Ⅰ ⑤

 少なくとも父母はそう感じている。いや、この国の常識に沿えば誰もがそう感じるのだ。

 震える母の肩を抱きとめ、父が告げる。


「来年はフェリシアも騎士団へ行く。だがお前は関わるんじゃないぞ」

「分かりました。ではお元気で」


 そう言って馬車に乗り込む。

 父母は当然言葉を返さなかった。

 そして俺とエミリーを乗せた馬車は、第五騎士団本部へ向けて走り出した。




「廃嫡!?」

「ああ」


 馬車の中、俺たちはしばらくの間無言だった。

 だが、やがて沈黙に耐えられなくなったのか、おずおずとエミリーが話しかけてきた。

 その中で俺たちはとつとつと会話し、話は旅立ち前夜のことに及んだ。

 俺は家督の相続権を失った。つまり廃嫡だ。

 それを伝えると、エミリーはショックを受けた様子を見せた。


「た、確かなの?」

「はっきり言われたよ。次期当主はフェリシアだって」


 エミリーはろうばいしている。


「ごめん、エミリー」

「どうして謝るの?」

「婚約破棄に関してだよ。君の人生を振り回すかたちになってしまった」


 エミリーは、一瞬自失の表情をみせ、それから叫ぶようにいてきた。


「婚約破棄って……なんで!?」

「認めたくないけど、そういうことになるんだよ」


 それは考えるまでもないことだったが、エミリーは狼狽うろたえるばかりで、冷静な考え方ができなくなっている。


「エミリーはバックマン家の次期当主に輿入れする予定だった。そして俺は次期当主じゃなくなった。だから婚約も無くなる」

「で、でも! だって! 私はロルフと……!」

「ごめん。俺が魔力を得られなかったから……」

「ロルフ……」


 エミリーの目がみるみる涙でれる。

 俺は驚いていた。

 彼女も強い信仰心を持っているはずだ。それなのに神の裏切り者たる俺を嫌悪しようとはしない。

 それをこの上なくありがたく感じた。

 そして、彼女の涙にとても申し訳ない気持ちになった。両親の期待に背いたことよりもずっと。

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