第一章 まるで遊園地のような Red_Wear,Big_Bag,and_Flying_Sledge. ⑤

「……インデックスさん、ここは優しい心が必要な場面ですよ。マッチ売りの少女だってそうだったじゃない。世の中の誰かが一人でも手を差し伸べていれば、あんな結末は避けられたはずだったんだ!」

「いやあの、その扱いも結構地味に刺さるんだけど!? 軍団の魔の手から助けてほしいのは事実だが!!」


 もちろんかみじようとうとしては、ここでことを放り出すつもりはなかった。彼は感動すら覚えていたのだ。下流で貧乏学生だから灰色なのではない。上流の方だって、いる所にはいるのだ。ていうかいくらでもリアル生活で廃課金ができる極限お嬢様なのにクリスマスまわりが灰色ってどれだけ人生のハンドリングが下手くそなのだこの少女は!? 流石さすがにこれは放置できん!!

 という訳で、リクエストがきた。

 ことが語るには、


「クリスマスっぽい事がしたいんだけど。風景に溶け込まないと死ぬから」


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「ん? あれ? なんか変な事言った私???」

「いや大丈夫、全然大丈夫」


 笑顔のまま固まっていたかみじようことが不安げに尋ね直してきたが、ツンツン頭は棒読みで答えるしかなかった。

 クリスマスっぽい……コト?

 改めて言われると分からない。モノならケーキとか七面鳥とか、後は赤い服や白い付けひげなんかのパーティグッズがあれば問題ない。トコロなら電飾でギラギラした街路樹が並んでいる大通りとか、駅前広場の巨大なクリスマスツリーなんかに向かえば良い気がする。

 しかし、コト?

 トリックオアトリートじゃあるまいし、クリスマスしかできないコトって何だ???


「……、」


 もちろんである。迷える少年にはアレがある。住居不法侵入を平気な顔でやらかして靴下の中にラッピングされた箱をぶち込む白いヒゲにならって、普通の人だって箱と箱を交換したっていはずだ。

 ただ日付をまたいでのメリークリスマスやプレゼントの交換は、基本的に一発限り。バイオレンスお嬢が押し寄せるたびに、とりあえずの迷彩で何回も選択できるカードではない。

 となると、え?

 クリスマスイヴって基本的に何をするお祭りなの?

 急にそわそわしながらそっとインデックスやことの方をチラ見してみれば、二人そろって不思議そうにくびかしげていた。いいや銀髪少女の頭の上に乗ってる三毛猫までだ。完全にノープラン、全部こっちにぶん投げる構えである。そして何もないと言ったら最後、間違いなくダメ呼ばわりされる事は請け合いだ。それも右と左からステレオで。

 違うのだ。

 年上のお姉さんが耳元で優しくささやく『もう、ダメな子ね』と。

 年下の少女から真顔で撃ち込まれる『はあ……ダメなヤツ』では。

 意味合いっていうか、こう、温度感が!!


(えっ……。ここで女子だけで連合軍を組まれたら俺一人ぼっちで罵声の海に沈んでいくかも。そんなイヴになったら墓の下にも帰れねえっ!?)


 一二月でも汗びっしょり、もう虫の巣とかでもなくなっていた。妥協点すらおかしくなっている。

 全力の笑顔でかみじようとうは携帯電話を取り出した。


「は、ははは平気。デキるオトナのかみじようとうに任せておけば何にも心配ないから」

「アンタどこ行くの?」

「ちょいと混雑状況を検索したくて。し、少々お待ちいただけます?」


 日陰に隠れて携帯電話の小さな画面で『クリスマス 何する?』と検索エンジンで打ち込んだらゲロ吐きそうなSNSのコメントばっかり出てきて慌てて封殺した。しかもネットの声なんてどうせ三倍くらい色恋方向に盛ってるうそつきばっかりだ。というかうそつきであってくれ。みんなそろって実は孤独であっていただきたいと呪いまで送り出してしまうほど、世界が違う。

 ちゃんとした、顔と名前の分かる人に相談したい。

 アドレス帳から野郎の知り合いの番号を引っ張り出して通話すると、しばらく待ってから相手が出た。


「あ、あのう青髪ピアス? クラスメイトのよしみで相談に乗って欲しい事があるんだけど……」

『カミやんすまへん、ボクは今手が離せそうにない!!』

「えっ、まさかお前もクリスマスに予定がいっぱい……。やだよ! こんな灰色の世界に俺だけ置いていかないでくれよお!!」

『人のぬくもりを求めてお〇ぱいマウスパッドを電子レンジに突っ込んだら、これが想像以上の高温に……ッ!? おかげで今両手一〇本指の感覚があらへんのや!! テーブルの上に置きっ放しのこいつが音声認識できなかったらこの電話も取られへんかったで!!』

「イヴだよ!! 年に一度のッ! 朝の一〇時から何してんだよテメェ!? しかも魔が差して指先でちょんちょんとかじゃなくていきなり両手でわしづかみにいったのか。せめてロケットとか作る生産性のあるオタクになりなさいよ!!!!!!」

『だってVRは映像だけじゃ寂しいやん。より没入するには何でもいから確かな手触りが必要だったんですッ! となると冷たいままじゃヤダ!! こっちは高い金払ってガワの設備を固めてまで疑似的に死体を触ってんじゃあらへんのや!!』

「重ねて言うね? イヴだよ!! 朝の一〇時からこいつ一体何をッ!!!???」

『聞いてくれよカミやん、そやかてきちんと温めたと思ったらお弁当の真ん中の方が冷たい時ってあるやん? 今回もそんなケースかと考えてもうちょっとあとちょっとって温めていったら、シリコンの塊って結構あっさり熱を通すのな!? 普通に凶器やんアレ!!』


 この悪友は電子レンジ用のシリコン鍋とか売っている事を知らないのだろうか? 日頃から自炊をしねえで楽をしたがるから知識が足りずに天罰が下るのだ。ともあれ使用上の注意を読まない人の意見なんぞお伺いしても事態は好転しなさそうだ。馬鹿野郎の嘆きは無視して電話を切る。

 そして友を見限っても何かが変化する訳ではない。

 問題、クリスマスにしかできないコトってなーんだ? (飼い猫じゃなくて正統派な方の)スフィンクスばりの死のなぞなぞは継続中である。しくじればここに女子連合軍が結成され、かみじようとうは一人体育座りで涙ぐむ羽目になる。イヴなのに。


「とうま」

「ねえアンタ」


 二人の少女がいっそ無邪気に尋ねてきた。

 君には期待している。しかし言い換えれば多大なプレッシャーとなる事を、な一〇代女子の皆様はまだ知らない。


「「これからどうするの?」」


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