終章 雪と真紅が覆い尽くす White_End.(and_Merry _Xmas!!) ②

 見えない脅威はある。だけど直接手の届く範囲にあるものは取り除いた。なら今日この日くらいは全部忘れて勝利の余韻に浸っても良いのではないか。ずっと思い詰めていたら次の敵がやってくる前に心がやられてしまう。だからクリスマスくらいは大騒ぎしたっていんじゃないか。そんな風に頭を切り替えようとしたのだ。


 ところが。


「ふん、ふん、ふんふん♪」


 それは幼い少女の声だった。

 そして聞き覚えのあるものだった。

 思わず振り返って、そしてかみじようとうは心底嫌な顔をする。昨日の夜、コンビニの裏で見つけてしまって抱え込んだが最後、不良達に街中追われるきっかけとなったあのどろり幼女(?)だ。格好については相変わらずで、この寒空の下でも全裸。かろうじてなだらかな胸元に片手で薄くて赤い布をかき寄せている程度のものだったが、かみじようにはあれが服なのかベッドシーツなのかも判別できない。

 でもってここにはインデックスとさかこととオティヌスがいた。

 混ぜるな危険どころの話ではなかった。

 幼女の瞳は正確にこっちをロックオンしている、何か楽しそうなものを見つけたというダウナーな喜びに満ちた視線でだ!!

 ゆった。

 確かにヤツはこっち見て言った。


「みーつけた☆」

「やめてよおまだセーブしてないんだから!! こんな所でフルボッコされたら立ち直れなくなっちゃうよお!!」


 誰よりも早く防御態勢を敷いたかみじようだったが、相手はお構いなしだった。驚くほど滑らかに人混みをすり抜けると、そのままおそおののく少年に真正面からすり寄る。

 その未熟な唇が、そっとささやく。


「メリークリスマス」


 その手にしているのは、スマートフォン。

 出会った時から持っていたものだ。

 そして今、小さな指先が明確に何かを操作している。


「ホームページ更新、と。ごめんなさいね、こんな時までお仕事の話を挟んでしまって」

「……お前……」

。流行を生むだけの傾きには達したでしょうけど、それでも軌道に乗るまでは、もう少しだけわらわが直接面倒を見てあげないとね?」


 ぎょっと目を見開いたのはオティヌスだった。

 もちろんそれはダウナーな幼女の格好などに驚いている訳ではなく、


「まさか、こいつ……?」

「オティヌス?」

「離れろ人間!! こいつは私とは似て非なる、もはや『魔神』からも脱線した別格の……ッ!!」


 構わなかった。

 幼女は自分の唇に人差し指を当てる。

 誰でも知っている沈黙のサインだが、実はその起源がエジプト神話の秘儀にまで遡る事を今の時代の人は理解しているだろうか。

 そのままにたりと笑って、幼女は切り出してきた。


「この歳格好が気になるのかしら。こんなみすぼらしい形になっているのはわらわの意思ではないのだけれど。面倒なのよね、アレをやるのって。まあ今日は特別な一日だし、奮発してあげても良いかしら。アレをやっても」


 言って、彼女は何かを小さな手の中で弄んでいた。

 大きなあめだまと呼ぶには、その色はまがまがしい黒。

 いわゆる丸薬を手にしたまま、だ。

 変化があった。

 それはグラマラスな肢体を惜しげもなくさらす美女であり、ストロベリーブロンドの長髪をいくつもの平べったいエビフライのようにまとめた妖女であり、各所に薔薇ばらの意匠をあしらって己を着飾る魔女であった。

 総じて言うなら、


!! 話くらいは耳にしていたが、まさか肉の体を持つ形で存在していた、だと!?」


 あの神ですら自分の見ているものを信じられない調子で叫んでいた。

 古き魔術結社『薔薇ばら』の重鎮にして、世界最大と呼ばれた『黄金』の創設の許可を出した伝説の魔術師。彼女は魔術師の最終到達地点とされる『魔神』へ視線すら投げなかった。そのまま至近にいた少年の首っ玉に両腕を回したのだ。


「では、改めまして」


 誰もが見ている前で。

 黒い薬を口に含んでの、明確極まる宣戦布告があった。


「メリークリスマス、記憶なきわらわの敵。今日は格好良かったわよ?」


 重ねられたのは、唇と唇。

 丸薬の味にまみれた一撃が、かみじようとうの脳の奥まで貫いた。

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