第二章 高嶺の華にギャップは用法用量を守って ③

 どう先輩から頼まれたふたさんは、一つうなずく。

 ひとまずはこれで大丈夫か。

 俺としては早速がし先輩の秘密を守る者として活躍したいところなんだけど、残念ながらまだまだ勝手が分からない。

 ある種護衛と呼べる者の人数は、多ければ多いほどいいだろう。


「ウチらは今日中にやらなきゃいけない予算計算の仕事があるから、手が離せないのよ。がしセンパイの秘密を守ることも大事だけど、そっちに集中し過ぎて本業をおろそかにしたら本末転倒だから」


 珍しくひよりも俺に対して申し訳なさそうな顔をしていた。

 生徒会の仕事が滞るということは、すなわち生徒会長のがし先輩に対して監督責任が問われることになる。

 ポンコツがバレようが、仕事がくいかなくなろうが、どの道待っているのは不信任決議だ。

 こうして改めて思うと、だいぶ世知辛いね、うちの学校。

 割と校則も緩めだし進学率も高いから、一般生徒としてはかなり恵まれた環境なんだけどね。


「分かった。じゃあ……ひとまずお務めを果たしてくるよ」

「気を付けてね、はなしろ君」

「はい、お任せください」


 俺は軽く格好つけてから、がし先輩と共に生徒会室を出た。

 廊下に出た途端、なんだかいつもの風景がそうではないように見え始める。

 すべては隣にいるがし先輩の影響だろう。

 彼女はいつも通りりんと澄ましたような態度を取っているが、今後俺はこの外面を守るために警戒心を強めながら生活しなければならない。

 まあ、別に苦ってわけじゃないんだけどね。

 がしゆいという存在を守ることができるなんて、俺にとっては大金をはたいてでも手に入れたい権利だ。

 だからこそ、こんなにも周囲の景色が

 あの時がし先輩が下着を穿き忘れてくれていてよかった。

 ノーパンに感謝します。


「これから挨拶に行くのは、あまはら先生だ。彼女は我ら生徒会の窓口役を担当してくれている」

「ああ、あまはら先生なんですね」


 あまはら先生、本名はあまはら

 日本史の教師であり、俺やひよりの担任でもある。

 性格はなんというか……教師っぽくないというか。

 少なくとも、生徒たちからは大人気な先生だ。


「……」


 がし先輩と廊下を歩きながら、チラリと後ろに視線を送る。

 どう先輩からの指示通り、ふたさんは俺たちとつかず離れずといった距離を保ちながらついてきてくれていた。

 何かあったら、とは言うものの────まだ実際にがし先輩が何かをやらかす瞬間というのが想像できない。

 これだけ堂々と胸を張って歩いている人が、果たしてびっくりするほどのミスを犯すのだろうか?

 ……犯すんだろうな、多分。


「……すまなかったな、なつひこ

「え?」


 声をかけられてがし先輩の方へ視線を戻せば、どことなく罪悪感を抱えているような目がそこにあった。


「私のせいで、お前を生徒会に巻き込んでしまった……貴重な学生の時間を奪ってしまっただろう」

「……」


 確かに、生徒会に入るということは自由に使える時間が減るということ。

 俺はまだ部活に入っていなかっただけマシだけど、趣味や勉強に費やせる時間は間違いなく少なくなる。

 たかが一つの出来事で、俺の人生は大きく変わってしまった。