プロローグ ②

 きょうがくと怒りで顔を赤くする公爵を見据える。アルの心に公爵家への未練など存在しない。ただ自由への渇望だけがある。騎士たちが警戒して動きを止めている隙に、公爵に向かって笑んだ。


「これまでどうも。お世話になった覚えはありませんが」


 騎士が集団で迫ってくるのを感じて、脳内にひとつの魔法陣を完成させる。アルが独自に生み出した魔法陣だ。


「さようなら」


 視界が歪んだ。音が消える。


 一瞬の間の後に視界に広がったのは深い闇が覆う深い森だった。そこかしこに魔物や動物がうごめく気配がする。


「新しい人生、よろしくね」

『ふん、我にとっては暇潰しだ。付き合ってやってもいいぞ』

「うん」


 アルが長い時間をかけて用意していた秘密基地で待っていた相棒にほほんだ。

 旅の相棒となるのは聖魔狐セントフォックスと呼ばれる狐型の魔物である。アルがブランと名付けた。魔物ではあるが、基本的に人を襲わない。を治療できる聖魔法の能力があるため、聖獣と呼ばれることもある。

 白く長い毛はふわふわででると気持ちがいい。本来の姿は体長三メートルを超える巨体だが、普段はへんで肩乗りサイズになっている。本獣は省エネだと言っていた。

 そんなブランとはこの森の中で出会い、今日まで何度も一緒に行動してきた。食い意地が張っていてわがままなところもあるが、頼りがいのある相棒だ。

刊行シリーズ

森に生きる者4 ~貴族じゃなくなったので自由に生きます。莫大な魔力があるから森の中でも安全快適です~の書影
森に生きる者3 ~貴族じゃなくなったので自由に生きます。莫大な魔力があるから森の中でも安全快適です~の書影
森に生きる者2 ~貴族じゃなくなったので自由に生きます。莫大な魔力があるから森の中でも安全快適です~の書影
森に生きる者 ~貴族じゃなくなったので自由に生きます。莫大な魔力があるから森の中でも安全快適です~の書影