第四章 異世界交流、その始点 “R&C OCCULTICS Co.” ⑥

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 あれだけ激しい震動や銃声が、いつの間にかんでいた。

 白い髪に赤い瞳の怪物、一方通行アクセラレータは秘匿取調室の分厚い扉に背中を預けたまま、床に座り込んでいた。片足を投げて、片足を抱え込み、天井を見上げて。そうやって、第一位は一つの終わりを確かめていた。

 結局、だ。

 その怪物は、一度たりとも扉の外には出なかった。

 もしも学園都市第一位の超能力を全力で行使していれば、こんなまつな戦闘など秒も保たずに粉砕できたはずなのに、だ。


『いひひ、よろしかったんですか?』

「うるせェよ」


 面倒なものもない。一方通行アクセラレータくうに向けてささやいた時だった。

 きしみ、とは違うだろう。

 だが扉を通して、向こう側から何かが寄りかかるような刺激が第一位の背中へ確かに伝わってきた。


『……終わったよ、ってミサカはミサカはつぶやいてみる』

「……、」

『聞こえてる? ここ、分厚いみたいだから届いていないかもしれないけど』

「うるせェな。いちいち答えなくちゃならねェのか、これ」


 小さく息を吐いて、一方通行アクセラレータはようやく口を開いた。

『空気』というものに形はない。能力者が放出する目に見えない微弱なAIM拡散力場すら計測する学園都市の機材を使ったって、そんなものは確認できないだろう。

 だけど。

 確かに、そんなやり取りで何かが変わった。


『もう止められないんだね、ってミサカはミサカは無駄な確認を取ってみたり』

「不満か?」

『あなたが決めた事なら、ミサカはそうする』


 従順な物言いは、これまでクローン人間が辿たどってきた道を単純に眺めてみると、決して心地のいい響きではないかもしれない。だがわずかな違いを一方通行アクセラレータによじつつかんでいた。

 法律やモラル。

 世俗一般の幸不幸。

 そういった、テキスト化された尺度に照らし合わせたのではない。一方通行アクセラレータの言葉を聞いた上で、第一位の命令通りに追従するのではなく自分の頭で考えた上で賛同の意思を表明している。繊細で言語化は難しいが、二つは全く違うものだ。今の打ち止めラストオーダーなら、一方通行アクセラレータの言葉を聞いた上で自分の意思で否定の意思も表に出せるはずだ。

 絶やしてはならない、と白い怪物は一人思った。

 が、無言のままにたにた笑っていた。


「これでいさ」


 そっと。

 キングの前へ決定的な駒を置くように、第一位は言葉を放った。


「俺の手足として、この街の隅々まで俺の意思を通せるってのは今回の件ではっきりした。てつごうの中からだって、街全体を見渡して動かす事はできる」


 そう。

 学園都市はくそったれのそうくつだった。事件なんか解決したって救われない人ばかりで、死んでも治らないレベルの馬鹿はいくらでも湧いて出る。

 そして期待に応えてくれる人達は、確かにいた。

 全部が全部、一方通行アクセラレータのような特別枠ではないだろう。ありふれた教師が警備員アンチスキルとしての防弾装備をまとって現場へ走り、救急隊員がにんを病院まで運び込み、医者は自分の仕事をとことんまで全うして。いいや、そんな専門職ですらない、普通の学生や会社員だって混乱を押さえ込み、自分にできる事を考えて、特別な才能頼みなんかにすがらないでできる事ははないかと必死に考えてくれただろう。

 みんながみんな、悪党を殴り倒す必要なんかない。

 いつもの毎日を守り、事態解決のために動くヒーロー達が一直線に走っていけるよう道を空けるだけでも十分な『力』となる。きっと一方通行アクセラレータの知らないところで様々なドラマがあって、そうやって大きな力を束ねていった人達は、自分のやってきた偉業に気づいてすらいないのだ。当たり前にできる人達は、そこまで強い存在なのだ。

 その手応えを感じられた。

 理想論ではいかないし、現実はシビアな事ばかりかもしれないけど。

 それでも、この街は信用に値する、と。


「……だったら、これでい。俺だって、いい加減に『白い怪物』を返上する。結局、他人から押し付けられて自分でかぶった名前だ。つまらねェお仕着せはここまでにしてやる。それくらいはやらなくちゃ、俺は本当の最強とは呼べねェンだよ」

『……、』

「……付き合う義理はねェぞ。俺の人生を俺が決めたよォに、オマエの人生はオマエのモンだ。抱えるにゃ重たいと思った場合は、とっとと捨てちまえ」

『行くよ。ミサカだって自分で決める。だったら毎日だって顔を見せに行くよ! ってミサカはミサカは震えが止まらなくなってみたり!!』


 馬鹿な野郎だ、と一方通行アクセラレータは吐き捨てた。

 だけどその表情を知る者は、おそらく以外にいるまい。

 取調室らしくこの部屋には『特殊な構造の鏡』があるが、そちらに視線を振るつもりもない。

 余人には分かるまい。

 人の数だけつながりかたは存在する。千差万別の一つに、こんなものがあっても良いだろう。

 寄りかからなければ少女の涙は止められない。だけど言葉で縛り付けてもならない。

 だから一人の『人間』はこう言った。

 二人にしか分からない、絶妙な力加減で。


「期待はしねェぞ」

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