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《濡羽の聖女》とは、一体何なのか。俺も、全てを知っているわけではない。
曰く、人ならざる存在。古よりこの地球に存在しており、あらゆる『奇跡』を内包した、人智を超えた何か。その力は動植物の生命はおろか、この星に流れる時すら操る。
彼女の力を用いれば、それこそ神の如く振る舞うことも可能。
しかしながら、聖女は誰のものにもならない。『ある条件』を満たさねば。
その条件とは、聖女の力の残滓──《落とし羽》をより多く保有する、というものだ。
そうすれば、己のそれを取りに戻った聖女が、やがていつか顕現する。
《志々馬機関》は、聖女に対し各々が『願い』を抱えた者で構成された機関だった。
無論、所属していた俺も、聖女へ『願い』を持っていた。
全部過去形なのは、もうとっくに《志々馬機関》は解体されてしまっているからだ。
理由は単純。《濡羽の聖女》の完全消滅による、存在意義の消失。個々人の『願い』という我欲で繫がった集団が、その大本を絶たれたとなれば、継続する必要などどこにもない。
俺の戦う理由も。願う理由も。生きる理由も。全部──
「犀川。以前提出した企画書だが、全面的にボツだ。練り直せ」
「え」
「顧客のニーズに合っていない。市場調査データをよく見ろ。新卒かお前は」
「マジですか……すみません」
──とはいえ俺の人生はまだまだ続く。闘争とはまた別種の戦いが、今の俺にはある。
その最たる例として、俺は朝礼後早々に、部長から呼び出されお