第1話 入学 ①
「ぎゃーはははは! 万年レベル0の日向様のお通りだ~!」
嫌みたっぷりの声が響くのは、俺が通うことになる
その声が向けられているのは他の誰でもない俺だ。そして、目の前で俺を馬鹿にするのは、高校生になってすぐに探索者となった
地球にダンジョンが出現してから、人類には『レベル』という概念が生まれた。レベルが生まれたせいで、世の中はますます弱肉強食が広がっている。
その対象になっているのが今の俺だ。
俺は生まれながらにしてレベル0で、探索者として生きるのは不可能と言われた。レベル0は珍しいからとすぐに
と思ってわざわざ遠くの高校を受験して入学したのに……よりによって、ここに
「なあなあ、
目の前に右手の甲を見せつけてくる
そこに刻まれているのは不思議な模様の『探索者ライセンス』という印で、探索者の
探索者ブームが到来して、日本国民の全員が右手の甲にライセンスを宿している。ただ、全員がダンジョンに行っているのかというと、そうではない。
ダンジョンは、普段の生活からは想像もできないような世界で、何と魔物という怪物達が生息しているからだ。
魔物は人間より
「す、
「だろう~? お前もせいぜい頑張れよ~探索者になれないと思うがな~ぎゃーはははは!」
せっかく高校デビューができると思っていたのに、まさか彼が入学しているとは思わず、これで周りにレベル0なのがバレてしまった。
俺は右手に黒い手袋を着用している。手の甲を人に見せないためだ。それが……全く意味を成さなくなった。
周りから白い目で見られ笑われるのを感じる。今までそうだったように。
────「本日の探索ランキングは~」
ちょうど空を飛んでいる飛行船からアナウンスが流れる。
ダンジョンが生まれた時、世界には『探索ランキング』というのができたらしい。俺が生まれるよりもずっと前のことなので、俺はダンジョンと探索ランキングがない時代は知らない。
探索ランキングとはダンジョンで活躍した探索者を自動的に数値化して表記しているらしく、毎日四回決まった時間に、ああやって飛行船を使って知らせてくれる。
トップ百人しか載らない探索ランキングに入り、名前が載った探索者は俺達からすれば英雄であり、憧れだ。
俺が空を見上げていると、周りからざわつきが起きる。
何かあったのだろうか?
周りをキョロキョロすると、正面玄関に日の光を受けて
すぐ隣に立っていた二人の男子生徒が話し始めた。
「おい見ろよ。ひなただぞ」
「あれが最強高校生ひなた様か。
「声かけたら付き合ってくれねぇかな?」
「やめとけ。あんな美人で最強だぞ? 一生のうち一度でも声かけられたら喜ぶレベルだね」
「違いねぇ~」
彼らは彼女のことを知っているようだ。
どうして銀色の髪なのかは理解できないけど、最強という言葉は彼女が既に探索者であることを示している。
それに周りに放っている気配から、珍しい力を持っているか、または強いのだと思う。
今の人類は生まれてすぐに探索者としての『潜在能力』を検査する。
潜在能力が高ければ高いほど、レベル上昇でより強くなれる。
そのこともあって潜在能力の高さに応じて、ランク付けされ、国から受けられる補助が決められる。
最低がFランクで、最高はSランク。
Sランクの子供が生まれた家庭は、豪邸が立つと言われているが、俺は言うまでもなくFランクなので、そういう恩恵は全くない。Fランクは補助対象外だからだ。
ひなたと呼ばれる彼女は、周りに視線一つ移すことなく、正面を堂々と歩き校舎に入って行った。
案内に従って廊下を進むと全校生が入っても余るほど大きい体育館に着いた。
決められた所に並んで、校長先生のありがたい話を聞き終えると、生徒会長が出てきて挨拶を始めた。
「では最後にSランク探索者の────
生徒会長の紹介で、ひなたと呼ばれていた彼女が登壇した。
その美貌はモデルや俳優と言っても過言ではないし、何より腰まで伸びている美しい銀髪にひきつけられる。
軽く
「入学前から生徒会入りかよ~やっぱSランクは優遇されてんな~」
「それに
「そんなわけないだろう~金持ちの家に生まれて最強で美人だぜ? 二物どころか三物くらい
大勢の生徒から
それは俺が想像するよりも
周りから期待されるってどういう気持ちだろう…………俺はそういうのを体験したことがないが、きっと大変なんだろうなと思う。
生徒会長の話を聞き流しながら、美しく輝く彼女に目を奪われ続けた。
入学式が終わり、クラスにやってきた。
そこで一つ困ったことになった。周りの────特に男衆から刺すような視線を感じる。
その理由は、俺の前に銀色の天使がいるからだ。
Sランク探索者である
まさか同じクラスで、席順により俺の前に座っている。
黒板を眺めるだけで必ず彼女が視界に入る。
これはある意味
「では、これから軽く自己紹介をしてもらうか。席順からいこう」
担任の
みんな自分の名前や卒業した中学校のことを話したり、部活の予定などを話した。
そして、俺の前の番。目の前の銀色の天使が立ち上がる。
ふわりと揺れる髪は、映画でも見ているかのようで、彼女の甘い香りが広がった。
「
「「「…………」」」
「…………」
「「「???」」」
そして、座り込む彼女。
ええええ!? それだけ!?
周りからは「何をお高くとまってるんだ」と嫌みの声が聞こえてくる。
「ごほん。次」
「は、はい!」
急いで立ち上がると、勢いよく俺の椅子が後ろに倒れる。
大きな音に自分で驚いてしまうと、クラス中から笑いが起きる。
急いで椅子を立てて自己紹介をする。
「
名前を言った瞬間、周りがざわつき始める。
それもそうだよな…………目の前の彼女と同じ名前だから。
「得意なことがないので部活はまだ決めていません…………あと寮暮らしです」
名前以外は全く興味がなかったようで、クラス中に冷たい空気が広がるのを感じる。
「え、えっと…………仲良くしてくれると
無難に自己紹介を終えた。
◆
初日のカリキュラムが終わり、早速寮に向かう。
寮は全部で三棟あり、それぞれ一年生、二年生、三年生の建物だ。
正面玄関の上に大きな看板でそれぞれ一、二、三と表記されている。
事前に言われていた通り、一の看板が掲げられた寮に入った。
「初めまして。寮母の
入ってすぐにとある女性が声をかけてきた。
「あれ? どうして僕の名前を?」
「寮母ですから、これから寮暮らしの生徒達の顔と名前は既に覚えています。こちらにルールブックがありますので、必ず目を通しておいてください」
年齢は四十代くらい、年齢以上に
ただ……入学前から寮暮らしの俺達の顔と名前を覚えているくらいだから、その優しさは本物だと思う。
玄関で少し待たされると、数人の生徒がやってきてまとめて説明を受けた。
俺の部屋は三階の三〇七号室。部屋の中は十畳と広く、ベッドが一つ、机と椅子が一組、クローゼットもある。それに一人一室与えられる。
寮といえば、共同部屋のイメージがあったけど、
それを知らずに入った俺は、寮生の中でも既に浮いた存在になっている。
正直……知っていれば、別の高校にしていた。手厚くサポートしている時点で気付くべきだったな……。