二章 ⑪

 シェルジュが冷ややかな目を向けてきた。なんだこんにゃろ?


「ひどいネーミングですね」

「うっさい」


 すると、おお……! と村人たちが歓声を上げる。


「すごい調味料だ!」「セイさまのお作りになられた調味料……」「セイ油なんてどうだろうか!」「それだ! セイ油だ!」


 なんか知らないうちに調味料の名前にされてるし!

 は、恥ずかしいわー……。


「セイ油すげえ! 卵と合う!」「何にでも合う!」「すごい……! 聖女さまは、ポーション作りだけでなく、このような素晴らしい発明までなさるなんて!」


 どれも別にそこまでたいしたもんじゃないと思うんだけど。

 村人たちからはなんか、めちゃくちゃ感謝されたのだった。



 怪我人の治療、そして村の修復を終えた。

 さてそろそろ出てこうかなーって思ってたんだけど、どーにもまだまだ問題がありそうだ。

 村長さんが私の前にやってきて、膝をついて、頭を下げる。


「聖女さま、どうぞ我らの願いを聞いてくださいませ」

「はいはいなんですか、あと聖女じゃなくて以下略」


 もう面倒なので訂正しない。そのうちに本当の聖女さまに怒られそう。

 や、別に私聖女を名乗ってるわけじゃあないんだけどさ。


「この村は見ての通り貧相な村でございます。この人外魔境で魔物の脅威に常に怯えるしかなくて……」

「ん? というか今まではどうしてたの?」

「いにしえの勇者さまが結界を張ってくださっておったのです。しかし年月とともに結界が薄くなっていき、つい先日、結界が壊れてしまったのでございます」


 なるほど……。ここ、結構魔物多いし、どうやって村人生きてたのかなーって思ってたけど、そのいにしえの勇者とやらが結界を張ってたのね。

 で、結界が壊れて、魔物が入ってきて、あの惨状ってわけか。


「どうか聖女さまのお力で、結界を張り直していただけないでしょうか」

「うーん、結界は無理かなぁ」

「そんな……!」

「でも魔物は寄ってこないふうにはできると思うけど」

「おお! 是非お願いします!」


 ということで、村に魔除けのポーションをまくことにした。

 トーカちゃんとシェルジュ、二手に分かれて、魔除けをポーションを村を一周する感じでまいていく。


「……セイさま。魔除けのポーションの効果はどの程度あるのでしょうか?」


 エルフのゼニスちゃんが私に至極当然の疑問を聞いてくる。


「ま、ある程度は持つでしょう」

「……ある程度」

「正確な数字はわからないけど、ま、五〇〇年くらいはへーきでしょ」


 なにせ、五〇〇年前、王都を襲ってきた魔物の群れを、私の魔除けのポーションは追い払ってくれたんだから。

 私が仮死状態になったあとも五〇〇年間、少なくとも効果は持続していただろう。

 でなきゃ、私はとっくに魔物の餌になっていたはずだからね。

 あ、ちなみに魔除けのポーションって、水で流すとかけた対象への効果はなくなるわ。

 でもたとえば雨などで洗い流されたら、地面にその成分が残る。その土地に魔除けの効果は持続するわね。


「……あ、相変わらずすさまじいですね、セイさまのお作りになられるポーションは」

「ありがと~」


 わしゃわしゃ、と私はゼニスちゃんの頭をなでる。

 ちょっと照れつつも、私のなすがままになってるゼニスちゃん。かわよ。

 ダフネちゃんがすすす、と近づいてきて、んんっと頭を突き出してくる。

 自分もなでてほしいのか。かわわ。

 魔除けのポーションをまき終えた二人。


「これでもう安心でござるよ! 主殿のポーションは、道中敵をまったく寄せつけてなかったでござる! 効果はおすみつきでござるよ!」

「おお! なんと素晴らしい! ……ですが、あの化け物はどうでしょうか」


 村長さんが暗い顔をして言う。


「あの化け物?」

「はい。砂蟲というおぞましいミミズの化け物です。近頃になって姿を現し、村を何度も襲ってきたのですが……」


 砂蟲……砂蟲……。あ、あれかぁ。


「それなら問題ありませんよ」

「も、問題ない……とは?」

「シェルジュ。あれを」


 うなずくと、エプロンのポケットから、砂蟲の頭部を出してくる。

 モンスターの一部はポーションの材料になるから、なるべく回収するようにしてるのよね。


「お、おお! それはまさしく砂蟲! で、では……聖女さまが、倒してくださったと!」

「まあね」


 倒したっていうか、私たちの旅を邪魔してきたので爆破しただけなんだけども。

 村長さんたち含めて、村の人たちが涙を流しながら、何度も頭を下げてくる。


「うんうん、よかったね。じゃ、長居しちゃったし、私はこれで!」


 もろもろの問題も片付いたし、とっととエルフの国に行きたいものね!


「お待ちくだされ!」


 ま、まだ何かあるの……?

 もう、めんどいなぁ。正直このままずるずる、ここでに縛られるのも嫌なのよねぇ。私はいろいろ見て回りたいわけだし。


「実は聖女さまに……」

「村長さん、そして、皆さん、よくお聞きなさい」


 彼らの注目が私に集まる。こほん、とせきばらいをして言う。


「私たちはこれでおいとまします。あとのことは自分たちでなんとかしなさい」

「あ、あの聖女さま。実は……」

「いつまでも、あると思うな聖女さま」

「!」

「とまあ、いつも私が通りかかるとは限らない。天の助けを待つんじゃなくて、自らの意思と力で、守りたいものを守る。そうするべきだと私は思うんだ」


 ようは自分のことは自分でしてね、いつまでも頼られても迷惑だから、という意味で言った。

 だが村人たちは、まるで夢から覚めたように、はっとした表情になる。


「というわけで私はこれにて失礼。あとは強く生きるのですよ」

「「「はい! 聖女さま!」」」


 よし! 面倒ごと回避!


「さすが聖女さま、素晴らしいお言葉だ!」「素敵!」「この日、この言葉をつづって、子々孫々に言い伝えとしてのこしていこうじゃないか!」「それ賛成!」


 なんかまた頼まれそうだったから、これでなんとかごまかせたわよね。

 奴隷ちゃんたちとともに竜車に乗って出発。


「聖女さま!」「おたっしゃーでー!」「このご恩は一生忘れませんー!」


 後ろで村人たちが手を振ってる。ふぅー……いやぁ、働いてしまったわー。

 私は荷車でごろんとなる。


「おねえちゃん! んー!」


 ダフネちゃんが抱きついてくる。おお、ちょうどいい抱き枕。


「わはは、もふもふ~」

「もふもふ~♡」


 ゼニスちゃんが首をかしげながら聞いてくる。


「ところで、セイさま。あの村人たち、最後に何を言おうとしていたのでしょうか?」


 村長さんがしようとしてた、最後のお願いのことを指してるのだろう。


「さーね。面倒だから逃げちゃったけども、ま、あとは自分たちでなんとかするっしょ!」


 こうして私たちは村をあとにしたのだった。



 セイたちが村を出発して半月ほどが経過したある日のこと。

 追跡するSランク冒険者フィライトが、ふらふらとなりながら悪魔の塔を踏破した。


「フィライトさん! ご無事でしたか!」


 恋人のボルスをはじめ、同行してきた冒険者たちは、塔の入り口で待っていた。

 フィライトを抱きしめてあげるボルス。だいぶお疲れのようだった。なにせクリアに二週間もかかったのだ。


「お疲れ。そんで、手がかりはつかめたのか?」

「ええ、ボルス……ここは、聖女さまのお師匠さまの塔でしたわ……」

「師匠?」

「ここで聖なる御技を鍛えた、とのこと。塔の最上階にいた、侍女さまより聞きましたわ……」


 フィライトはこの塔であったことをボルスたちに語る。

 中には難解なトラップ、強力なモンスターなどがうろついていた。

 聞いただけでボルスたちが震え上がるほどの、恐ろしいわなが仕掛けられていたのである。


「聖女さまはこの塔をなんと、数秒でクリアしたと、侍女さまよりうかがいましたわ!」

「おお!」「すげええ!」「フィライトさまが二週間もかかった試練を数秒でなんて!」


 セイへの評価がまたも爆上がりしていく。だが実際にはセイは転移ポータルを使っただけで、塔内のトラップなどにはまったくひっかかっていない。

刊行シリーズ

天才錬金術師は気ままに旅する2 ~500年後の世界で目覚めた世界最高の元宮廷錬金術師、ポーション作りで聖女さま扱いされる~の書影
天才錬金術師は気ままに旅する ~500年後の世界で目覚めた世界最高の元宮廷錬金術師、ポーション作りで聖女さま扱いされる~の書影