九.拠点作り ③
外に出て火を起こしたアルは、アイテムバッグから材料を取り出す。卵と小麦粉、砂糖、ミルク、オイル、アンジュジャムを調理台に並べた。卵を卵黄と卵白に分けて卵黄は脇によけておく。卵白に砂糖を加えて角が立つまで混ぜメレンゲを作る。別のボウルに卵黄とミルク、オイル、アンジュジャムを混ぜあわせ、小麦粉をふるってさらに混ぜた。この生地とメレンゲをあわせて、泡を潰さないようにヘラで混ぜる。これをオイルを塗った金型に入れて、窯で焼けば完成だ。
「夕飯は、やっぱり熊肉かな」
ギルドから引き取ってきていた熊肉の塊をバッグから取り出して一口大に切り分ける。それを臭み消しのハーブと共に下茹でした。別の鍋にイモやニンジン、オニオンなどを切って炒めた後、作り置きしてあったデミグラスソースで煮込む。下茹でが終わった熊肉もそこに投入して後はグツグツ煮込むだけ。辺りに良い匂いが広がる。結界外へは匂いや音が漏れないようにしているから、いくら食欲をそそる匂いを出そうとそれで魔物が寄ってくることはない。
「うーん……。ブランどこまで行ったんだろうなぁ。もうすぐ夕飯の時間だよー、早く帰ってこないと先に食べちゃうぞー」
半日もブランの姿を見てない。旅に出てからはほぼずっと傍にいた存在が感じられなくて、少し違和感を覚えていた。
「……一人きりで過ごすことには慣れていたはずなのに、こんなに寂しく感じるのは僕が弱くなったってことなのかな」
ブランと過ごすうちに、無意識のうちに心が弱くなっていたのだろうか。しかし、弱くなったとしても、昔孤独だった時よりも今の方がずっと幸せだ。たまに一人になって寂しく思おうと、ブランと一緒に楽しく過ごせる時間があるなら何の問題もない。
「ブラン、早く帰ってこないかなぁ」
アルはぽつりと呟いて、木々の合間から白い姿が見えないかと目を凝らした。



