第二章 これから先の事、選択するべき事 Dream. ④

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 はまづらあげはビルの壁に背中を押しつけていた。

 そのままずるずると座り込む。

 くるわはここにはいない。

 先ほどまでの、彼女との会話が脳裏に浮かぶ。



『あれですよ。はんぞう様は今、小さな女の子をかくまっているんです』



 実を言うと、浜面仕上は大手を振って学園都市での生活を満喫できる立場にはない。

 そもそも街の『外』へ飛び出して第三次世界大戦の渦中に巻き込まれるきっかけになったのも『学園都市のやみを深く知り過ぎ、不確定要素として判断されたがゆえの』とうこうだった。

 戦争の過程で、浜面は『あるデータ』を手に入れている。

素養格付パラメータリスト』という名前の、学園都市を揺るがすデータだ。

 だがそれも、万能ではない。

 今はてんびんの釣り合いが取れているが、その傾きが一定を超えれば、学園都市は裏の裏をかいて、浜面をまつさつする手段を組み上げるはずだ。



『詳しい事は分かりませんけど、何だか学園都市の「上」からねらわれているみたいでしてね。例の子、その辺を歩かせておけば三〇分で殺されそうな感じなんですって』



 ただでさえ、天秤はきわめて不安定だった。

 ここでさらに大きな刺激を与えれば、あっという間に片方へ大きく傾いてしまう。

 それを防ぐ意味でも、今は大人しくしていた方が良い。

 天秤が本当に命を預けるに足るものかどうか、時間を掛けて見極めた方が良い。

 それはつまり、この問題に手を出すなという事だ。

 半蔵を切り捨て、命を狙われているというその少女も見捨てろという事だ。



『名前は何だったかな』



 多分、その意見は間違っていない。

 安全策というものをてつていすれば、自然とそういう選択だけが残る事になる。

 はまづらたきつぼこうを守ると誓った。

 少しでも危険なものは彼女から遠ざけたい。再び学園都市の『やみ』が彼女をみ込むような事態だけは、絶対にかいしたい。

 だから、見捨てるというせんたくは間違っていない。

 絶対に間違っていない。

 だが、



『確か……フレ……フレ、メア。……そう、フレメア=セイヴェルンっていうんですよ。一〇歳くらいで、ふわふわした金髪の女の子。良く、こま氏になついていましたっけ?』



 路地でうずくまる浜面は、奥歯をめた。

 駒場とくというのは、かつて多くののために学園都市の『闇』と戦い、そして死亡したスキルアウトのリーダーだ。

 言ってみれば、フレメアという少女は駒場利徳が命をけて、最後の最後まで守りたいと願っていた人物なのだ。おそらく半蔵がフレメアをかくまっているのも、駒場の遺志を受け取っての事だろう。

 フレメア自体は、スキルアウトとは関係のない、人畜無害のだ。

 駒場が彼女を守ろうとしたのも、その人畜無害さに一因があったのかもしれない。

 そして。

 浜面あげは、セイヴェルンというファミリーネームを知っている。

 いつも駒場に懐いていた少女の本名は、今まで知らなかった。一番接していたであろう駒場でさえ、『はくらい』という第一印象そのままの呼び名を使っていたほどだ。

 だが、もうごまかせない。

 知ってしまった以上は、向き合う必要がある。


「……フレンダ=セイヴェルン」


 つぶやいてから、浜面は一拍空ける。

 そして、さらに付け足した。


「アイツの妹か……ッ!!」


 むぎしずきぬはたさいあい、滝壺理后。彼女達と共に戦っていた、かつての『アイテム』の正式メンバー、その一人がフレンダだ。

 彼女がどういう経緯で学園都市の『闇』と接触し、『アイテム』に加入したのかは知らない。

 フレンダ自身は、戦いを楽しんでいた節もある。

 だが。

 ひょっとしたら、その最初のきっかけには、フレメアの事もあったかもしれない。

 これを見捨てるのは間違っていないのか。

 こうしている今もはんぞうという友人は学園都市の『やみ』と戦っている。

 フレメアという少女の死は、こまとくとフレンダ、双方の死者のおもいをみにじるのにも等しい。

 なのに、見捨てる事が間違っていないというのか。


(……そうだ)


 はまづらつぶやく。


「間違っていない……」


 自分で自分の意見を固めるため、えて彼は声に出していく。

 その声は、徐々に大きくなっていく。


「間違ってなんかない。たきつぼや『アイテム』のみんなを危険から遠ざけるせんたくは絶対に間違ってなんかいない!! あれだけの戦争を乗り越えたんだ。泥だらけになってでも、やっとこの手でつかみ取ったんだ!! なくしてたまるか。俺は自分で手に入れたものを、何があっても守ってみせる!!」


 路地でうずくまったまま、浜面は両手で頭を抱える。

 そう。

 合理的に考えれば、浜面や滝壺達が身を守るために一番効果があるのは、ここで半蔵やフレメアを見捨てる事だ。

 それが最もリスクの少ない選択肢で、最も大切な人を守りやすい選択肢なのだろう。

 選ぶべきだ。

 本当に大切な人を守りたいなら。

 非情にてつして、目の前に迫り来る問題を上手に素通りするべきだ。

 選べ。

 選ぶんだ。

 さあ。

 浜面は舌打ちすると、頭をグシャグシャと引っき、そして、


「見捨てられるかよクソッたれが!!」


 壁に手をつき、浜面はもう一度立ち上がる。

 細い路地の奥、学園都市の『闇』を象徴するかのような影の中へと、自分の足で突き進む。

 死の危機に直面した友人を助けるために。

 二人の死者のおもいを守るために。

 たきつぼ達へ連絡はしなかった。

 これははまづらの問題だ。

 てんびんの傾きが不安定である以上、やみに彼女達を巻き込む訳にはいかない。


 必ず戻ってくるために。

 浜面あげは、えてやみの奥へと飛び込んでいった。

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