刑罰:ゼワン=ガン坑道制圧先導 4 ③

 俺の合図とノルガユの偉そうな命令に、鉱夫たちはよく応じた。地鳴りのような野太い雄叫びと前進。さっきの長の言葉は、口だけではなかったことが証明される。十五歩分後退した集団は、ボガートどもの包囲を避け、さらに突撃の間合いを稼いでいた。

 スコップとツルハシが一斉に突き出される。ボガートどもの頭部が砕ける。

 叫びと金属音。ボガートどもの反撃。そのまま正面からぶつかり合う、戦闘らしい戦闘の形になっていく。こうなると鉱夫たちは不利だ。戦闘技術と、身体能力の違いが出てくる。

 だが、これでいい。最初に出鼻をくじいて時間は稼いだ。


「──ぐぅぅううううるああああ!」


 坑道の奥から叫び声が響いてくる。

 ボガートどもの後ろから、タツヤと、三人の鉱夫が突っ込んできていた。つまり偽装の後退、誘い込んでの反撃、迂回させた別動隊で背後をく。歴史上何度となく繰り返されてきた古典的な手口だが、いまもなお有効な戦術だった。

 ボガートどもが混乱する。互いに衝突するやつも出てくる。そこへタツヤが戦斧を振るって飛び込み、二匹の頭をまとめて粉砕した。


「あぁあああうううう!」


 タツヤの雄叫びが長く尾を引く。残響する──ここが勝負だ。俺は温存していたナイフの一本を引き抜いた。


「ふ」


 振りかぶる。


「き」


 ナイフに聖印を浸透させる。


「とべっ」


 投擲する。

 爆破と閃光が、タツヤたちの攻勢で怯んだボガートどもをまとめて吹き飛ばす。


(あと何匹だ?)


 考えておいた戦術が有効なのはここまでで、後は乱戦だ。俺は真っ先に突っ込む。勢いよく踏み込んで、即座の跳躍、回避、紙一重、斬撃。俺こそがこいつらにとっての一番の脅威だと主張するように、戦う。殺す。


(もっとだ。注意を引け)


 俺はタツヤと競うように血の嵐を作る。タツヤはほうこうをあげている。俺もそれに倣う。


「こっちだ、来い! 俺を退屈させるなよ!」


 そうすることによって、鉱夫たちから注意をそらす。心臓が破裂しそうなほど激しく動く。俺たち自身を警戒させ続ける。

 とはいえ、俺もタツヤも、ぎりぎりのところで間に合わない。そういう瞬間がやってくる。

 何匹かのボガートが、俺とタツヤの迎撃をすり抜けた。顎を開き、ごつい牙の生えそろったその異様な器官を剝き出しにする。鉱夫たちの迎撃だけでは対処しきれない。反撃し損ねた、一人の男の足に嚙みつかれた。悲鳴。一斉にボガートがそいつに群がろうとする。これはまずい。


(ちくしょう)


 俺は強引に反転しようとした。

 我ながらまずい選択だったと思う。相手に背を向けて、負傷は覚悟のうえで──その瞬間、やつらの頭部に、鋼の剣が生えた。

 これはボガートの知られざる生態かと、一瞬そう思った。

 だが、そんなはずもない。剣は虚空から落下してきたものだ。ボガートたちは体液をまき散らし、苦痛の鳴き声をあげた。俺は起きたことを理解しようとして、目を凝らす。闇に火花が散っている。通路の奥だ。戦斧を振るうタツヤの、さらに向こうで、炎のような目が輝いた。


「お待たせして申し訳ありません」


《女神》テオリッタは、やや上ずった声でそう告げた。

 頰が上気している。息が少し荒い。あの虚栄心の強い《女神》でさえ隠しようのない疲労は、それほど急いでここへ来たことを示している。あるいはそれほど苦労して、聖騎士団を出し抜いて、ここへ来たことを。


「剣の《女神》テオリッタ、ただいま参りました。みなさん、どうぞ思う存分褒め讃えるがよいでしょう! さあ、我が騎士ザイロ。歓喜の声を聞かせなさい」


 そのバカバカしい口上──なかなかセンスがあるじゃないか。

刊行シリーズ

勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録VIIIの書影
勇者刑に処す 懲罰勇者9004隊刑務記録VIIの書影
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