二十四話
あれから三日……俺は惰眠をむさぼっていた。
もうここから出ない、いや一歩も動けない。
そう、これは正当な権利である。
何故なら……お布団の魅力からは誰も逃れられないからさっ!
「はいはい、わかりましたから。さっさと起きて、ごはんを食べてください」
「リンが冷たいよぉ〜。昔は、あんなに可愛かったのに。昔は、一人じゃ寂しいから一緒に寝てくれます? とか言ってたのに」
「なっ──!?」
「そうなんですかぁ?」
「そうなんだよ、ラビ。それはそれは可愛らしくて──うひゃあ!?」
俺は布団を剝がされ、勢いよくベッドから転げ落ちる!
「何すんのさっ! 寒いじゃないかっ!」
「な、何はこっちのセリフですっ! い、いつの話をしてるんですか!?」
「えっと、あれはたしか……」
「お、思い出さなくて良いですからっ!」
「えへへ〜仲良しさんですね〜」
二人でラビを見て……ほんわかする。
この子は奴隷だったのに、素直でとてもいい子なのだ。
臆病なところは相変わらずだけど、それはある意味利点だから良いしね。
ちなみに、この子の仕事は、俺のお世話係兼リンのお手伝いとなっている。
「ラビは、あんな大人になってはいけませんよ?」
「ラビは、あんな女性になってはいけないよ?」
「ふえっ!? ど、どっちなのですか!? くすん……」
「………やめましょう」
「………そうだね」
こうしてラビにより、平和は保たれたのだった。
仕方なく着替えて、朝食を食べる。
「ズズー……あぁ、あったまる。いよいよって感じだね」
十二月を過ぎ、いよいよ冬本番になってきた。
体感的には、十度を下回ってるかも。
こりゃ、布団から出たくないわけだよ。
「暖炉を置ける場所にも限りがありますし、どうしても廊下なんかは冷えますからね」
「でも、普通の家では問題ないもんね?」
「ええ、ここまでの広さはありませんから。暖炉が一個あればことは足ります」
「あとは湯たんぽとか、壁を厚くしたりって感じだよね。まあでも、これがあれば平気かなって思うけど」
オルクスの毛皮でできた服は、モフモフでとっても暖かい。
やっぱり、こいつを常備する必要があるか。
といっても、探すのも苦労するし、倒すのも大変だ。
「ええ、今は数が少ないので、来年までの課題となりますね。ひとまず、仮住まいの家はできましたし、冬を越すことは可能でしょう。最近は食事も取れているので、体力もついてきてますから」
先日から、魔法が多少使える冒険者パーティーと奴隷の獣人を使って探索を行っている。
今のところ順調で、ゴブリンやオーク、ブルズくらいなら狩れるようだ。
その食料を使って、みんなに昼ごはんを提供しているから、俺の手も空いた。
このおかげで洋服などを作る人にも材料が入るし、魔石を売る人にも材料が入る。
そして、それを買う人がいて、経済が活性化する。
「やっぱり、連携って大事だよね。魔法の威力が弱かったり、
「ええ、その有用性を皆が感じて、少しずつ広まっていけば良いかと。いきなりは無理でしょうからね。それに、レオとマックスさんがよくやってくれてますよ」
「やっぱり、あの二人に任せて正解だったね」
お試しパーティーには、引き続きマックスとレオが補佐に入っている。
レオは獣人側を説得したり、人族からの無茶な命令を受けないようにしている。
彼には、俺が名前を与えているので、人族も無視はできない。
マックスさんは人族を説得しつつ、有用性を説くって感じだ。
いずれ、不満を感じている高位魔法使いや戦士達にも行ってもらう予定だ。
「ええ、あとはシロも頑張ってますよ」
「は、はいっ!」
「うん、これはいいね。ものすごくあったまるよ。というか、そんなにガチガチにならなくて良いから。もっとリラックスしてね」
「で、でも、僕みたいな獣人が……」
「はい、それは禁止。威張る必要はないけど、卑屈になることはないよ。現に、俺は助かってるから。これ、皆にも配ろうよ」
「あ、ありがとうございます!」
シロが用意したのは、赤い葉っぱのようなものからできた飲み物だ。
それを細かく刻んで、火で
色が赤いし、少し味もアレだけど、身体がポカポカ温かくなる。
漢方薬みたいな感じかな?
そんなわけで、ようやく落ち着いて自分の仕事ができます。
いよいよ完成したというので、それを設置します。
「そりゃー!」
「「「おお〜!!」」」
はい! お風呂ですっ! これで寒さも防止できますねっ!
これが、以前職人さん達に頼んでいたものです。
無論、女性用と男性用の二つを用意してもらった。
俺は、獣人達の住み処の一角に、魔法で穴を開ける。
「じゃあ、力持ちの獣人の皆さん! お願いします!」
「「「おう!!」」」
獅子族や熊族などの力持ちが、木でできたどでかい浴槽を運んでくる。
これらは、以前森から運んできたものを使っている。
「もっと、右です! ……そこで!」
ゆっくりとおろし……俺が開けた穴に収まる。
「では、隙間を埋めてください!」
「「「はいっ!」」」
兎族や、犬族、猫族などが石や砂を隙間に埋めていく。
「では、人族の皆さん! お願いします!」
「「「へいっ!」」」
その周りを作業員の方が、元々作ってあったものを組み立てていく。
いわゆる、ある場所に一から建物を作るわけではなく、それぞれ部品となる物を先に作って、それを現地で組み立てるやり方だ。
そして……木造の風呂と、木造の建物の完成である。
「皆さん! ご協力ありがとうございます! このようにそれぞれ役割を担っていけば、生活は良くなるはずです! 仲良くしろとは言いません! ただ、自分にできることで協力をしてください!」
「……どうする?」
「いや、でもよぉ……」
「俺は協力する。それで、家族が助かるなら」
「……そうだな、それさえできれば良いな」
「お前の言う通りかもな……よし、やるか」
よしよし、獣人族と人族の大人達も少しずつわかってきたかな?
「俺達は……誇り高き獅子族や勇敢な熊族だ」
「でも、腹一杯食べられるようになったぜ?」
「それは……そうだが」
「人間に従うのは嫌だが、それ以上に飢えるのは嫌だ」
「お前、それでも誇り高き……いや、飢えに勝る苦しみはないか」
ウンウン、扱い辛いと言われてる彼等も、折り合いがついてきたかな?
小さいタイプの獣人達は、割とすぐに馴染んでくれたんだけど。
その後女子用も作り、同じものを人族の住み処にも設置して……。
「それでは、水を入れます!」
手のひらから大量の水を放出し……。
「では、火属性の魔法使いの皆さん、お願いします!」
「「「かしこまりました!」」」
冷遇されていた彼らを使い、風呂を温める。
魔物や魔獣は基本的に森にいるので、火事を起こしてしまう火属性の魔法使いは冷遇されていた。
故に、日々魔石に火属性魔法を込めて、生計を立てていた。
これからは、これも彼等の仕事になる。
そして、待つこと数分……。
「では、お入りください!」
「「「ウォォォォ──!!」」」
あらかじめ、身体の汚れを落とした獣人達が飛び込んでいく!
「ァァァ!」
「生き返る!」
「気持ちいいぜ!」
その様子を確認して、俺は扉から外に出る。
「マルス様! ありがとうございます!」
「これで明日も頑張れます!」
「いえいえ、俺は大したことはしてないですよー。これは、皆さんが作ったものです」
そんな言葉を交わしつつ、領主の館へ歩いていく。
「そう……これで良いはず」
俺が魔法で何もかも解決すればいいってわけでもない。
もちろん、早急な対策が必要な場合は、俺がやることが多いと思うけど……。
俺が死んだ後も、しっかりと回るようにしておくことが大事だよね。
「ボス、お疲れ様っす」
「レオ、迎えに来てくれたの?」
「はい、姐さんに頼まれましたので」
「どう? 身体は? 無理してない?」
日々の鍛錬や、リンとの稽古、森に出て狩りの補佐……結構忙しくしちゃってる。
「いえ、問題はありません。むしろ……オレは楽しいです」
「そっか」
「オレは生まれた頃から奴隷でした。ですが、獅子族の本能は受け継いでいます。多分、こうして暮らしていたのだと……今、実感しているところかと」
「なら良かったよ。じゃあ、これからもビシバシ働いてもらうからね?」
「お任せください! 体力には自信があります! ボスは体力がありませんから、代わりに動きます」
「おっ、言うね……リンの入れ知恵かな?」
「そ、そうです……その方がボスがやりやすいと……気を悪くしたっすかね?」
「いいや、それくらいでいいよ。レオ、頼りにしてるからね。あと、もっと気楽に接して良いからね」
そんな感じで穏やかに帰り道を歩きながら、俺は頭を巡らせる。
……さて、次は何をしようかな?



