《第二話》 ③
わたしとろうくんの過去を知っている人は、あんまり居ない……と、思う。
だからこそ、わたし達と面識がないのにそれを知っている人は、危ない。
ろうくんは、そういう危ない人達に向けて、もっと危ない顔をする。
そんなのはもう、必要ないのに。そういう顔は、しちゃいけないのに。
「あの、おじいちゃん。どうしてわたし達のことを?」
「孫が何度かオメェらの写真を見せて来た。そんなハイカラな髪色、見間違えるわけねェ」
「あ、いや、わたしのこれは《
そこまで言い掛けた時点で、わたしはようやく思い至った。この場所を教えてくれたのは
「……孫って、もしかして、
「そうだ。あの馬鹿、何も言ってねェのか。お陰で久方振りに
「申し訳ない。
「あれ? でも、
「もう刀は打ってねェ。
過去に
「嬢ちゃん。《
「え? えーっと……」
昨日かぼちゃをスパスパしてました!! とはさすがに言えないよね……。
「げ、元気です! 昨日もアルコールをたくさん浴びて……」
「飲んだくれかよ……」
「おい。まだ折れてねェのか?」
「へ? 折れて……ないです。大切にしてるのでっ!」
もう《
「──あらゆる道具には役目ってモンがある。その役目を果たすまで道具は生き続け、そして果たせば死ぬ。包丁が折れたのは、駄目ンなったからじゃねェ。
「面白い考え方ですね。人間が道具を壊したのではなく、道具側が死を選んでいる、と」
「ちょっとむずかしいお話ですな……」
「《
「えっと、もしあれでしたら、お返ししましょうか? 《
「馬鹿言うンじゃねェ、嬢ちゃん。ガキを送り出すことに喜ぶ親は居ても、出戻りするガキに喜ぶ親なんざ居ねェだろ。《
おじいちゃんはそこでようやく歯を見せて笑った。その笑顔は、
「で、包丁はどうする? その《
「ろうくんがこれでいいなら、これがいいかなーって」
「じゃあこいつにしようか。すみません、買います」
「毎度。チンタラ悩まねェのは──」
「おい
お会計をしようとしたら、店先でいきなり大きな声が。びっくりした……。
何事かと二人で振り向くと、ガラの悪そうな人がおじいちゃんを
「商売中だ。帰ンな」
「知るか! こっちが先だ! ジジイ、俺は前に出せる限りのポン刀用意しとけってテメェに言ったよなぁ!? 準備出来てんのか!?」
「最近のヤクザは看板も読めねェのか。ウチは金物屋だ。刃物はあっても刀は置いてねェ」
いや~な単語が耳に入った。怖い人はずんずんとこちらに詰め寄って、おじいちゃんに唾が全部掛かりそうなぐらい顔を近付けている。ちらっと首の後ろから刺青が見えた。
「誤魔化すんじゃねーぞ、クソジジイ。テメェが刀を打っては筋モンにバラ
「誰に聞いたが知らねェが、半世紀前の話だ。仮にその刀が残ってたとして、そんな
「……痛い目に遭わねえと分かんねえか、オイ」
怖い人が右腕を振り上げる。その瞬間、わたしは反射的におじいちゃんの前に
「
「嬢ちゃん。オメェらには関係
「何だテメェ?」
「先客です! ご老人に乱暴するのはよくないでしょ! やめなさい!」
「
「カタギじゃなくて
「おい《羽根狩り》。嬢ちゃんはアレなのか」
「国語が苦手なんです。
「オメェもアレなのか……」
後ろでおじいちゃんとろうくんがひそひそ話をしている。
え、わたし別に変なこと言ってないよね?
カタギってカタギさんって
「……。バカ女が。顔
「あっ、ろうくん……」
音速でろうくんが怖い人をぶっ飛ばしてしまった。「狭い店内で暴れンな」とおじいちゃんが言っているけれど、ろうくんはそれを見越して地面に