第2話 初めてのダンジョン ③

 新しく獲得したスキルの検証と共に、戦いをも制して、倒した十二体のうさぎ魔物を解体する。

 皮や骨、肉と共に五センチの紫魔石が見える。全部で十二個だ。

 入門書に書いてあった一~三センチの魔石よりも大きいので違うものなのか……?

 悩んでも分かるすべがないので、ひとまず、全てを異空間に収納した。

 それから魔物の気配から身を隠しながら道を進むと、道が二つに分かれて、左側は遠くに見えるお城に向かうと思われる道と、右側はその逆方向に続いていた。

 もちろん目指すのは右側。

 こちらの道にも当然のようにうさぎ魔物がいて、さらには子豚魔物もいた。

 Eランクダンジョンらしい弱い魔物ばかりなのが唯一の救いだ。

 少なくともレベル0の俺でも倒せるんだから、余程弱いのだろう。

 あのティラノサウルスは、おそらくフロアボスと呼ばれている魔物に違いない。もしかしたらイレギュラーだったりして……。

 フロアボスというのは、各ダンジョンの最下層に存在する魔物で、特殊個体として君臨しているらしい。

 イレギュラーというのは、本来のランクには生息しないはずの強力な魔物が現れることを指し、出現する確率は宝くじを当てるように低いと言われているが、実際存在しているらしい。

 もしティラノサウルスがイレギュラーだったなら、宝くじに当たったのか。

 まぁ、宝くじなんて頼らず、魔石や素材を売って少しでも家計の足しにできるようコツコツ頑張っていこう。

 今はとにかく生き延びて、手に入れた魔石と素材を持ち帰ることだけを目標に、一本道を歩き続けた。

 道中でうさぎ魔物と子豚魔物を何十と倒した時、


《経験により、スキル『威圧耐性』を獲得しました。》


《経験により、スキル『恐怖耐性』を獲得しました。》


 ん? 新しいスキルを手に入れたのはいいが、威圧と恐怖なんて感じてないんだけど……? もしかして俺のレベルが0だからなのか……? それならそれで非常にありがたい。

 レベルが0から上がる気配がないので、それならせめてスキルとやらをたくさん獲得して『頑張っていれば、報われる日が訪れると思う』という言葉を体現したい。

 Eランクダンジョンではそれなりに戦えるようになって小型魔物達には勝てるけど、Eランクダンジョンなんてダンジョンの中では最下位だから大した戦力にはなれない。

 それなら戦いで力になれなくても、周囲探索とかでメンバーのサポートくらいはできるかもしれないし、それならパーティーを組めるかもしれない。

 ここでうぬぼれていては、難しいダンジョンに入った際、メンバーに迷惑を掛けてしまう。なので、できうる限りたくさんのスキルを獲得する方向で頑張ろうと思う。

 そう思いながら道を進んでいくと、霧がかかった暗い景色の中、はるか遠くに小さな光が見え始めた。

 直感でそこが出口だと感じた。

 俺は迷うことなく、光に向かって全力で走って、どんどん大きくなった光に飛び込んだ。


 ◆


「きゃああああああああ!」


 気が付くと、目の前に受付のお姉さんがいて、俺を見て急に叫びながら後ろに倒れ込んだ。


「あれ!? だ、大丈夫ですか?」

「び、びっくりした! あなたね! 受付に入る時くらい物音を立ててちょうだい! ん? あなたって昨日の生徒さんじゃない?」


 彼女が話した言葉に違和感を覚える。


……ですか?」

「そうよ。来たでしょう?」


 まさか……あれから一日もっていたのか?


「えっと、今日って何日ですか?」


 彼女はカウンターに置かれていた小さなカレンダーを俺に見せてくれた。

 そこに書かれている数字は、俺がダンジョンに入ってから一日経過していることを示していた。


「丸々一日…………」


 気絶していた時間が思っていた以上に長かったようだ。

 それを考えたら、よく命を落とさなかったなとあんした。


「昨日はそのまま帰ったんじゃないの? ライセンスはいらないの?」

「えっ?」


 受付のお姉さんの質問に間抜けな返事をしてしまった。


「まだライセンスもないんでしょう? ダンジョンに入るも入らないもライセンスがあれば、色々便利だからライセンスだけでも付与をおすすめするわよ?」


 というのも、ライセンスを嫌う人もいて、中にはライセンスの付与を受けない人もいる。

 だからなのか、俺がそういう人だと勘違いしたみたいだ。


「そ、そうですね。せっかくだからお願いします」

「はい。ではこちらの箱の中に右手を入れてちょうだい」


 さっきのやり取りですっかり雰囲気が壊れて、丁寧語ではなくなったようだ。

 俺は彼女に言われるがまま、自分の右手を箱の中に入れた。

 箱の中から黒いもやが少し漏れてくる。


「えっ? 黒い……もや?」


 おそらく潜在能力のもやだと思われる。


「俺は生まれながらレベル0なんです」

「えっ!? レベル……0?」

「ええ」


 初めて見る現象なのか、彼女があたふたするが次第に落ち着きを取り戻した。


「取り乱してしまってごめんなさい」

「いえ。大丈夫です」


 受付のお姉さんは申し訳なさそうに言った。

 でも一応Eランクダンジョンなら戦えることがわかった。

 強力な魔物を倒せなくても、小さな魔石を集めて売れば、お小遣いくらいにはなるはずだ。

 それなら家計の助けにもなるし、妹が欲しがる物を買ってやれるし何の問題もない。

 ゆっくり手を引くと、右手の甲に『ライセンスの印』が刻まれていた。


「おめでとう。これで君も正式な探索者よ。探索者はダンジョンに潜る代わりに、常に危険が隣り合わせなのを理解して潜ってほしいの。ダンジョンで命を落とす探索者もたくさんいるわ。入る時は、仲間と一緒に入るか、自分のレベルと難易度とよく相談して決めてね」

「ありがとうございます」


 探索者になるための手続きにかかる費用は全て無料となっている。これは国が探索者を増やすためにやっていることだ。

 でも彼女が言っているようにダンジョンで消息不明になる探索者も多くいるのが現状だ。

 だから潜在能力のランクで差を作ったり、ダンジョンに入るにもレベルや潜在能力を求めたりする。

 外に出ると、上空を飛んでいる飛行船から、探索ランキングが発表される。


「今回のランキングでは何と新しい探索者がランキング一位になりました~! ですが、か名前が載っておらず、その名は『???アンノウン』となっております! しかも、その探索ポイントは圧倒的一位! この数字は歴史上、今まで見たことがない圧倒的な数字です~!」


 へぇ……探索ランキングといえば、ダンジョンで探索を行うと、勝手にポイントが計算され、女神様が世界にもたらした『探索ランキング石碑』に百人まで表示されるはず。

 今の一位は『???アンノウン』と書かれていて、隣に書いてあるポイントも二位のポイントと桁が一つ違うくらい離れている。


「一位か。いいなぁ…………俺もいつか探索ランキングに載れたらいいなぁ」


 まぁ、載りたい理由なんて特にはない。ただの憧れの一つだ。

 それよりも俺はお金を稼いで、生活を安定させたいのが最終目標だ。




 その日。

 突如現れた新生『???アンノウン』により、世界は大きく変わることになるのだが、それを知っている人は誰一人────アンノウン気付いていなかった。

刊行シリーズ

レベル0の無能探索者と蔑まれても実は世界最強です3 ~探索ランキング1位は謎の人~の書影
レベル0の無能探索者と蔑まれても実は世界最強です2 ~探索ランキング1位は謎の人~の書影
レベル0の無能探索者と蔑まれても実は世界最強です ~探索ランキング1位は謎の人~の書影