第二章 これから先の事、選択するべき事 Dream. ③

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 一方通行アクセラレータ番外個体ミサカワーストの二人は買い物を終えると、スーパーから外へ出た。

 チラシの印とは関係のないふりかけを一品追加する形で。


「いやぁ、ミサカ今まで想像もしていなかったから全く未知とのそうぐう状態だったんだけど、予想以上に気疲れするね、平和な日々っていうのは」

「……、」


 番外個体ミサカワーストの言葉を、一方通行アクセラレータは簡単に笑い飛ばせなかった。

 これでだいじようなのか?

 たかが買い物一つでここまで疲労を感じる自分は、本当にこの世界と折り合いをつけていけるのか?

 この手の生ぬるい平和ボケを『しように合わない』と突っぱねるのは簡単だ。かつての自分は、無意識ながらも、そうした対応をどこか格好良いものだと美化していた感もある。

 だが、突っぱねてどうなる?

 背を向けたその先に、これ以上のかがやくものがあるとでも言うのか?

 人を殺す事でしか価値を生み出せない怪物になりたいのなら、そういう道へ突き進むのも良いだろう。しかし一方通行アクセラレータの着地点はそこではない。となれば、突っぱねれば突っぱねた分だけ、彼の望んでいたものは遠ざかる事になる。

 本当にやっていけるのか。


(……あいつは一体どォだったンだ)


 彼はとあるの少年を思い浮かべる。

 おそらくは、学園都市最強の座に君臨する一方通行アクセラレータよりも、さらに世界の深い部分で戦っていたであろう少年。当然ながら、あの男にもあの男の居場所があったはずだ。彼はそこに帰ってこれたのか。違和感はなかったのか。

 仮に極限の戦場とへいおんな日々を交互にり返しているとしたら、ただ『やみ』にとどまり続けた一方通行アクセラレータよりも、よほどすさまじいのではないだろうか。

 しばし疲労感に身をゆだねている一方通行アクセラレータだったが、そんな彼のそでを、番外個体ミサカワーストがチョイチョイと引っ張った。

 一方通行アクセラレータげんな目を向けて、


「何だよ?」

「買い食いしようぜ。ワルの基本って聞いた事がある」

「……オマエの悪意って、守備範囲がやたらと広いよな」


 まぁ、ミサカネットワーク全体から悪意を拾っているようだから、巡り巡れば打ち止めラストオーダーなどの願望も含まれているのかもしれないが。

 そんな訳で、半ば番外個体ミサカワーストに押し切られる形で、ワンボックスカーを改造したアイスクリームの屋台で買い食いをする二人。


「ひたすらなまめかしく舌をわせてあげようか?」

「それだれが喜ぶンだよ。オマエか?」

「それもそうか。最終信号ラストオーダーとの仲にかいめつてきなダメージを与えるためなら、乳でもしりでも触らせてやるけど、今やっても意味はなさそうだしねえ」

「勝手に言ってろ」


 うんざりした様子の一方通行アクセラレータ

 アイスを手にした彼は人混みへ軽く目をやったが、そこでふと動きを止める。

 白い修道服を着た、銀髪のシスターがいた。

 その顔には疲労としようそうがあり、整った顔立ちから生気が削り取られているようだった。


(あいつ……?)


 一方通行アクセラレータは、その顔に見覚えがあった。

 しかし前に会った時とは、ふんずいぶんと変わっていた。

 数秒後には、その影はざつとうの中に消えている。


(見失った、か。ま、わざわざまなこになって捜し出すほどじゃねェだろ。……俺がかかわる事で、悪い方へ流れが変わる可能性だってある訳だし)


 第一位のとなりにいる目つきの悪い少女は、気づかなかったようだ。


「慣れないねえ」


 番外個体ミサカワーストはバニラの表面に舌をわせながら、率直な感想をらした。


「こんなしの中で、二人で仲良く並んで自宅に帰りながらペロペロペロペロ。正直、まともじゃないよ。こんなのは普通じゃない。逆に、何にも起こらないっていうのに不安を感じない? これが全部、何か巨大な出来事の前触れなんじゃないかって」

「期待の裏返しか?」

「さぁね。かもしれないし、そうじゃないかもしれない。自分の心なんて正確に分かる人間はいないと思うよ。心理学者だって、自分自身をテストする時には点数を甘く見積もりそうなもんだしね。自分の心を完全確実にあくできているヤツがいたとしたら、そいつもそいつで狂ってる」


 番外個体ミサカワーストはニヤリと笑って、


「そちらさんは?」

「興味ねェな」


 一方通行アクセラレータは適当な調子で答える。


「俺が必要だと思ったものは全部、あの戦争からもぎ取って来た。今の俺には、必要な物はすべそろっている。その維持に必要だっていうなら、慣れねェ事でもやるだけだ」

「結局、ミサカ達が何に対して『慣れない』と思っているのかが軸になると思うんだよね」

「あン?」

「平和な空気そのものか、あるいは『だれかの決めた枠』の中に収まっているのがダメなのか」

「……ガキかよ」

「案外、鹿にはできないと思うけど? ミサカ達は『誰かの決めた枠』っていうのに、どれだけ不備があるかを、身をもって経験してる。そして足りない物は全て、自分の手でもぎ取って来た。ミサカ達の性質そのものが、『誰かの決めた枠』のがいねんとはあいれないって事になるんじゃない?」

「考え方を変えりゃ良い」


 一方通行アクセラレータの感情は波立たない。


「俺達にはそンな事はできねェって、どこかのだれかは考えてる。けものは血の海の中でしか生きられねェってな。だったら、そンな俺達が『誰かの決めた枠』に適応して生きていくって事自体が、どこかの誰かに対する反抗にはならねェのか?」

「にゃるほどねえ。ミサカ、そういう方が好き」


 番外個体ミサカワーストは一通りバニラのアイスクリームをめつくすと、不要になったコーンの部分をバリバリとみ砕き、


「……ただ、ちょーっと、辺りからいやにおいを感じられるかな?」

「?」

なつかしい匂い、とも言う」

「……、」


 その言葉を聞いて、一方通行アクセラレータはわずかに目を細めた。

 つえをついたまま、改めて周囲をぐるりと見回す。

 何気ないへいおんな街並みが広がっていた。

 だからこそ、得られる違和感があった。色も形もかんぺきに溶け込んでいるのに、明らかに違うもの。人の皮をかぶったエイリアンを見ているような、説明のできない感覚的な区別。

 彼らの目線の先にあるのは、


「観光バス」

「にそうした、何らかの工作車両ってトコかしらん」


 ニヤニヤと、番外個体ミサカワーストは笑っている。


「学園都市は今日も相変わらずだねえ。あっれえ? でもおかしいなー。この街の暗部組織の『人や物をたてにして、無理矢理に汚れ仕事を片付けさせる』ってやり方は、どこかの誰かがやめさせたはずじゃなかったっけかなあ?」

「……、」

「道は二つ」


 番外個体ミサカワーストは人差し指と中指を、一方通行アクセラレータの前でひらひらと提示し、


「安全を確保するため、危険を承知で排除するか。危険をかいするため、安全にここは見逃すか」

「決まってンだろ」


 き捨てるように、一方通行アクセラレータは答える。


「ここで排除する。あいつらは『契約』を破った。いまだにこびりついている『やみ』とやらに、ちょいと警告をしてやる。……余計な世話をするのはしように合わねェが、事が『暗部』にかかわってンなら話は別だ」

「ひゅー。ま、『闇』が動いている以上、どこかの誰かは確実に傷つけられ、命と人生の危機に見舞われる訳だし? 第一位はサービス精神おうせいな良い子ちゃんですねー?」

「……いちいち知ったよォな口聞くな。オマエは?」

「もちろん、ぶつそうな方を選ぶよ。そっちの方が楽しそうだし」

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