6 ③
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……そして、その光景を遠く、交番の窓から無数の隙間をぬって線としてつながっている公園のジャングルジムの、その頂上から一つの影が見ていた。
「…………」
黒いマントに、黒い帽子を被り、白い顔には黒のルージュが引かれている。
人はその影をブギーポップと呼ぶ。
「…………」
ブギーポップは三平の様子を見ている。どうやらそれにもはや危険がないことをあらためて執拗に観察していたようである。
「…………」
かすかにうなずくと、ブギーポップは視線を外して、陽が落ちてすっかり暗くなった空を見上げる。
雲ばかりらしく、そこに星明かりは一つも見えない。
ただ月だけが、雲間からやけにぎらつく光を漏らしているだけだ。それはひどく冷たい感触を持った照明だった。
「しかし……気になることを言っていたな」
ブギーポップは性別不明の声で囁く。
「〝たまご〟か──」
一陣の風がびょう、と吹いた。
マントが激しく踊り、ブギーポップはそのまま風と一体化して飛んでいくかのように身をひるがえし、そして一瞬の後には、月明かりに照らされる無人の静寂がただ広がっているのみだった。
“The EMBRYO” 1 st half-erosion- stop.
turn to the next -eruption-