十七話

 帰る頃には日も暮れ始め……。

 夕日に照らされつつ、俺達はがいせんした。

 そう、正しく……魔王を倒した勇者のように歓迎される。


「おいおい!?」

「見てみろよっ!?」

「オルクスだよっ!」

「二頭もいるわよっ!?」

「領主様が、今日も大物を持ってきたぞぉぉ──!!」

「「「うぉぉぉ!!」」」


 ……めちゃくちゃ盛り上がってますねー。

 いや、気持ちはわかるけど。


「はい! どいてどいて! 後で、皆さんにも配りますから!」


 押し寄せてくる人々に呼びかけつつ、歩いていると……。


「マルス様! ご無事でなによりです!」

「ヨルさん、ただいま。悪いけど、説明をしておいてください」

「わかりました。では、このままお進みください」


 ひとまず、領主の館の前にオルクスを置いてもらう。


「レオ、お疲れ様。みんなもありがとね」

「い、いえ!」

「こ、こちらこそ!」

「ひゃい!」

「ふふ、良い働きでしたよ? マルス様、まずは彼等をギルドに連れていってもいいでしょうか? 冒険者登録をさせようと思います」

「うん、良いよー」

「では三人とも、ついてきてください」


 リンに連れられて、三人は街の中へ向かっていった。


「んじゃ……俺は、みんなにご褒美を用意しておこうかな」


 領主の館には、広い庭というか、スペースがある。

 そして、ここは俺の自由にして良いと書いてあった。


「つまり、好き勝手にしても良い場所ってことだ」


 えっと、まずは土魔法で穴を開けて……深さはこれくらい?


「広さは、七、八人くらい入れればいいかなー」


 まあ、最悪後でどうとでもできるし……ひとまず、適当でいいか。


「これに水を入れて……火で温めて……土魔法で蓋をすると」


 うん、これで良いね……あっ、眠くなってきた。

 今日も働いたもんなぁ〜。

 俺はベンチに座って、うつらうつらしながら……夢の中へ。

 ……あれ? なんか、気持ちいい……?

 モフモフしたものを触ってる……?


「ひゃん!?」

「へっ? ……リン?」

「お、おはようございます……」

「あれ? ……寝ちゃった?」

「ええ、驚きましたよ。風邪をひいてはいけないと思い、こうして膝枕をしつつ、尻尾で温めておりました」


 なるほど、モフモフの正体はこれか。


「あ、あのぅ……あまり触られると……」

「ご、ごめん!」

「い、いえ、久々だったので……以前は、よく触っていましたよね?」

「あぁーそうだね。でも、シルクに怒られちゃったから」


 肌を触るようなものですわっ! って言われてしまったし。


「ふふ、相談しましたからね。べ、別に嫌なわけじゃないんですよ?」

「うん、わかってる」

「その……たまになら良いです」

「じゃあ、そうするね」

「ところで……アレはなんですか?」

「うん? ……あっ、忘れてた」


 ひとまず起き上がり、きちんと説明をする。


「なるほど……きっと喜びますよ」


 ……リンの尻尾が揺れてる。


「リンも入っていいからね?」

「は、はいっ!」

「ウンウン、リンには世話ばかりかけてるからさ」

「い、いえ……さて、まずは食事にしましょう。寝ている間に、みんなが手伝ってくれてますから」

「そうなの?」

「ええ、人族も獣人も一緒に。勝手ながら、マルス様の名前を使わせていただきました。仲良くしなかったら、オルクスをあげないと……」

「なるほどね。うん、それくらいならいいよ」

「じゃあ、行きましょうか」


 リンの後を追って、広場に出てみると……。


「おい! これはどこ……にやればいい」

「そ、それは、そこにお願いします!」


 人族に指示してるのはラビか……。


「なんだと!?」

「や、やんのか!?」

「やめんかっ! マルス様のお気持ちを無駄にするのかっ!」


 喧嘩を止めているのはレオか……。


「おい、これはどうやって食うんだ?」

「はいっ! それはですね……」


 人族と一緒に調理しているのはシロか……。


「多少強引でしたが、この形にさせていただきました。これで仲良くなるとは思っておりません」

「うん、そうだね。そんなに簡単に上手くいったら、とっくに良くなってるもんね。でも……悪くない光景だね。別に仲良くする必要もないしね……要はお互いに理解し、尊重し合えれば良いんだから」


 住み分けというか、適切な距離感とか……うん、そういうのも大事だ。

 仲良しこよしが、正しいわけでもないし。


「あっ! マルス様だっ!」

「ありがとうございます!」

「これだけあれば、全員に行き渡ります!」


 俺に気づいた住民達が、次々とお礼を言ってくる。


「別に、俺だけの力じゃないから。さあ、まずは──うたげじゃー!!」

「「「オォォォ──!!!」」」


 あちこちで、涙を流しながら食べる獣人がいる。

 酒を飲み、肉に齧り付き、歓喜の声を上げる冒険者達がいる。

 家族で肩を寄せ合い、嚙みしめるように食べている人達がいる。

 流石に全員がお腹いっぱいとはいかないけど、ある程度は満足に行き渡るだろう。


「マルス様! これ!」


 シロが、俺に骨つき肉を差し出してくる。


「おっ、ありがとね」

「拾った物で香草焼きにしましたっ!」

「なるほど、いただきます──ウマッ!」


 嚙んだ瞬間にあふる肉汁!

 スパイスが効いてる味付け!

 嚙むたびに旨味が口の中で弾ける!


「えへへ、良かったですっ!」

「これ、香草を使って?」

「はい、それと一緒に焼くことで旨味が閉じ込められたり、柔らかく仕上がるんです!」

「シロはどこでそれを?」

「ぼ、僕は……調理担当の奴隷で……美味しそうな素材が捨てられてて……調理法を思いついても、それを言ったら怒られて……」

「そっか」

「それに、お腹がすいても自分は食べられないし……教えても意味ないのかなって思って……でも、マルス様のおかげで食べられるようになって……うぅ」

「ほら、泣かないでよ。幸せな時は笑えば良いんだよ」

「グスッ……はいっ!」

「ほら、シロも食べてきなよ」

「いってきますっ!」


 シロが走り去り……。


「ふふ、懐かしいですね」

「うん?」

「私も、シロのように思ってました。逆らっても、意味なんかないと」

「そっか……埋もれてる才能がありそうだね」

「ええ、それも狙いでした」

「なるほどね、頼りになること」

「いっぱい勉強しましたから。さあ、まずはお腹いっぱい食べましょう。野菜も果物もありますからね」


 その後、みんながお腹いっぱいとはいかないが、満足して帰っていく……。


「さて、レオ、シロ、ラビ。今日から、君達は俺と一緒に暮らしてもらう」


 全員の顔がきょうがくに染まり、口をパクパクさせているが、あえて無視する。


「というわけで、とりあえずついてきて」

「ほら! 行きますよっ!」


 三人は困惑しつつも、大人しくついてくる。

 そのまま領主の館に行き、蓋を外すと……。


「はいっ! まずはお風呂ですね!」

「「「へっ?」」」

「マルス様、このままでは混浴になってしまいますよ?」

「それもそっか……よし」


 真ん中に壁を作って、その周りも土壁で囲む。

 これで即席の露天風呂の完成だ。

 今度、扉も含めてきっちりと作ってもらおうっと。

 ……別に残念だなんて思ってないんだから!


「はい、どうぞー」

「マルス様、ありがとうございます。ラビ、シロ、行きますよ」

「「はいっ! マルス様、ありがとうございます!!」」


 リン達が入ったら、出入り口を塞ぐ。


「レオ、行くよ」

「へいっ!」


 俺達も入り、出入り口を塞ぐ。

 そこで裸になり──湯船にかる。


「ふぅ……気持ちいい〜」

「マルス様、いい湯っす」

「うん、蓋をしてたからあったかいしね。それにしても……景色も最高だ」

「今日は星が見えますし」


 すると……静かだった隣が騒ぎ出す。


「お、お風呂って気持ちいいんですね!」

「うわぁ……わたし、初めてです!」

「ふふ、そうね」


 ウンウン、みんな喜んでくれて何よりだね。

 さて……少しは、スローライフに近づいてきたかな?

刊行シリーズ

国王である兄から辺境に追放されたけど平穏に暮らしたい(3) ~目指せスローライフ~の書影
国王である兄から辺境に追放されたけど平穏に暮らしたい(2) ~目指せスローライフ~の書影
国王である兄から辺境に追放されたけど平穏に暮らしたい ~目指せスローライフ~の書影