十九話
俺達が、都市を出ようとすると……。
「あれ? ヨルさん?」
兵士数名を連れたヨルさんが、門の前で待っていた。
「マルス様、お待ちしておりました。マックス、挨拶を」
「はっ! お初にお目にかかります! 私の名前はマックスと申します! ヨル殿の副官を務めております!」
これまた、元気マックスな人が現れたなぁ。
地味な顔だけど、身体もでかいし、レオくらいありそう。
「どうも。えっと、それで……?」
「本日も狩りに出かけるとお聞きしたので、この者達を連れていってほしいのです」
「どうしてかな?」
そこでヨルさんが、俺を端に寄せ、こっそり耳打ちをしてくる。
「実は……彼らは、この都市でも有力な家の者でして……獣人に対してひどい扱いこそしてませんが、マルス様の行いに疑問を抱いています」
「ふんふん、それで?」
「そこで、彼等を連れていくことで、獣人の有用性を感じてほしいと思っております。荷物運びや清掃や雑用ばかりをさせてはもったいないと。私も、マルス様のおかげで目が覚めました。リン殿が、あんなに優秀だとは……指揮能力、管理能力共に文句のつけようがございません」
ヨルさんは、俺がいない間にもリンと話し合いをしてるんだっけ。
館の外側はヨルさんが、中はリンがっていう感じで……。
その際、色々と気づいたのかもしれない。
どうしても長年の歴史があるから、そういうものだと思い込んでいたのかも。
「うん、そうなんだよ。彼等の能力を発揮させてあげれば、色々と変化を起こせると思うんだ。もちろん、人族にしかできないこともあるから、そこは協力し合っていかないとだけどね」
「ええ、我々は協調性があったり、組織を作ったり、頭を使うことに
「うん、そうかもね。わかった、じゃあ連れていくとするよ」
人は良くも悪くも流されやすい……。
きっと、変えなきゃいけないって思ってる人はいると思う。
ただ、それを言うことで迫害されることを恐れてる。
人と違うってことは、異端なことだと……でも、俺なら言える。
この王子という立場なら……そして、社畜として辛い経験を積んだ俺なら、その意識改革ができるかもしれない。
すると……何やら騒がしくなる。
「マルス様の守りはオレの役目だっ!」
「薄汚い獣人などに任せられるかっ!」
「貴様に何がわかる! オレが好きでああなっていたとでも!?」
わぁ……早速、喧嘩してるよぉ〜。
「リン、どうしたの?」
「自分達が後衛なのがお気に召さないようですね」
「なるほど……はいっ! 喧嘩しないっ!」
二人の視線が俺に向けられる。
「レオ、喧嘩腰は良くないよ」
「し、しかし!」
「うん、君の気持ちは嬉しい。人を憎むのもわかるし、もちろん憎み続けてもいい。でも俺に免じて、その気持ちを少しだけ抑えてほしい……だめかな?」
「い、いえ……すみませんでした」
「ううん、謝ることはないよ。その気持ちを否定はしないから」
すると……。
「ふん、みたことか」
「はい、君も良くないよ。俺の役に立ちたいと思ってくれるのは嬉しい。でも、言い方が良くない。今日のところは後ろで見ててほしい……いいかな?」
「……わかりました」
はぁ……疲れる。
けど、まずは知ることから始めないと。
俺の快適なスローライフのために! ……とほほ、いつになるやら。
昨日と同じようにフォーメーションを組み、森を進んでいき……。
「何か来ます!」
ラビが反応し……。
「各自! 警戒を!」
リンが声を上げ……。
「僕がマルス様を!」
シロが、俺の横に立ち……。
「オレが前に出ます!」
レオが、全員の前に出る。
そして……。
「ゲギャキャ!」
「フゴー!」
通常のゴブリンやオークが現れるが……。
「オラァ!」
「シッ!」
「アースランス」
一瞬で、葬り去り……。
「見てください! これ、食べられますよっ!」
道中で、シロがもの拾いをし……次々とレオの背負ったカゴに入れていく。
「う〜ん……こっちかな?」
ラビが音を聞き、そちらに行くと……。
「行きますっ!」
ホーンラビットがいたので、リンが一瞬で間合いを詰め始末する。
また、ラビが反応し……ブルズがいたので、俺が魔法で仕留める。
それをレオが肩に担ぐ。
「うむ……」
「す、すげぇ……連携が取れてる」
「俺達人族では無理な方法だ……」
よしよし、やっぱり見てもらうのが一番良い。
どんなに俺が言ったところで、実感がないとね。
俺が命令すれば、良くなるかもしれないけど、それじゃあ意味がないし。
そして、一度引き返すことにする。
その間も彼らは神妙な表情で、何やら考えている様子だった。
日が暮れる前に、都市に到着すると……。
「マルス様、お帰りなさいませ」
「ただいま、ヨルさん。今回は、大物はいなかったよ。彼等がいるから、少し早めに切り上げたし」
「いえ、十分かと。マックス、どうだ?」
「……力がなく役立たずだと思っていた犬の獣人が、匂いを嗅いで食べ物を選別すること……
「そうか、それがわかったなら良い。あとは、己と折り合いをつけるんだ。マルス様は、我々をも救おうとしている。その邪魔をしてはならない」
「うん、別に獣人を特別扱いするつもりはないから。人族にも幸せになってもらわないと」
「失礼な態度を取り、申し訳ありませんでした……レオとか言ったな?」
「お、おう」
「……すまなかった。ひとまず、お前の力は認める」
「ふん……受け取ろう」
二人は渋々ながらも、握手を交わした。
まあ、少しはマシになったかな?
さて、早く館に帰ってのんびりしたいところですが……。
まだ、やらなくてはいけないことが残ってるよね。
「はいっ! しっかりやって!」
「な、なんで、私がこんなことを……!」
「我々は選ばれし者なのに……」
「こんなのは、俺達の仕事じゃない!」
「何故ですか? 貴方達が普段食べてる物は何ですか? ここにある作物ではないと?」
たった今、ギルドにいた成人した魔法使いを使って、畑仕事をさせています。
傲慢さを隠しきれない彼らを、半ば強制的にやらせています。
だって、こっちのが早いもん。それに、お金はきちんと払うし。
「そ、それは……」
「でも、魔法を使える我々は特別なのに!」
はぁ……どこの世界でも、特権階級っていうのは困ったなぁ。
彼等だって、大したことはしてないのに。
魔の森から迷い出てくる魔物や魔獣を、遠距離から倒してるだけだっていうし。
「別に魔法を使えるから特別というわけじゃないですよ。それは料理が上手だったり、走るのが早かったり……その中で、君達は魔法が得意というだけです」
しかも、中途半端に使える人ほど傲慢な感じだよなぁ。
きっと、それが己のプライドを保つ術なんだろうけど。
「そ、そんな……」
「マルス様ほどの魔法使いが……」
うーん、これは厳しいなぁ。
さて、次のところに行こうかな。
場所を変えて、様子を見ると……。
「わぁ! すごいねっ!」
「私達の魔法でも、役に立つんだねっ!」
「俺、頑張ります!」
畑を土魔法で掘ったり、水魔法で水を与えたりしている。
……どうやら、成功のようだ。
「リン、どう?」
「悪くないかと思います。成人未満で、下級魔法しか扱えない彼らですが、畑仕事をする分には問題ありません。何より、仕事があるだけありがたいと言っていますね」
こっちは一般よりは扱えるけど、魔法使いとしては未熟な人達を集めた。
水を出したり、火を起こしたりしかできない役立たずと言われていた子達だ。
でも若い分だけ柔軟性もあるし、魔法が特別なものではないと、すんなり受け入れることができたようだ。
「よしよし……」
これで稼げない冒険者達を潤わすことができる。
それに若い彼等が変わることで、大人達や次の世代に影響するかも。
「何より、これで作物が育つ」
つまり、食材が増える。
ふふふ、待っていろ! 快適なスローライフ!
……くるよね? ……頑張ろっと。



