プロローグ

「……わたしは好きだから」


 生放送の本番中に思わずこぼれた自分の言葉に、せんぐうすずねはおどろいた。

 けれど、それもいつしゆんだった。不思議なことに、どうようはしなかった。ハッとはしたが、あっという間に腹がわっていくのがわかった。

 昔からそうだった。

 度胸がすごい、とめられた。たいに立って、マイクを前にすれば、すぐわる。

 こわくなんか、ない。

 逆に、向かいの席で、かりんは混乱した顔でこちらを見ていた。

 大きく見開かれたひとみれ、わずかにかんだなみだをせき止めている長いまつげふるえている。ななめ向かいに置かれたタブレットにれる指は固まったままだ。

 だけど、先刻まで青ざめていたほおに、ほんのりと赤味がもどっている。

 だったら、いい。

 調整ブースの窓の向こうで大人たちがどうようしているのがイヤモニからもわかったが、すずねは無視した。

 今、伝えなければならない──最強の味方が、ここにいるってことを。


「……これ、営業トークじゃないから」


 すずねは、まっすぐにかりんを見つめて、はっきりと言った。


「──わたしは、あなたが好き」

刊行シリーズ

わたしの百合も、営業だと思った?の書影