Ⅰ ⑤
少なくとも父母はそう感じている。いや、この国の常識に沿えば誰もがそう感じるのだ。
震える母の肩を抱きとめ、父が告げる。
「来年はフェリシアも騎士団へ行く。だがお前は関わるんじゃないぞ」
「分かりました。ではお元気で」
そう言って馬車に乗り込む。
父母は当然言葉を返さなかった。
そして俺とエミリーを乗せた馬車は、第五騎士団本部へ向けて走り出した。
◆
「廃嫡!?」
「ああ」
馬車の中、俺たちはしばらくの間無言だった。
だが、やがて沈黙に耐えられなくなったのか、おずおずとエミリーが話しかけてきた。
その中で俺たちは
俺は家督の相続権を失った。つまり廃嫡だ。
それを伝えると、エミリーはショックを受けた様子を見せた。
「た、確かなの?」
「はっきり言われたよ。次期当主はフェリシアだって」
エミリーは
「ごめん、エミリー」
「どうして謝るの?」
「婚約破棄に関してだよ。君の人生を振り回すかたちになってしまった」
エミリーは、一瞬自失の表情をみせ、それから叫ぶように
「婚約破棄って……なんで!?」
「認めたくないけど、そういうことになるんだよ」
それは考えるまでもないことだったが、エミリーは
「エミリーはバックマン家の次期当主に輿入れする予定だった。そして俺は次期当主じゃなくなった。だから婚約も無くなる」
「で、でも! だって! 私はロルフと……!」
「ごめん。俺が魔力を得られなかったから……」
「ロルフ……」
エミリーの目がみるみる涙で
俺は驚いていた。
彼女も強い信仰心を持っているはずだ。それなのに神の裏切り者たる俺を嫌悪しようとはしない。
それをこの上なくありがたく感じた。
そして、彼女の涙にとても申し訳ない気持ちになった。両親の期待に背いたことよりもずっと。



