終章 雪と真紅が覆い尽くす White_End.(and_Merry _Xmas!!) ①
事件は終わった。
しかし根本的な事を忘れてはならない。
「うう……」
「ちょっとアンタ、大丈夫!?」
「とうま、なんかもう服から血が
ツンツン頭の少年がふらつくのも無理はない。何しろ
辺りはすっかり夜になっていた。
「……
「あれ以上してやれる事は何もないだろう」
肩の上のオティヌスはドライに言った。
ただし彼女は『理解者』、少年の支え方なら心得ている。
「それにヤツが納得できる学園都市を作れるかどうかは、貴様の肩にもかかっている。上の人間が呼びかけただけで街の形が丸ごと変わる訳ではない。呼びかけに応じる者がいなければ、壇上に立った発案者を孤立させるだけだ」
長い長い階段を使うのは諦めたのだろう。大型のティルトローター機を使って今さらのように急行してきた
「なんか人増えてるな」
「イヴの夜だからじゃない?」
そんな日に血まみれになって拳を振り回し、留年すんのかどうかも分からん宙ぶらりんのまま凍りついた夜の街に放り出されるとかいよいよ
小さな奇跡を。
「お、おやじ?」
「アンタどうしたの」
「ちょっと待て!! いるじゃねえか、ラーメン屋の
傷の痛みも吹き飛び人混みをかき分けるように背中を追いかけて正面に回り込むと、確かに。
あの
こだわりは
イヴの夜でもねじり鉢巻きの人は中古車ディーラーを指差していた。
我が道を指し示してブレない
「どんな形にせよ店がねえとどうにもならんが、この寒さじゃ自分の手でガラガラ押す屋台とかは堪えるからな。次はキッチンカーにしようと思うんだ。年越し前にはまた始めてえな」
「お、おおお……」
「安い中古車なら二万くらいで手に入るしよ」
「おおおおおおお!! これだよっ。やっぱり
場外乱闘したプロレスラーのように血だらけで興奮する
出前の小僧を雇うのは金かかるから次はスマホの宅配に任せる、と言っていた
希望と期待が止まらない。
夜景と恋人達で埋め尽くされた電飾だらけの街並みで、それでも何色にも染まらない
年の終わりに、
気づけばそっと、少年は
「来年も明るい一年にしようね」
「……一応確認するけど今日ってクリスマスイヴなのよね。何この空気、アンタ時空のひずみみたいな場所に
ともあれ、だ。
あれだけの騒ぎがあっても、多くの人にとってはお構いなしだった。友達、
だけど。
根本的な部分は解決していない。
「
肩に乗る小さなオティヌスがそんな風に言った。
「……R&Cオカルティクス。占いやまじないを軸として各業種へ這い寄る巨大IT、か。また世界は妙な方向に伸び始めたな」
情報はインターネットを通じて世界中へ平等にばら
一見楽しそうに見えるこの人だかりだって、実際にはどうなっているか誰にも分からないのだ。そこかしこに、携帯電話やスマートフォンをいじくっている少年少女が
今度の相手は、確実に『隙間』を狙ってきている。
連携に失敗すればそれだけ時間的なロスが広がり、R&Cオカルティクスの影響力はみるみる浸透していくはずだ。やがてはエアコンや携帯電話のように、切っても切れない、切りたくても切れなくなる存在になるまで。
元より、能力者は世界全人口からすれば少数派のはずだった。
それはみんなから羨ましがられる、強い少数派でもあったはずだった。
だけど。
もしも、世界中の人間が魔術を使えるようになったら?
そんな超常を隠す必要もなく、ごくごく当たり前に普及してしまったら?
能力者に、魔術は使えない。
それなら使えない人間は弱い少数派として、緩やかに衰退していくのかもしれない。
けど。
だから、それだけで戦うというのは、本当に一片の曇りもなく『正しい行為』と呼べるのか?
もしや。
必死の抵抗さえも、『悪なる行為』と断じられる時代がやってくるのでは。
「……、」
(本当に、これが狙いだとしたら。とんでもない所からひっくり返してきた事になるぞ……)
顔も名前も分からない敵。
そいつは学園都市の外壁を乗り越え、中に潜り込む必要すらない。
ただ情報を提供するだけで、無尽蔵に強敵を生み出せる。
「……雪だ」
と、インデックスがそんな風に
彼女は三毛猫を両手で抱えたまま頭上を見上げて、
「雪が降ってきた! ホワイトクリスマスになるよ、とうま!!」