《第一話》 ②


ぬれの聖女》とは、一体何なのか。俺も、全てを知っているわけではない。

 いわく、人ならざる存在。いにしえよりこの地球に存在しており、あらゆる『奇跡』を内包した、じんを超えた何か。その力は動植物の生命はおろか、この星に流れる時すら操る。

 彼女の力を用いれば、それこそ神のごとく振る舞うことも可能。

 しかしながら、聖女は誰のものにもならない。『ある条件』を満たさねば。

 その条件とは、聖女の力のざん──《落とし羽》をより多く保有する、というものだ。

 そうすれば、己のそれを取りに戻った聖女が、やがていつか顕現する。

機関》は、聖女に対しおのおのが『願い』を抱えた者で構成された機関だった。

 無論、所属していた俺も、聖女へ『願い』を持っていた。

 全部過去形なのは、もうとっくに《機関》は解体されてしまっているからだ。

 理由は単純。《ぬれの聖女》の完全消滅による、存在意義の消失。個々人の『願い』という我欲でつながった集団が、その大本を絶たれたとなれば、継続する必要などどこにもない。

 俺の戦う理由も。願う理由も。生きる理由も。全部──


さいがわ。以前提出した企画書だが、全面的にボツだ。練り直せ」

「え」

「顧客のニーズに合っていない。市場調査データをよく見ろ。新卒かお前は」

「マジですか……すみません」


 ──とはいえ俺の人生はまだまだ続く。闘争とはまた別種の戦いが、今の俺にはある。

 その最たる例として、俺は朝礼後早々に、部長から呼び出されお

刊行シリーズ

組織の宿敵と結婚したらめちゃ甘い3の書影
組織の宿敵と結婚したらめちゃ甘い2の書影
組織の宿敵と結婚したらめちゃ甘いの書影