3話 異世界からやってきた女騎士 ②

 となると、セラムは身寄りがないことになるな。こんな若い女性を野宿させるのも気が引ける。


「とりあえず、今日は遅いから俺の家に泊まっていけ」

「……ああ。世話をかける」


 家に戻ることを提案すると、セラムは呆然としながらも軽トラの荷台によじ上って三角座りをした。

 助手席ではなく、まさかそっちに乗るとは……。

 ここから先はへいたんな一本道だ。荷台がいいというのであれば、そのままにしておこう。

 運転席に乗り込むと、俺は軽トラを発進させた。

 二十分ほど夜道を進むと、俺たちは家に戻ってきた。

 運転席を降りるもセラムが荷台から降りてこない。


「おーい、家に着いたぞ」

「ああ」


 声をかけるとボーッとしていたセラムは、今気付いたかのような反応で返事して降りた。

 玄関に入ると、セラムはちゃんと靴を脱いで上がってくれた。

 昼間の注意を覚えていたようだ。


「夕食はどうする?」

「あまり食べる気分ではない。すまないが、先に休ませてもらっていいだろうか?」


 突然、異世界にやってきてしまったことを認識したショックで、食欲も湧かないようだ。

 それもそうか。俺が逆の立場なら混乱して泣き叫ぶかもしれない。

 そんな中、こうして落ち着いた様子を見せるセラムは、かなり心が強いな。

 今は心を整理する意味でも一人にさせておく方がいいだろう。

 俺は空いている寝室にセラムを案内すると、押し入れから客用の布団を取り出してセットした。


「なにかあったら声をかけてくれ」

「ああ」


 セラムの生返事のような言葉を聞き、俺は寝室を後にすることにした。

 そういえば、家を飛び出してから水は飲んでいるのだろうか? 寝る前に水くらいは持っていってやるか。

 グラスに水を入れて寝室に近づくと、中からすすり泣くような声が聞こえた。


「…………」


 取り乱していないように見えたが、やはりかなりショックだったらしい。

 俺は寝室のそばにグラスと水差しを置いて、リビングに戻った。

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田んぼで拾った女騎士、田舎で俺の嫁だと思われている2の書影
田んぼで拾った女騎士、田舎で俺の嫁だと思われているの書影