してるし、血の匂いである程度相手の状態がわかる。ラビの耳は気配や音に敏感で、敵がくるのを事前にわかったり、様子も何となくわかる。レオは力持ちだから獲物を運べるし、単純に前衛としても優秀だ」

「ぼ、僕、役に立てました……?」

「わ、わたしも……?」

「お、オレもですかい?」

「うん、もちろんさ。俺にはできないことだからね。みんな、ありがとう。リン、よくやってくれたね」


 つまりはレオが前衛、ラビとシロで斥候や採取、後衛が俺、中衛兼全体の指揮をとるのがリンという感じかな。

 ゲームでもそうだけど、パーティーバランスって大事だよねっ!

刊行シリーズ

国王である兄から辺境に追放されたけど平穏に暮らしたい(3) ~目指せスローライフ~の書影
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