プロローグ

 小説やゲーム、漫画やアニメでもそうだ。

 この世に存在する物語の多くが、様々な登場人物によって成り立っている。

 たとえばヒロインや友人、舞台が学校であれば教師たちも登場するため、文字通り物語の数だけ登場人物が存在する。

 一方で、どんな物語にも共通するのが主人公と呼ばれる存在だ。

 物語に没頭する者は、その主人公に様々な感情を抱くことも珍しくない。

 たとえばその物語がファンタジーなら、剣や魔法に秀でた主人公が勇敢に振る舞う姿に憧れても不思議ではない。また、主人公のそばに魅力的なヒロインがいれば、それを羨ましく思うことだって。


 けれど、忘れてはならない。

 魅力的な登場人物と言うのは、主人公たちに限った話ではない。

 絶対的な力を持っている敵キャラクターが魅力的に思えることも、決してあり得ない話ではないだろう。

 どこかミステリアスで強大な存在というのは、それだけで鮮烈な印象を残すからだ。


 ────たとえば、彼がプレイしているゲームのように。


『教えてくれ。英雄と呼ばれているお前たちに、本当にその価値があると思うかを』


 画面越しに見える世界の中。

 崩壊した家々が乱立した町の跡で、元は家だったれきに腰を下ろした一人の少年が言った。

 問いかけられたのは、その物語の主人公だ。彼は魔王を打ち倒した勇者のまつえいで、その傍には何人かの仲間たちがいた。

 だが、その誰の口からも答えが聞こえてこない。

 その代わりに主人公は一人立ち上がり、瓦礫に座したままの少年へ立ち向かう。


『俺たちは負けないッ! 負けるわけにいかないんだッ!』


 それを待ち受ける少年は地面に突き立てていた剣に手を伸ばし、静かに立ち上がった。

 迫る主人公は軽くはらわれたその剣の圧で、自身の身体からだごとはじばされた。彼はそれからも幾度と立ち向かったが、結果は変わらない。


『絶望しているようだな。皆で命を懸けても俺に届かないと知り、心が神にすがりはじめたのが見てとれる』


 少年は攻撃、防御、そして魔法────すべてがとてつもないレベルの実力者で、立ち向かうすべてを寄せ付けなかった。

 そんな少年に立ち向かううちに、ついに主人公の体力が尽きた。

 彼は大地に前のめりに倒れると、意識がかすむ中で少年の声を聞く。


『お前たちが羨ましいよ。世界の真実を知らず、無力でも許されるその生き方がな』


 やがて、少年はこの場を後にした。誰一人の命も奪うことなく、去り際に意味深な言葉を残して。

 その姿には、物語の陰で暗躍する強者の雰囲気が漂ってまなかった。



「……つっよ」


 これまでテレビをじっと見ていた青年は思わずコントローラーを床に置き、少年が去り行く姿を画面越しに見つめた。涼しげに戦い、主人公たちを子供扱いする姿には、あの少年がどれほど強いのだろうと心が躍った。

 そうした感情に身を任せていると、彼はふと唇を動かした。

 強すぎた少年の姿がまぶたの裏に焼き付いて離れず、こんなことをつぶやくのだ。


「もし、俺が────」


 あの少年だったら、どう生きるのだろう────と。

刊行シリーズ

物語の黒幕に転生して7 ~進化する魔剣とゲーム知識ですべてをねじ伏せる~の書影
物語の黒幕に転生して6 ~進化する魔剣とゲーム知識ですべてをねじ伏せる~の書影
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