二十話
次の日、俺はある二人を呼び出していた。
「レオ、マックスさん、わざわざすまないね」
「いえ、オレは構いませんが……ボス、何事ですか?」
……ちょっと待って!
「ボ、ボスって何?」
「いえ、姐さんの主人なので、何て呼べばいいか迷いまして……ダメっすか?」
「い、いや、別にいいけど……まあ、領主だから間違ってないのかなぁ」
「コホン! 私とこやつですか……何をなさるので?」
まあ、いきなり仲良くはなれないよね。
「実は、今日からお昼ごはんを奴隷達に与えようと思ってるんだ。もちろん、街の人族にもね。これは領主としての政策だと思ってくれていい」
昼ごはんを作って食べるのだって、時間がかかる。
これがなくなれば、結果的に仕事は捗るし、余裕ができる。
そして、領主としてお母さん達を雇うことによって、生活の足しにもなる。
そして、お金を使う余裕もできる。
これにより経済が活性化すれば、税金も増えていくだろう。
そういったことを、
「なるほど、素晴らしい考えかと」
「ええ、レオに同意します」
「うんうん、そう言ってくれると嬉しいよ。それで、二人には今日から狩りに出かけてほしい。獣人族と人族の混合パーティーで」
二人は難しい顔をして
……この二人が嫌だと言ったら、この作戦は上手くいかない。
俺は焦らずに、返事をじっくり待つことにする。
そして、しばらく待つと……二人が頷く。
「わかりましたよ、ボスに誓います。ひとまず憎しみを抑え、協力すると」
「私も同じく。奴隷を不当に扱うことだけは絶対にいたしません」
「ありがとう、二人共。じゃあ、早速行動開始といこうか」
先に二人に、それぞれ仲間を集めに行ってもらう。
「マルス様、私達はどうしますか?」
「もちろん、最初はついていくよ。緊急事態になったら対処しきれないからね」
俺も仕事がなかったり、手の空いている獣人族や人族を連れて、都市の入り口に向かう。
そこでは、人族と獣人族が気まずい空気の中、一箇所に集まっていた。
「ボス、ひとまず揃えましたぜ。一応、憎しみが少ない者達です」
レオの後ろには、屈強な熊族といわれる獣人族がいる。
「マルス様、こちらもです。偏見が少ない者を集めました」
マックスの後ろには、魔法使いや戦士達がいる。
多分、ランクは高くないけど……それで良い。
それでも、この気まずさだもんなぁ。
やっぱり、根強いよね……。
「マルス様、後ろの者達は?」
「彼等は荷物運び用に雇ったんだ。森を
「なるほど……我々は、その護衛ということで?」
「マックスさん、正解だね。レオ、理由はわかるかな?」
「……守るために連携をする必要があるかと」
「そういうこと。いきなり上手くいくなんて思ってないから。というわけで、お試しってことで」
ひとまず、彼等が先に出発し、その後を俺達がついていく。
森に入ると、すぐにラビが反応する。
「来ます!」
「わぁ!? 来たっ!」
「ヒィ!?」
戦えない者達が騒ぎ出すが……。
「慌てるな! ゴブリンごとき敵ではない! 皆の者! 二対一に持ち込んで、確実に仕留めろ!」
基本的に人族は弱い……しかし、それを数と連携で補う。
そして、協力して魔物を仕留める。
「勇敢なる熊族よ! 敵を蹴散らせ!」
「オオゥ!」
熊族の者は、その太い腕で……一撃で仕留める。
その姿はまさしく熊に近く、厳つい顔、
彼等も扱いが難しいとされる獣人の一種だ。
暴れられたら手がつけられないから、迂闊に仕事も任せられない。
しかし、レオの説得により、何とか了承してくれたようだ。
「いや〜すごいね」
「ええ、彼等が力を貸してくれるなら心強いですね」
その後あらかた片付いたら、獅子族や熊族が木を根元から抜く。
その間の警戒はラビを含む兎族が……。
魔物や魔獣が出てきたら、冒険者達が魔法や武器で仕留める。
「ウンウン、まさしく適材適所ってやつだね」
そのまま、すんなりいくかと思ったけど……そうはいかないようだ。
ラビの耳がピクピクと動き……。
「マルス様! 何か大きな生き物が来ます!」
「レオ! マックス! 戦えない者達を守って!」
「「かしこまりました!!」」
それを確認し、リンと一緒に前に出る。
そして……ズシーン……ズシーン……という足音が聞こえる。
「これは……」
「どうやら、木を抜く音に釣られてきたようですね──トロールです」
落ち窪んだ醜い顔……三メートルを超える身体と相撲取りのような肉体。
全身は緑色に染まっており、その口元からはよだれが垂れている。
こいつが、トロールか……。
高位の魔物の一種で、熟練の冒険者でないとダメージすら与えられない。
何より大食漢として有名で、放っておくと魔獣を食べ尽くしてしまう。
その強さ以上に、それが恐れられているらしい。
「あっ──あいつ、何かを持ってる?」
何と、片手で生き物を引きずっている。
「あ、あれは……ゲルバですっ!」
……あれがそうなのか。
「つまりは、鶏だね?」
その姿はダチョウに近い……しかし、
記憶を取り戻す前に、食べたことがあるからだ。
「も、もうダメだっ!」
「だから言ったんだ!」
「落ち着け! 負けることはない!」
人族が騒ぎ出す。
「俺がやる!」
「落ち着け、ベアよ」
「しかし、俺かお前でないと……」
「まあ、見てるといい」
獣人達も、何か言っているが……。
「ゴガァァァァ!!!!」
目の前の化け物が、大きな口を開けて威嚇する。
「マルス様! しっかりしてください!」
俺が
「リン、
「へっ?」
「良いから」
「は、はい……」
俺はそいつを見上げ……。
「ウインドプレッシャー!」
「ゴガバカァ!?」
風の重圧により、奴の身体は潰れる。
「な、何という威力……マルス様、ここまでなんて……」
あっ──そういや、リンの前で実際に上級魔法を使うのは初めてだった。
「おおっ! 見たかっ! ボスの力を!」
「「「ウォォォォ!!」」」
「皆の者! 見たかっ! あの方についていけば間違いない!」
「「「おぉぉぉ──!!」」」
何やら、みんなが騒いでいるが、今の俺はそれどころじゃない。
「ふふふ、手に入れた」
実は俺、前世では鶏肉が一番好きだったんだよね!



