二章 ⑫
そのことを知らない彼らからすれば、Sランク冒険者すら苦戦する危険な場所を、楽々と越えていった聖女さますごいとなるわけだ。
「しかしよぉ、聖女さまここに何しに来たんだ?」
「見ればわかるでしょう、ボルス。この高い塔を見れば」
「いや、さっぱりだ」
「聖女さまはこの世界を高い場所から見下ろし、この暗黒に包まれている世界の窮状をなげき、祈りを
と勝手に妄想するフィライト。
ボルスはそんなわけあるか、とわかってる。だがこの恋人、セイに関してだけはポンコツでかつ意固地なのだ。
ここで異を唱えたらおそらくは激怒するだろう。触らぬ神に
「そんで、聖女さまはどこへ向かわれたって?」
「そのまま南下して行ったそうですわ」
「じゃあまっすぐエルフ国アネモスギーヴに向かったのかもな。行こうぜ」
と冒険者の一団を連れて、ボルスたちは塔をあとにする。
そんなふうに歩いていると……。
「な、なんじゃあありゃあ」
とても立派な村が……否。
城塞都市が見えてきたではないか。
なんとも見事な外壁が、荒野の中にぽつんとあった。
すさまじいくらいの場違い感である。
補給の意味合いもかねて、ボルスたちは都市に立ち寄ることにした。
「す、すげえ……」「なんて立派な城塞都市なんだ……」
そこは辺鄙なところにある都市とは思えないくらい立派で、整っていた。整地された道路に、整然と並ぶ建物群。
都市で暮らす人々はみな
ボルスは近くにいた都市の人に尋ねてみる。
すると数日前までは、砂蟲に襲われて壊滅寸前の村だったことを聞いた。
……そのあまりの発展っぷりは、冒険者として世界各地を見てきた彼から見ても、常軌を逸したものだった。
「たった半月でここまで立て直したのか? いったい全体どうやって?」
すると町の人は誇らしげに、彼らをとある場所へと
都市の中心部にある噴水公園だ。そこで、とんでもないものを見かけて目を剝く。
「なっ!? あ、あの嬢ちゃんじゃねえか……!」
「素晴らしい……! 女神像ならぬ、聖女像ですわねー!」
鉱物を削って作られた、巨大な聖女像があったのだ。
フィライトは目を輝かせ、ボルスはあきれていた。
こんな物を作るなんて……。よほど、この町の人間たちはセイに感謝してるのだろう。
「この元村は、砂蟲の被害を受け死にゆく定めでした。そこへ聖女さまがお仲間を連れて現れ、我らに無償で治癒を授けてくれたのです」
セイの偉業を次々と口にしていく。
村人を治し、死者を蘇生させ、村を再生したと。
「そ、そこまでやってくれたんか、あの嬢ちゃん……すげえ……」
「ええ、ええ。しかも無償でございます! 我らが対価として、
「なっ!? 魔銀だって!? そんな高価なもんが採れるのかここ!?」
「ええ。この人外魔境の地には、いくつもの魔銀鉱山があります」
「まじか……採掘権をもらわないなんて、あの嬢ちゃん何考えてるんだ……?」
フィライトはやれやれ、とあきれたように首を振った。
ボルスはまたか……とこちらもまたあきれたようにため息をつく。
「聖女さまのほどこしは無償の愛。お金など無用ということですわ。はぁ~……素晴らしい♡ これだけの偉業をなさったうえで、しかも対価を求めない……まさに無償の愛!」
実際にはしょうもない理由から立ち去ったのだが、もちろん、彼らは知らない。
がんがんと聖女に対する好感度が上がっていく。
「そして我らに激励を与えてくださり、去ってゆきました……。その後、聖女さまの聖なる力を受けた我らは、この通りすっかり元気になりまして!」
「で、このご立派な町をあんたらが作ったってわけか」
セイが彼らに与えたのは通常のポーションだった。しかしただのポーションでも、並の錬金術師が作るものより遥かに高品質な物。
セイのポーションは彼らの細胞を活性化させた。おかげで、うちに秘めた潜在能力すらも開花。この村の全員が、才能を開花させ、結果このような立派な都市を作り上げることに成功したのだ。
「この都市は聖女都市として、この人外魔境の地を訪れた人たちに、無償で施しを与える都市として、この先も運営していこうと思います!」
それを可能にするだけの人材が、この都市には集まってるということだ。
全員がセイの出来立てポーションを飲んで、英雄レベルにまで、潜在能力を引き上げられた英雄たち。
「素晴らしい……聖女街道に聖女都市! これほどのものを作り上げるなんて……聖女さまはやはり素晴らしいですわー!」
フィライトの中で聖女セイの評価はガンガンと上がっていくのだった。



