第四章 異世界交流、その始点 “R&C OCCULTICS Co.” ⑤

 そのまま右の銃を突き付けた。

 かみじようではなく、よそへ。


!! AuとCuの間、すなわち経路14に架空の端子を設けよ!!!!!!」


 バッキン!! という何かが砕ける音があった。

 頭上の輝く光輪をいただく赤の少女がほどけて光の塊となり、直線的に空気を焼き尽くす。

 しかし噴き出した炎がかみじようの見知った少女達を焼き尽くしたのとは違う。今のは間に割って入ったかみじようとうが、右の拳で凶行を断ち切った音だった。


「震えるだろう?」


 おかのりは笑っていた。


「体ではなく魂の中心がッ!! 科学も非科学もない。人が狙われるとはこういう事だ、命を奪われる瞬間に立ち会うとはこういう感覚なんだ! ここにはもう理屈なんかない。正しいからやっている訳でもない。。この最悪な方法以外で人が救われるビジョンなど想像が及ばないんだよ!!」

「人間」


 肩の上に乗っていた小さなオティヌスが、短く少年に呼びかけた。

 あきれたように。

 それでいて、どこかあわれむような声色で。


「……言葉の応酬はこの辺りが限界だ。状況の破綻についてはヤツ自身が一番理解しているだろうさ、分かった上で認められないんだ。どこかに取りこぼしがあって当然だろう、この神が手掛けない限りはな」

「オティヌス」

ざかしい知識は貸す。だが戦うのは貴様自身だ。覚悟はできたか。命知らず以外の言葉がないほどおひとしの貴様の事だ、?」


 メキィ!! という鈍い音があった。

 ちっぽけな一人の少年が。

 それでも我と我をぶつけて押し切るために、右の拳を硬く握り締める。


「まだ……」


 血まみれの体も無視して、かみじようとうがこうえる。


「まだチャンスがあるのなら!!」

「やるのは貴様だ。かつてこの神を救ったその力をもう一度見せてみろ」


     4


 おかのりは左右の暗殺拳銃を構えていた。

 こちらに向かってくるのは、一人の少年。

 ガラスの銃身は四つ。これは何色にでも簡単に染まっていく小さな少女達、おのおのに込められる手札の数と直結する。ならば具体的に何を装填する? どうすればこの少年に勝ち、自らの我を貫ける?

 火か、水か、風か、土か。あるいは切り取る力はそれ以外でも構わない。

 考え。

 そして若き統括理事は静かに笑った。


 手放す。

 魔術などという得体の知れない代物を落とし、自由になった両の拳を硬く握り締める。


 初めて、だ。

 あの少年のみならず、肩に乗った小さな影すら虚をつかれた顔になった。

 がつっ、と。

 硬い床にいびつな暗殺拳銃が二つ落ちた途端、その男が動いた。

 空気を引き裂いて、おかのりが真正面から飛び込んできたのだ。


「まずいぞ人間!!」

「分かって、ッる!!」


 元レスキューの精鋭。未だにその強靱な肉体をキープしているのだとすれば、身体的には単なる高校生に過ぎないかみじようとうでは足元にも及ばない。そして少年の幻想殺しイマジンブレイカーは、異能の力さえ関わらないならただの血まみれの握り拳でしかない。

 そう。

 これが一番の正解だったのだ。

 学園都市第一位の超能力に、本物の『魔神』が解き放つ極大の魔術。

 


「お」


 それでも、ここまできたらもう戻れない。

 おかのりは自分のプライドを捨ててでも勝ちにきた。魔術師でも統括理事でもなく、レスキューの肉体まで持ち出して挑んできた。

 かみじようとうがそこまで引き出した。

 一番見たかったおかのりがここにいる。

 振り払えるか。

 丁寧に距離を取って、スマートになんか立ち振る舞えるか!!


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」


 叫んで、踏み込む。

 全力の拳と拳が、真正面から交差する!!


 鈍い音。


 めりめりと。自分の耳ではなく、頭蓋骨を伝って響き渡ってくる音を、かみじようとうは確かに自覚していた。

 やはり、純粋な腕力勝負となるとかなわない。

 おかの拳はこちらの頬に突き刺さるが、かみじようの拳は何の感触も返さない。強大な敵の顔、そのすぐ横を泳いでいるだけだ。

 クロスカウンターには失敗した。

 


「……ただの、拳」


 脳を揺さぶられながらも、まだかみじようとうの口は動いていた。

 そのまま言ったのだ。


?」

「ッ!?」


 すでに膝が笑っているかみじようとうには、ここから猛烈なラッシュに移るだけの体力など残されていない。

 だから、握り込んでいた拳を、ただ開いた。

 より正確には、てのひらの中に隠していた何かを、おかのりの顔のすぐ近くでさらけ出したのだ。その正体は、己の血。全身血まみれでいくらでも体を汚しているそれを、五指で弾くように飛ばしたのだ。血のたまの形で。

 だけど。

 こんなものでも、使い方次第では確実に目を潰す武器となる。


「卑怯者で悪いな」

「チィッ!!」


 目元についた血を拭うように指をやり、頭を左右に振るが、それでも隙は隙だ。

 血には凝固作用がある。酸素または他の生体に触れると、特に。


「レスキューなんて言葉が出てきた辺りから、殴り合いになったら勝てないって思ってた。だから、泥臭くても意地汚くても絶対に勝てる方法を考えなくちゃあならなかったんだ。アンタと同じように!!」


 仕切り直しても、すでに頭を揺さぶられているかみじようには大した力は残っていない。

 それでも。

 なけなしの力を全部集めて。


「もしも、こんな方法でなくちゃ大切な人を守れないって言うならさ」


 おかのりは、目が使えない。

 そんな彼が次に頼るのは、おそらく耳。

 純粋な格闘技が怖いなら、それが使えない状況に追い込めば良い。だけどおかおかで、目をやられた状況で今さらいつくばって足元の霊装を探す訳にもいかないだろう。勝つためには、無理にでも拳で挑み続けるしかない。


「もしも、形のない自分縛りに捕らわれちまっているのだとしたら」


 かみじようとしても、そうでなければ困る。

 二人はどこまで理解を深めたって敵同士。ここで時間なんか稼がれて、かみじようが倒れるのを待つなんていうのは最悪だ。だからそうならないように、かみじようの方から口を開く。音で、声で、耳で、おかがこちらへ向かってくるように仕向ける。とてもではないが、自分からもう一度ふところへ飛び込むだけの足運びは期待できそうにない。

 だから、今度こそ。

 最後の一撃をたたむために。


「まずは、その幻想をぶち殺すッッッ!!!!!!」


 その拳が限界だった。

 右の手首に確かな手応えが返ってくるのを確認し、おかのりが倒れたのを確認した直後。かみじようとうもまたすとんと膝から落ちた。


刊行シリーズ

とある魔術の禁書目録 外典書庫(4)の書影
とある魔術の禁書目録 外典書庫(3)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(11)の書影
とある暗部の少女共棲(3)の書影
とある魔術の禁書目録外伝 エース御坂美琴 対 クイーン食蜂操祈!!の書影
創約 とある魔術の禁書目録(10)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(9)の書影
とある暗部の少女共棲(2)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(8)の書影
とある暗部の少女共棲の書影
創約 とある魔術の禁書目録(7)の書影
とある科学の超電磁砲の書影
創約 とある魔術の禁書目録(6)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(5)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(4)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(3)の書影
とある魔術の禁書目録 外典書庫(2)の書影
創約 とある魔術の禁書目録(2)の書影
とある魔術の禁書目録 外典書庫(1)の書影
創約 とある魔術の禁書目録の書影
新約 とある魔術の禁書目録(22) リバースの書影
新約 とある魔術の禁書目録(22)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(21)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(20)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(19)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(18)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(17)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(16)の書影
とある魔術の禁書目録×電脳戦機バーチャロン とある魔術の電脳戦機の書影
新約 とある魔術の禁書目録(15)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(14)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(13)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(12)の書影
とある魔術のヘヴィーな座敷童が簡単な殺人妃の婚活事情の書影
新約 とある魔術の禁書目録(11)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(10)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(9)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(8)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(7)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(6)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(5)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(4)の書影
新約 とある魔術の禁書目録(3)の書影
とある魔術の禁書目録SPの書影
新約 とある魔術の禁書目録(2)の書影
新約 とある魔術の禁書目録の書影
DVD付き限定版 アニメ『とある魔術の禁書目録』ノ全テ featuring アニメ『とある科学の超電磁砲』の書影
とある魔術の禁書目録(22)の書影
とある魔術の禁書目録(21)の書影
とある魔術の禁書目録(20)の書影
とある魔術の禁書目録(19)の書影
とある魔術の禁書目録(18)の書影
とある魔術の禁書目録(17)の書影
とある魔術の禁書目録SS(2)の書影
とある魔術の禁書目録(16)の書影
とある魔術の禁書目録(15)の書影
とある魔術の禁書目録(14)の書影
とある魔術の禁書目録ノ全テの書影
とある魔術の禁書目録SSの書影
とある魔術の禁書目録(13)の書影
とある魔術の禁書目録(12)の書影
とある魔術の禁書目録(11)の書影
とある魔術の禁書目録(10)の書影
とある魔術の禁書目録(9)の書影
とある魔術の禁書目録(8)の書影
とある魔術の禁書目録(7)の書影
とある魔術の禁書目録(6)の書影
とある魔術の禁書目録(5)の書影
とある魔術の禁書目録(4)の書影
とある魔術の禁書目録(3)の書影
とある魔術の禁書目録(2)の書影
とある魔術の禁書目録の書影