第四章 異世界交流、その始点 “R&C OCCULTICS Co.” ⑥
5
あれだけ激しい震動や銃声が、いつの間にか
白い髪に赤い瞳の怪物、
結局、だ。
その怪物は、一度たりとも扉の外には出なかった。
もしも学園都市第一位の超能力を全力で行使していれば、こんな
『いひひ、よろしかったんですか?』
「うるせェよ」
悪魔の誘惑ほど面倒なものもない。
だが扉を通して、向こう側から何かが寄りかかるような刺激が第一位の背中へ確かに伝わってきた。
『……終わったよ、ってミサカはミサカは
「……、」
『聞こえてる? ここ、分厚いみたいだから届いていないかもしれないけど』
「うるせェな。いちいち答えなくちゃならねェのか、これ」
小さく息を吐いて、
『空気』というものに形はない。能力者が放出する目に見えない微弱なAIM拡散力場すら計測する学園都市の機材を使ったって、そんなものは確認できないだろう。
だけど。
確かに、そんなやり取りで何かが変わった。
『もう止められないんだね、ってミサカはミサカは無駄な確認を取ってみたり』
「不満か?」
『あなたが決めた事なら、ミサカはそうする』
従順な物言いは、これまでクローン人間が
法律やモラル。
世俗一般の幸不幸。
そういった、テキスト化された尺度に照らし合わせたのではない。
絶やしてはならない、と白い怪物は一人思った。
真正面に浮かぶ悪魔が、無言のままにたにた笑っていた。
「これで
そっと。
キングの前へ決定的な駒を置くように、第一位は言葉を放った。
「俺の手足として、この街の隅々まで俺の意思を通せるってのは今回の件ではっきりした。
そう。
学園都市はくそったれの
そして期待に応えてくれる人達は、確かにいた。
全部が全部、
みんながみんな、悪党を殴り倒す必要なんかない。
いつもの毎日を守り、事態解決のために動くヒーロー達が一直線に走っていけるよう道を空けるだけでも十分な『力』となる。きっと
その手応えを感じられた。
理想論ではいかないし、現実はシビアな事ばかりかもしれないけど。
それでも、この街は信用に値する、と。
「……だったら、これで
『……、』
「……付き合う義理はねェぞ。俺の人生を俺が決めたよォに、オマエの人生はオマエのモンだ。抱えるにゃ重たいと思った場合は、とっとと捨てちまえ」
『行くよ。ミサカだって自分で決める。だったら毎日だって顔を見せに行くよ! ってミサカはミサカは震えが止まらなくなってみたり!!』
馬鹿な野郎だ、と
だけどその表情を知る者は、おそらく超常の悪魔以外にいるまい。
取調室らしくこの部屋には『特殊な構造の鏡』があるが、そちらに視線を振るつもりもない。
余人には分かるまい。
人の数だけ
寄りかからなければ少女の涙は止められない。だけど言葉で縛り付けてもならない。
だから一人の『人間』はこう言った。
二人にしか分からない、絶妙な力加減で。
「期待はしねェぞ」