より一章 絶対強者に転生して ①
剣と魔法の世界が大好きだった。
ゲームは幼い頃からファンタジーものしかプレイしたことがない。小説だってファンタジーものばかりを好んで読んでいる。
ファンタジー世界の物語なら、数日徹夜しても楽しめる自信があった。
────
もちろん、ゲームだけの生活を過ごしているわけではない。
普段は大学に通う四年生として過ごし、最近は就職に向けて
そんな蓮は、ある週末の三日間を期待の新作ゲームのために空けていた。
日付が金曜日に変わると同時にゲームをダウンロードして、プレイすることおよそ二日。
ほぼ眠ることなくプレイし終えた日の夕方、蓮はテレビの前で歓喜に満ちた声を上げる。
「エンディングだぁぁあああーッ！」
プレイしていたのはロールプレイングゲームだ。
だから誰かと競うわけでもないが、仮眠らしい仮眠もとらずにプレイしたことで生じた興奮が冷めやらぬまま、ＳＮＳにエンディング画面の一部を投稿するのは気持ちが良かった。
ネタバレにならないよう気を遣っての投稿は、ゲーマーとしての
「もしかしてこれ、世界最速じゃないか？」
その言葉に答えるかのように、スタッフロール後の画面に文字が浮かび上がってきた。
『システム：ゲームクリアおめでとうございます。クリアタイムをサーバーに記録しますか？ はい／いいえ』
蓮が「もちろん！」と言って「はい」を押して間もなく、画面上に新たなシステムメッセージが浮かび上がる。
そこには彼の予想を証明するとともに、彼の心を躍らせる一文が添えられていた。
『システム：クリアランキング一位の報酬として、特別なダウンロードコンテンツを獲得しました。ダウンロードしますか？ はい／いいえ』
「特別な……って、するに決まってるだろっ！」
もう一度「はい」を押すと、１％……２％……とダウンロードが進んでいく様子が画面の片隅に現れた。
特別なダウンロードコンテンツとやらがどういう内容かわからないが、メッセージではランキング一位の報酬と記載されていた。つまり、他の人は
こんなの、ゲーマーとして興奮しないはずがない。優越感すらあった。
「……少し落ち着こ」
蓮は早鐘を打つ胸を落ち着かせるべくソファに背を預ける。
ダウンロードを待つ間手持ち無沙汰だったから、スマホを手に取って、今プレイしたばかりのゲームの公式サイトを開いた。
【
開発者から全三部作と宣言されたファンタジーＲＰＧだ。
物語は七英雄と呼ばれる七人が魔王を討伐した数百年後の世界で、その子孫たちが様々な苦難を乗り越え、成長していく学園物となっている。膨大な量のサブストーリーはもちろんのこと、好みのヒロインと恋仲になることもできる、いま世界で大人気のゲームだ。
その物語の主人公は、平民の両親を持つ田舎生まれの少年だ。
彼は幼い頃、秘められた力に覚醒したことで、帝都にある帝国一の
そこで七英雄の血を引くと言われる六人の男女と出会い、魔王復活を
蓮がクリアしたのは、その続編にあたるⅡだ。
「Ⅱも最高だった」
学園生活や主人公たちの成長に主軸を置いたⅠと違い、Ⅱでは今までにない物語最大の騒動が勃発する。
『────滑稽だな。英雄の末裔というのは、俺一人も止められないのか』
Ⅱをプレイ中、蓮に思わずコントローラーを置かせた少年の発言だ。
その少年は主人公たちの同級生にして、友人キャラとして登場していた。彼は聖女と呼ばれる少女を殺し、世界最高の魔法使いと称される学院長の命まで奪ってしまうのだ。
『理解したはずだ。いまのお前たちが命を懸けたところで、俺に届くことはない』
彼は凶行を問いただす主人公たちを軽々と倒すと、そう言い残して、
それからというもの、帝国では様々な事件が起こる。
友人は騒動の場にやってきて意味深なことを言ったり、主人公たちと戦うこともあった。
だが、その目的はもちろんのこと、彼と魔王復活を企む者らの関係も明らかにならぬままエンディングを迎えてしまった。
最後には皇帝が友人を討伐するよう命令を下し、つづきはⅢにお預けとなったのだ。
────蓮は思い出しているだけで楽しくなってきてしまった。
結局落ち着くことができず、スマホを手放す代わりにコントローラーを手に取った。
特別なダウンロードコンテンツとやらはまだダウンロードし終えていなかったから、ゲームをタイトル画面に戻して気分を一新させる。
「……暇だし、隠しスキルでも探しながら待ってるか」
それは、このゲームにあるやり込み要素の一つだ。
二周目からは主人公のスキル名を日本語に変更することはもちろん、既存のスキルを三つまで掛け合わせて、オリジナルのスキルを作り出すこともできるようになる。
ただ、ゲームバランスを崩さないための調整が入ることがある。
特にユニークスキルと呼ばれる、特別な者にしか使えないスキル名や効果は使用できない。
隠しスキルはその代わりに、特定のスキルを掛け合わせることで楽しめる要素の一つだった。
……それから蓮は、数十分にわたって隠しスキルを探した。
だが数十パターンを試しても、数百パターンを試しても見当たらない。
隠しスキルは特定のスキル同士を掛け合わせれば、勝手にそのクラス名が記入される仕組みだ。そのため、すぐにそれだとわかるはずなのだが……。
「だーめだ。見つからない」
蓮は遂に疲れ切ってスマホに手を伸ばし、ＳＮＳで他にゲームクリアした人が居ないか検索をかけてみる。
するとそこには、いくつか気になる投稿があった。
〝アイツは間違いなくⅢのボスキャラ〟
〝黒幕はヤツ。魔王を復活させようとしてるのもヤツだ（と思う）〟
〝最後の方は戦隊もののブラックみたいな感じだった。正直、カッコいい〟
Ⅱのエンディングを見た者たちが散見された。
何人かは蓮がＳＮＳ上で話したことのあるゲーマーたちだったから、蓮は彼らなら大丈夫だろうと思いメッセージを送る。
「隠しスキルありました？ ────っと」
返事はすぐ、一分も経たぬうちに届いた。
残念なことにまだ誰も隠しスキルを見つけられていないようで、蓮は少し落胆した。だが同時に、絶対に見つけてやるという意思を固めた。
目薬を差して気を取り直すと、蓮の目には99％の文字が映る。
「あ、やっとか」
特別なダウンロードコンテンツは蓮がそう呟くと同時に１００％になった。
ダウンロード終了！ このメッセージが数秒だけ表示されたと思いきや、すぐに消えてしまう。
蓮は消沈した。
せっかく楽しみにしていたのに、何も違いが見当たらなかったからバグなのかと思い、深い嘆息を
そして────。
更に数十分が経ち、偶然にも隠しスキルを発見した。
「魔剣召喚？」
組み合わせたスキルは剣士と黒魔法、そして召喚師の三つだ。
驚いた蓮はおもむろに小首を
この組み合わせはよく使われるスキルを掛け合わせただけで、何度か試したことがある。
なのにどうして同じ組み合わせを試してしまったのかと言うと、単に間違っただけだ。
何百通りの組み合わせを試していると、どうしても間違えて同じ組み合わせを入力してしまうときがある。ただ、それだけのことだった。
だけど蓮は頰を緩めた。
隠しスキルを見つけられたことに素直に喜びをあらわにして、スキル決定のボタンを押したのだが、
『システム：魔剣召喚はユニークスキルのため、通常モードでは使用できません』
蓮は
