八.新たな出会い ⑤

 言い合う二人を見つつ、アルはラトルが用意してくれていたさやに白銀の剣を収める。そして腰元のベルトで吊るした。


『良い剣を手に入れたな』

「うん。ここに来て良かったよ」

『アル、そろそろ夜だぞ? 宿に帰ろう。飯だ、飯!』

「……ちょっとは余韻ってものを味わわせてほしいな」


 余韻なく飯の催促をするブランに少し脱力する。しかし、それと同時に浮ついた高揚感もなくなったので、冒険者としては良かったのかもしれない。


「レイさん、僕はもう宿に戻りますね」

「おう! なんか困ったことがあったら言えよ。俺は陽だまりの宿に泊まっているからよ」

「お前、まだあの宿が定宿なのか。もっといい宿に泊まれるだろうに」

「いいんだよ! 俺があの宿好きなだけなんだから」

「あ、今日は酒に付き合え、お前の宿の食堂、宿泊者以外も使えたよな? 儂あそこの自家製チーズで酒飲みてぇ」

「俺を巻き込むなよ、酒豪! 明日仕事になんねぇだろ!」

「一日くらい休んだところで食うに困るわけじゃねぇだろ」

「そういう問題じゃねぇんだよ」

「今日はありがとうございました。お先に失礼します」


 言い合う二人には聞こえていないかもしれないが、一応礼を伝えてアルは宿へ帰ることにした。


『飯は肉尽くしがいいぞ!』

「あの宿はメニューを選べる感じじゃなかったからなぁ。どんなメニューだろうね」

『むぅ、我はたらふく肉を食いたい……』


 ブランと今日の夕飯の予想をしながら歩く。腰元に下がる上等の剣の存在を感じて自然と背筋が伸び、アルはこの剣に見合う人間にならなくてはという決意を強めた。

刊行シリーズ

森に生きる者4 ~貴族じゃなくなったので自由に生きます。莫大な魔力があるから森の中でも安全快適です~の書影
森に生きる者3 ~貴族じゃなくなったので自由に生きます。莫大な魔力があるから森の中でも安全快適です~の書影
森に生きる者2 ~貴族じゃなくなったので自由に生きます。莫大な魔力があるから森の中でも安全快適です~の書影
森に生きる者 ~貴族じゃなくなったので自由に生きます。莫大な魔力があるから森の中でも安全快適です~の書影